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5-5. 法政会議(五)
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「ん…っは、はぁっ」
人が消えて、大広間に隼樺と二人きりになったことが確認された後、ようやく桃雪は彼の手から解放された。
(なんで、こんなこと、に)
自分の身に何があったかも分からず、ただただ情けなかった。
隼樺には桃雪がどう見えていようか―――ひどく滑稽だっただろう、狼狽を隠せない彼の姿は。
桃雪は、初めて人前、それも隼樺の前で果ててしまった恥ずかしさより、失態が有無を言わさず彼に補われたことの方が堪えていた。
夢ならばどれほど良かったか、と思うも、残念ながら腿をすり合わせると、べとべとした粘っこい脚が褌につっこまれたままである。
(潮くさい)
なにの臭いか分からないが、どこか磯っぽい臭気が身体を覆っていて、惨めだ。
急襲のせいで衣はずぶ濡れ。思わず涙が出そうになった。
その時、どこかから笑い声が漏れた。
隼樺だった。
桃雪は呆然と彼を見た。
腰を抜かした桃雪の前で、隼樺は温もりのない薄っぺらな笑みをこぼしていた。
彼は可笑しそうに口を開いた。
「その食材は今晩のつまみにする予定だったのですが、…あなたが先に頂かれてしまいましたか」
「食…材?」
言っている意味が分からず困惑していると、隼樺がゆっくり後方を指さした。
桃雪もそちらを見ると、毛氈の上に置かれた甕は音もなく倒れていた。
そして彼は、ひと自分の衣からはみ出た、異様な薄赤く長いものに気づく。
「蛸っ」
「惜しい!種の源典は同じと言われていますが、これは両生類です」
隼樺は嬉々として答えるが、桃雪は何も面白くない。
(否)
その能天気な口ぶりから、桃雪はある恐ろしい仮説に行き着く。唇がわなないた。
「…お前、私が囚われている間、この脚が見えていたな?」
「はい?」
「大臣の口ききをしている間も、私が発言していたときも、貴様は私にこれがまとわりついていることを知っていたな?」
「…えぇ」
隼樺が桃雪を測るような目で見下ろす。桃雪は怒りで全身が戦慄した。
「ではっ…お前は、私がこうなることを分かっていて、あえて大衆の前で話すのを止めなかったのだな!?」
「…坊っちゃまは、動物に愛されるのがお上手ですから」
激昂した桃雪に、隼樺はこの上なく艶な微笑を浮かべた。
人が消えて、大広間に隼樺と二人きりになったことが確認された後、ようやく桃雪は彼の手から解放された。
(なんで、こんなこと、に)
自分の身に何があったかも分からず、ただただ情けなかった。
隼樺には桃雪がどう見えていようか―――ひどく滑稽だっただろう、狼狽を隠せない彼の姿は。
桃雪は、初めて人前、それも隼樺の前で果ててしまった恥ずかしさより、失態が有無を言わさず彼に補われたことの方が堪えていた。
夢ならばどれほど良かったか、と思うも、残念ながら腿をすり合わせると、べとべとした粘っこい脚が褌につっこまれたままである。
(潮くさい)
なにの臭いか分からないが、どこか磯っぽい臭気が身体を覆っていて、惨めだ。
急襲のせいで衣はずぶ濡れ。思わず涙が出そうになった。
その時、どこかから笑い声が漏れた。
隼樺だった。
桃雪は呆然と彼を見た。
腰を抜かした桃雪の前で、隼樺は温もりのない薄っぺらな笑みをこぼしていた。
彼は可笑しそうに口を開いた。
「その食材は今晩のつまみにする予定だったのですが、…あなたが先に頂かれてしまいましたか」
「食…材?」
言っている意味が分からず困惑していると、隼樺がゆっくり後方を指さした。
桃雪もそちらを見ると、毛氈の上に置かれた甕は音もなく倒れていた。
そして彼は、ひと自分の衣からはみ出た、異様な薄赤く長いものに気づく。
「蛸っ」
「惜しい!種の源典は同じと言われていますが、これは両生類です」
隼樺は嬉々として答えるが、桃雪は何も面白くない。
(否)
その能天気な口ぶりから、桃雪はある恐ろしい仮説に行き着く。唇がわなないた。
「…お前、私が囚われている間、この脚が見えていたな?」
「はい?」
「大臣の口ききをしている間も、私が発言していたときも、貴様は私にこれがまとわりついていることを知っていたな?」
「…えぇ」
隼樺が桃雪を測るような目で見下ろす。桃雪は怒りで全身が戦慄した。
「ではっ…お前は、私がこうなることを分かっていて、あえて大衆の前で話すのを止めなかったのだな!?」
「…坊っちゃまは、動物に愛されるのがお上手ですから」
激昂した桃雪に、隼樺はこの上なく艶な微笑を浮かべた。
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