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152、クエストの裏側にある思惑と闇

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 ヴェルデ・オームスと名乗る少年は、ウェダルフよりも背は高く、全体的に華奢な体格と優しげな雰囲気のする美少年でフィーロさんと同じ金色の瞳の色と、もしかして父親譲りなのか緑の髪を三つ編みでまとめていた。

 「会えてよかったよヴェルデ君。お母さんからウィスの街に行ったんじゃ無いかって聞いたけど……どうしてここに?」

 少し前なのに、うろ覚えだった情報が名前をきっかけに色々思い出せてくる。
 確か彼はマウォル国とフェブル国の国境にあった村から、モンスター討伐をしなくなったギルドに直談判をするため……とかだった気がするが、それがどうしてウィスから1日かかる村に留まっているのだろうか?

 「………それについて、今は語る時間が無いんです。もう夜が来ます。先ほどのヴェルウルフはほんの一部です。急いで村へ行きましょう!!」

 「本当だ! 急いで村へいこう!!」

 日はもう落ち始め、森の奥の方は紫色に染まっていた。
 あと少しでここも危険地帯になる。そう直感した俺たちは急ぎ村へ走り、なんとか防波堤の内側へ入ることができた。
 肝心の防波堤はというと、なんとも簡素だったが、殺傷性は高く先が尖った木が村の外へ向けられていた。
 村の中は獣くささのほかに鉄錆の匂いも混じっており、村の凄惨さを物語っていた。

 「ここは……他のどんな村よりも酷い有様ね。よくここまで保てているわ………」

 「保てているのではなく、保てるようにしているのです。そうでなくてはこの村はとっくのとうに獣に喰い荒らされているでしょう」

 キャルヴァンの独り言に近い言葉に、聞き覚えのある声が村の奥から聞こえ、そちらに顔を向けるとそこにいたのは、つい昨日までウィスの街で会っていたサンチャゴさんだった。

 「皆さん昨日ぶりですね。随分早い到着ですが、クエストはここ一つだけですか?」

 「サンチャゴさん⁉︎ どうしてここに……!! いえ、それよりもどうしてクエストがひとつだと思ったんですか?」

 “随分早い”というのはおかしくないか?
 だって現にサンチャゴさんだって俺たちよりも先にこの村に着いているにも関わらず、なぜ随分早いと思ったのか?
 そもそもクエストの秘密について教えたのはサンチャゴさん自身だ。なのになぜ俺たちが一つだと確信めいて言っている?

 「…………なるほど。それは他の村に悪いことをしてしまったね。明日私が君たちの行った村へ向かうとしよう。それよりもヒナタ、昨日君たちに敢えて伝えなかった秘密がもう一つあるんだ。……ここまで辿り着けた君たちに敬意を払って、実地でもって教えよう。ついて来てくれないか?」

 なにがなんやら分からないまま、一人勝手に納得し、理解をしたサンチャゴさんに知らない自分が悪いのかの様に感じ、ムッとしてしまう。いや、怒るのは筋違いなのは分かっているのだが、勝手に一人ごちられるというのも、やられる側としたら不快なのだとやられて初めて実感した。
 ………俺もやってしまいがちだから気をつけないとな。

 「先生! ボクは先に準備をしてきます! また後でお会いしましょう!!」

 「十分準備して、君は一人突っ走ってしまう傾向があるから、十分周りを見て動くようにね。ではまた後で」

 意外な関係性にさっきからビックリしどうしだが、今は無用のツッコミは抑え、ひとまずサンチャゴさんの後をついて行くと、サンチャゴさんの家なのか、勝手知ったるといった様子で、玄関口を開け、廊下を抜けてすぐの部屋に招き入れる。

 「時間があまり無いので、お茶も出さずにすまないが今日君たちが受けたクエストについてだが、村はいくつ立ち寄ったんだい?」

 「村……ですか? ここ含めたら3つの村のクエストを受けてここまで来ましたが、それが何か問題でも?」

 「平時であれば問題はないが………村の人々の様子を見て、ヒナタは何か気づくことはなかったかい?」

 平時であれば問題ないが、今回のような事態では問題があったと言わんばかりの言い方に、ますますはてなが浮かぶが、ひとまずは質問に答えるべく、今日行った村二つについて改めて考えてみる。

 まずどの村にも感じた違和感、それは異常な歓迎だった。
 ただクエストを受注してくれた人が来たというレベルではない。村人の中にはやっと眠れるなんて、およそ今回のクエストとあまり関連性が見出せない喜び方をしていた。
 あの時は睡眠不足でネムリソウのことを指していたのだと思ったが、そもそも本当にそうだったのか?

 それに最初の村は泊まることに固執していた。どう考えたって昼前でまだまだ活動するには困らない時間なのに、なぜ泊まるものだと思ったのだろうか? それに断った時に言っていた……“他も酷い状況だと聞いた”という言葉。
 ………なんで他の村のことを引き合いに出した? なぜ他の村に泊まるのだと思ったんだ?

 そして2回目の村の態度の急変と、村長の何か言いたげだったあの様子……あの時は俺達が知らないルールがあると思っていたが、サンチャゴさんが言った、他の村に悪いことをしたという言葉。

 これってつまり………

 「同じ依頼主で違うルートなのに、同じ依頼内容。それにルートによってはランクすら変わってくる。…………まるで闇市場みたいなやり口ですね」

 「闇市場?…………いいね、じゃあ今回のことは闇クエストとでも名付けようか。してこの闇クエストの詳細はどう考えているのかい?」

 「……まず大事な前提として、ギルドはモンスター討伐を大々的に禁止している、という所です。依頼すら受け付けていない。そんな状況の中生まれたのが今回の闇クエストですよね?」

 「………それで?」

 未だ表情を崩さないサンチャゴさんに不気味さを感じるも、こっちだって引くわけにはいかない。そうだ、巻き込まれたんだ、きっちり言い訳の一つでも聞かないと腹の虫が治らない!

 「恐らくですがモンスター討伐で一番困ったのは商人だったのでしょう。その理由は村から村へ行くのに、シュンコウ大陸内では、警備の魔属すら付けられなかったから。だから商人は警備や討伐を諦め、安全に通れるルートを作ることにした。そうすることにより、魔属が先々モンスターを討伐してくれると期待してのことだったのでしょう。それが同じ依頼内容で複数ルートある理由です。ですが、ここにもうひとつの思惑が絡んできた。………それがルート上にある村の存在です」

 俺の言葉を実に楽しそうに聞いていたサンチャゴさんが、村の存在を出した瞬間に顔色をかえ先ほどの聞く姿勢ではなく、何かを見極めようとするかの如く鋭い眼差しに変わる。

 「モンスターは基本的に夜行性です。だから大抵の魔族は昼に移動をし、そして夕方には村に着くように計画するでしょう。その時たまたまモンスターに襲撃されても……たまたまそうなっただけで、そこに故意的なものはない。と、言い訳できますよね?」

 「お見事。じゃあ最後に聞くけど、複数ルートは商人の思惑なら、偶発的なモンスター討伐は誰の思惑だと、ヒナタは考えているのかい?」



 気づいている。
 それが誰の、なんの思惑なのか……皆目見当がついていないと。
 村長や村人だけの思惑ならそれに乗っかる謂れは魔属側にはない。では魔属側の思惑? いやそれも考えにくいだろう。
 モンスター討伐はシュンコウ大陸だけで、カカ大陸では可能なのだ。暴れたいだけや、武勲を上げたいのならカカ大陸のクエストを受ければいいだけだし………

 「ふっ………ごめん、ちょっと意地悪だったね。ヒナタの考えが見事だったからつい、これも分かってると思って聞いてみたけど、ギルドに入ったばかりの君には分からない話だったね」

 俺が無言でサンチャゴさんを睨むと、そんなことも可愛い癇癪と言わんばかりに肩をすかし笑顔を見せる、そんな様子に腹が立つとは違う、今まで感じたことのない屈辱にも似た感情が湧き上がる。

 ………この人には敵わない。絶対に。

 「答えはね、実は簡単なんだ。ギルドの中には成り上がり以外の目的を持ってギルド活動をしている者たちがいる……それが今回を機に、反旗を翻して村や商人と結託したのさ」
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