細めの雪にはなれなくて

雨門ゆうき

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崩壊の序章 其の四

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 並木道の反対側のイチョウの木々と、その向こうの木々をできるだけ見つめながら下書きをしようとするかおり。となりに座って同じように下書きを書き始めていた奏介は、すぐにかおりの様子がおかしいことに気づいた。「かおり、どうした??目がおかしい…よ??」心配そうに顔を覗き込む奏介。奏介に話しかけられはっとして答えようとするが、何故か前をみたまま目線が外せない。かおりは前を見たまま答えた。「奏介…だめ、目線が外せないの。見たくないのに…見たく…。」どんどん涙目になりながらそう答えるかおりの様子に、奏介は急いでかおりの前にしゃがんで、自分を見るように促す。

 「僕を、僕を見て。何も見なくていいから、僕の眼だけを見て。」しかし、依然かおりの眼はどこを見ているかわからない、視点があってないようなうつろな状態のままだ。そしてその状態のままかおりの息はどんどん上がってゆき、かおりはその場で倒れこんだ。地面に倒れこんで尚、息が荒いかおり。過呼吸だと気づいた奏介はバッグに入っていたカフェの紙袋を取り出しかおりの口にかぶせる。「大丈夫、大丈夫。そばにいるから、ゆっくりゆっくり息を、ゆっくりね…」その奏介の呼びかけと紙袋のおかげでかおりは次第に息を整えていった。「ご、ごめん、奏介…ここは…嫌だ、人がいないところに連れて行って…。」息を整えながらそうつぶやくかおりに、奏介は急いでかおりを背負い、大通りに出てタクシーを捕まえ、運転手に自分のアパートの住所を伝える。タクシーに乗り込み、座らせるとかおりはすっと意識を失ってしまった。

 気付くとかおりはベッドの上にいた。今朝にも見た天井が見え、横を見ると奏介が座り込んでいた。壁掛けの時計の短い針は十時を指している。そうか、私は意識を失って奏介のアパートに連れてきてもらったんだな。「ごめん、急に倒れて。大変だったでしょ?運ぶの。」そう言いながらかおりは体を起こした。「いや、それは全然大変じゃないよ…それよりも、かおりなにかあったんでしょ?今珈琲持ってくるね。」奏介はそう言って立ち上げると、台所に向いやかんを火にかけた。「うん。実はね、私おかしくなっちゃったかも。あのね…」「ちょっと待って。いいよ、ゆっくりで。珈琲持っていくからそれからゆっくり聞くよ。」あくまで優しく語りかける奏介。「うん、ごめん。ありがと。」そう言うとかおりはもう一度ベッドに寝転んだ。

 ちゃんと話さなくてはいけない。私はきっと本当におかしくなってしまったんだ。何も言わないと彼に迷惑をかける。そう思いながら気持ちの整理をつけるかおりは、奏介がベッドに来るのを複雑な気持ちで待った。
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