細めの雪にはなれなくて

雨門ゆうき

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ひと時の休息 其の二

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 ベッドの上で待っていると、奏介がベッドのそばのテーブルにマグカップを置く。「まずは、暖かい珈琲を飲んで。落ち着こう。」そう言って奏介はマグカップを私に手渡した。かおりは自分の状況を語り始めた。「私ね、奏介。仕事始めたでしょ??仕事が辛いの。仕事が辛いのは当たり前ってのもわかってる。辛いって話はしてたでしょう?でも、あの会社の辛さはやっぱりちょっと異常なんだよ。初めは電話ばかりして、断られて、怒鳴られての毎日だった。そんな中で、私だけはその仕事を抜け出すことができて、今は外回りの営業をやってるんだけど、これはこれでめちゃくちゃな件数周らせられるし、達成のノルマも凄くて、出社が怖くなることもある…。」語りながら珈琲を口に含むかおり。奏介はただただかおりの眼を見て、静かにうなづいてくれていた。

 「それでね、だんだんと会社に行くとき息苦しくなったり、外を歩いていても人だけがぼやけて見えたり、くすんで見えたり?色で言うとどの人もグレーで、表情もないように見えて。」奏介が尋ねる。「それは、、僕もそう見えていたの??」かおりが一呼吸おいて答えた。「ううん、奏介は違うよ。自分が好意を持っていたり、親近感を持っている人はそうは見えないの。だから、同期の友達とか……も、全然普通だよ?だけど、先週ね…」そう言い始めたところでかおりの眼から涙があふれだした。我慢していたわけではなかった。本当に突然に堰を切ったようにあふれ出したのだ。「ごめん、、ちゃんと話す。」涙声で鼻をすすりながら話そうとするかおりに急いでティッシュを渡す奏介。

 「いいよ、ゆっくりって言っただろ??ほら、また珈琲飲んで。」促されたかおりが珈琲を啜ると、奏介が続けた。「先週、なにかきっかけがあったんだね。でも、話を聞いていると同期の子たちも皆大変そうだよね。。今も監視された中、電話ばかりしている人たちもいるんでしょ??」「うん、そう。それなの。私はまだいいよ、外に出られるだけ。それで耐えきれない人は辞めていったりしたけど、我慢して耐えている人もいたの。それが唯一の女性の同期で…その…彼女が会社のト、トイレで首をね…」そう言いかけたところで、またかおりの呼吸が激しくなりだしたのに気付いた奏介はかおりを抱きしめた。

 「いいんだよ、わかった。かおりは何も悪くないよ。大丈夫、大丈夫…。」そう言いながら同時にかおりの背中をさすってこう続けた。「休もうよ、会社。だめ??」「ううん、ダメじゃないけど休まない。私が泣き言言って休んだりしたら、彼女に申し訳ないから。」「そんなことないよ。彼女だってかおりまで追い詰められることなんて望んでないよきっと。」奏介はかおりが首を横にしか振らないのを抱きしめた肩越しに感じ、かおりの確かな意思を感じながらも、それに得も言えない不安に襲われたのだった。
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