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うちの子は素直ですか?

うちの子は素直ですか?

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「──航貴がどこに行ったか?って、聞いてないのか」

大ちゃんの呆れた声がグサリと刺さる。

「聞いてません……」

聞いてないし、知らないから大ちゃんに聞いているんじゃないか。つい恨めしい目を向けてしまう。それを受けて大ちゃんは何か言いかけて、途中で口をつむんでしまった。少し考えるように上を向いて、視線が戻ってきたと思ったら今度はイタズラを思いついた時のような顔をしていた。

その顔、昔から変わってないわね!

「ま、聞いてないなら言えねえなぁ」

大ちゃんはニヤニヤ楽しそうである。私の目は更にジトーっとしてしまったことだろう。

季節は冬になった頃。
全く姿を見せなくなった神田さんがいよいよ心配になり、さりげなく探してみても、物陰を探してみてもどこにもいないことに気付いた。優子に探りを入れても知らないと言うし、大ちゃんに聞いてもこの通りだ。

いやいや、もう冬も終わるよ? 春来るよ?
いくらなんでもここまで綺麗にいなくなるもんかね。これミステリージャンルだったかな?

「……連絡、とってみたらいいだろ」
「でも……、避けられてるのかも……しれないですし。だって何も聞いてないですし。会いたくないから……そしたら迷惑かなって……」

言葉が徐々に尻すぼみになり、マフラーの中に吸い込まれる。

また大ちゃんの呆れたような視線が刺さる。だって、最後の日があれだったんだもん。イジイジしてしまうのもしょうがない……よね?


そんなイジイジしつつも季節は巡り、また夏が来た。

私はもう高三。なっちゃんも中三。
私は大学部へ内部進学するので、今年は余裕だ。三年前の努力の上にこの余裕が生まれたと思うと感慨深い。過去の私よ、ありがとう。未来の私は健やかです……!

今年は母の運転を辞退して、新幹線を使って祖父のところまで行くことにした。青春切符を使って途中下車の旅をするのだ。なぜ今まで思いつかなかったのか。思いついた時には自分の発見に恐れすら抱いた。天才が過ぎる。

天才かつ、デキル子の私は荷物を先に宅配便で祖父宅に送ったので、身軽な旅だ。新幹線に乗って初めての一人旅の幕開けである。まずは有名な洋風のお城を観光しに行くと決めている。新幹線のホームにもバッチリ到着できた。第一関門クリアである……が、

「──だから、なんで、ここにいるの!?」
「愛の力だね!」

東京駅のホームで新幹線を待っていると、誰かに後ろから抱きしめられたのだった。すわ痴漢かと、かなり驚いたが、抱き着いてきた人物の正体に気付いた時もかなり驚いた。GPS能力もここまで来ると怖い。

「なっちゃん、ますます大きくなったわね」
「成長期だからね」

久しぶりに見たなっちゃんは、去年より更に背が高くなっていた。私も高身長な方だが、更に大きい。180は超しているんじゃないだろうか。
顔つきも美人なのは変わり無いが、可憐な天使から美麗な男神へと変化を遂げた。これは神様も祝杯上げるレベルの成長度ね……!

ジロジロ顔を見ていたら、なっちゃんは少し照れた顔をしながら軽くキスを落としてきた。いやいや、催促ではない。公共の場ではやめなさい!

それにしても、どこから私のステキ計画が漏れたのか。おじいちゃんか? 母か? くっ……! みんな怪しく見える……! やっぱりなぜだか、なっちゃんは私の目的地を事前に知っていたのか、行く予定だった観光地まで案内してくれた。なぜ知っているのかと問い詰める気持ちは、なっちゃんが買ってきていた駅弁で霧散した。なんて気が利いているペットだろうか。美味しかったし、やっぱりなっちゃんがいると安心して旅に浸れることに気付いてしまった。このまま甘やかされて自立できなくなったら、なっちゃんのせいである。



目の前に立ちはだかる西洋の古城。映える。上がる。素敵!

去年、神田さんと映画館で「旦那様。寂しいですが、お幸せに。~記憶喪失は終わりか始まりか~ 」を見てから、ずっとここに行きたいと思っていたのだ。

「ふふふ、聖地巡礼ね……!」

ここが馬車が止まるところで、あそこが門で、とテンション高めに撮影している私の後ろで、なっちゃんはカメラを構える私を撮影している。そのショットいる?

「あぁ、あの映画のロケ地かぁ。みほちゃん、見たの?」

なっちゃんの行動を気にしていたらキリがないので、私は撮影に戻ることとする。あ、あっちは廊下のシーンで見たところ!

「うん、映画館でねー」
「ふーん。誰と?」
「あ」

しまった。
いつの間にか、探りを入れられていたらしい。はしゃいでいて、罠に気づくのに遅れてしまった。ソロリとなっちゃんの方を振り返ると、なっちゃんは面白くなさそうにジトーッとこちらを見ていた。これは、バレている……! 
べべ別に何にも悪いことはしてないもん!と視線で弁明するが、なっちゃんの目はジェラシーで燃えている。大火事だ。

スマホをポケットにしまい込み、なっちゃんを誰もいない通路の影に引き込む。怒っています!という顔をしていても、引っ張る私に大人しくついて来るんだから、やっぱりなっちゃんは可愛い。そして、だいぶ上の方になってしまった、なっちゃんの首に腕を回す。

「……なっちゃん。ちゅー、しよ?」
「な! みほちゃん!? 誤魔化されないよ!」

「……しないならいいけど」
「する」

少し引き寄せると、素直に顔を近づけて来た。なっちゃんのこういうところが、とても可愛いと思う。
唇が重なり、感触を味わうように唇を食む。どちらからともなく唇の隙間から舌を這わせ絡めた。

なっちゃんの手が私の腰を引き寄せ、体が隙間なく密着した。くっついた体から、なっちゃんの早い心臓の鼓動が伝わってきて、むずがゆい気持ちになった。

唇を離すと、間に銀糸が残り、また舐めとるように軽くキスをした。

「……誤魔化された?」
「まだ」

──なっちゃんのご機嫌とりは、まだ暫くかかるらしい。


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