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第34話 ドレスショップにて
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その日は予定通り、私はスクルさんに連れられ、ドレスショップの前にいた。
そして今、私の前には、私より少し年下に見える女の子と、年上の女性がいる。
「お姫様、紹介します。これがログ、そしてこちらが、俺の同僚のフラスさん」
「はじめましてアステさん、ログです。いつもお兄ちゃんがお世話になってます」
「え……スクルさんの妹さん!?あ、いえ、こちらこそ、私、スクルさんにたくさんお世話になっていて……」
思わぬ身内の登場に、私は慌ててしまう。そんな私にも、ニコニコと可愛らしく笑いかけてくるログさん。
「ならよかった!でも、お兄ちゃん……デリカシーない事言ってません?大丈夫?」
「ログ……あとで覚悟しておけよ?」
「はいはーい」
フォールスといる時と同じような光景に、私は思わず目を細めてしまう。
「初めましてアステさん。わたくし、フラスと申します。スクル君とは、同じ部署で働いてますの」
「フラスさんですね……はじめまして……あの、でも……」
私は、なぜこのふたりを紹介されているのか分からず、スクルさんに助けを求める視線を向けた。
そんな私に、スクルさんは苦笑しつつ説明してくれた。
「実は、式の当日、このふたりにお姫様の身の回りの準備の手伝いをしてもらおうと思って」
「そ、そうだったんですか!?でも、私なんかのために、本当にいいの……?」
慌てる私に、フラスさんは優雅に微笑みかける。
「うふふ、お気になさらないで。フォールス君のお嫁さんのお手伝いなんて、そんな光栄なことありませんもの。ぜひお手伝いさせてちょうだいな」
「ね!ぜひぜひ!」
続くログさんも、とても楽しそうだ。
そこまで言ってもらえるなら……と、私は頷く。
「わあ!よかった!いやあ、腕が鳴りますねえフラスさん」
「本当ね、ログ嬢。フォールス君のデレデレしてる顔が見れるかどうかは、わたくしたちにかかっているのよ……これは燃えるわ」
まるで悪巧みをしているかのようなふたりに、私は若干慄いてしまう。
「さ、こうしちゃいられないですよ!早速ドレス選びに行きましょ!」
「ふふふ、アステさんにはどんなドレスが似合うかしら」
私は、ログさんとフラスさんに両脇をガシッと掴まれ、抵抗する間もなく、お店の中へ引っ張られてしまう。
「あ、ああ、スクルさん……」
思わずスクルさんを振り返るけれど、彼は私と目が合うと、苦笑しながら手を振って、私を見送るだけだった。
***
お店にはあらかじめ連絡をしてくれていたのか、お待ちしてましたという言葉とともに出迎えられた。
準備が整うまでこちらでお待ちください、とソファに案内され、飲み物とお菓子まで出されてしまう。
店内はとてもおしゃれで、なんとも落ち着かない。ソワソワしてしまう。
「あらあらアステさん、そんなに緊張して……こういうところははじめて?」
「あっ……はい……」
フラスさんの質問に、初めては初めてよねと、そう返事をする私。そこにすかさずログさんの声。
「いやフラスさん、はじめてもなにも何度も来る場所じゃないですから!」
なんて早い反応……私は、ログさんのツッコミに感動さえおぼえてしまう。
「ふふふ、そうよねぇ。でも……あのフォールス君が結婚なんてね。しかも、こんな可愛らしいお嬢さんをつかまえるなんて、ふふふ、わたくしまで嬉しくなっちゃう」
「ほんとに!あれこれアドバイスした甲斐ありましたよね!」
初耳の話に、私は目を丸くする。
「あ……アドバイス……?」
「そうよ。女の子が喜ぶものって、何があるんでしょう?って、それはもう困った顔で聞かれたのよ?」
「みんなでああだこうだ考えましたもんね。結局、色んなもの味見しまくって、クライアさんおすすめの紅茶に決まったんですよね」
紅茶……紅茶……私は記憶を手繰り寄せる。
「あれはわたくしも気に入って、すぐに買いに走ったもの。アステさん、もう飲まれました?」
そこでやっと私は思い出す。フォールスの家に訪れた時に出された、あの香りのいい紅茶を。
「あ……ええ……多分、フォールスが入れてくれたのがそれなのかしら……とてもいい香りで……」
記憶の中から、あの香りが蘇る。フォールスとの再会に恐怖を抱いていた私を落ち着かせてくれた、花のような紅茶の香り。
「きっとそれですよ!フォールスくん、ちゃんと入れ方も教わってたし、いやあ……頑張りが報われてよかったねえフォールスくん……っていないけど」
「ふふ、アステさん、この話はここだけの秘密よ?影の努力をばらしたなんて知られたら、怒られちゃうもの」
そんな事があったのかと驚いている私に、フラスさんはお茶目に、人差し指を口の前に立てる。その仕草さえ優雅だ。
「ええ……心の中の宝箱に、大切にしまっておきます」
「ふふ、素敵な表現ね。わたくし、そういうのとっても好きよ。もしいつか、彼の愛を疑う日がきたら、そっとのぞいてごらんなさい。きっと、役に立つわ」
愛を疑う日。そんな日が、いつか来てしまうのだろうか。私の胸がチリっと痛んだ。
そこに、店員さんから声がかかる。準備ができたので、ドレスのある部屋に案内してくれるそうだ。
「じゃあ、行きましょうか!世界一のお姫様のドレスを探しに!」
まるで、冒険に出かけるかのように拳を振り上げるログさんの可愛らしさに、私はつい笑った。
***
ドレス選びは、想像していた何倍も大変だった。
私には、ドレスに対する憧れやこだわりもこれといってなく、できるだけシンプルなものを……程度に思っていた。
でも、フラスさんとログさんは、あれがいいこれがいいと、気づけば私は、すっかりふたりの着せ替え人形となっていた。何着試着したのかも分からないくらいに。
けれどそれは、私に悪意があることでなく、本当に真剣に、私と……フォールスのために考えてくれているのが分かって、この疲労さえも充実感のひとつのようだった。
結局、あれこれと試着した中で、奇跡的に、全員がこれだ!と思ったドレスに決まった。
ドレスに合わせるアクセサリーなども選び……というか、私にはどれがいいかわからず、結局フラスさんとログさんに選んでもらった。
長い時間をかけ、ドレス選びを終えた私たちは、来店時に案内されたソファに再び腰掛け、やっと一息つく。
私は、心地よい疲れに包まれぼーっとしてしまう。
でも、そんな私とは対照的に、フラスさんとログさんは変わらず元気に、鈴を転がすような声で楽しそうにおしゃべりに興じている。
私たちがドレス選びをしていた間のスクルさんはというと、色々と用事を済ませていたそうで、ただ、彼が店に戻ってきた後も、しばらく待たせてしまっていたそうだ。
申し訳ないと思う気持ちと、フラスさんログさんに時間をかけてもらったありがたさ。その狭間で、どう彼に言葉をかけるべきか悩む私だったが、スクルさんは待たせた事など気にする様子もなく笑う。
「もっとかかると思って覚悟していたので、問題ありませんよ」
「そうそう、大事な事なんだから時間かかるのは当然!気にしない気にしない!」
ふたりの言葉に、私の申し訳なさも少し和らぐ。
「でも、素敵なドレスが見つかってよかった。本番が楽しみですねえ、フラスさん」
「ええ、本当に楽しみ。フォールス君がどんな顔をするのか、今からわくわくしちゃうわ」
なかなか会話の隙が見つからず、お礼も言えていない私は、ようやくふたりにお礼を言う。
「あ、あの……ドレス選び、手伝っていただいて、本当に……ありがとうございます」
私ひとりだったら、たくさんのドレスに圧倒されて、きっとわけが分からなくなっていただろう。ふたりがいてくれて本当によかった。
私は深く頭を下げた。
「いやだわ、頭をあげてちょうだい?ふふ、わたくし、とても楽しかったのよ?お手伝いできて、本当に嬉しかったわ。ね?ログ嬢」
フラスさんがそう言い、ログさんもうんうんと頷く。
……と、そこでログさんが意外な事を言った。
「でも、わたしとフラスさんがお手伝いする事は、誰にも秘密ですよ?」
「そ……そうなんですか?」
なぜ秘密なのか、理由が思い浮かばず、私はおろおろふたりを見る。
「ええ、そうでしょう?スクル君」
「はい。ミスオーガンザの事を考えると、そうするのがいいかと思いまして。お姫様、フォールス、ミスオーガンザ、あとは立会人。これだけでやります」
「わたくしたちのことは、フォールス君にも内緒ね。こちらも、彼に知られると困る事情もあるし、当日は式を、影からこっそり覗かせていただくわ」
「お行儀悪いけど、覗くのは許して下さい……ね?」
確かに、母の事を考えると、知った者だけでやる方がいいだろう。スクルさんの配慮はとてもありがたい。
でも、お世話になったふたりにちゃんと見てもらえないというのは、悲しい。
「許すも何も、本当ならおふたりにも、ちゃんと見ていただきたいくらいなのに……こちらの事情で、申し訳ありません」
私が頭を下げると、ログさんは慌て出す。
「そんな気にしないで!結婚式は、アステさんとフォールスくんのためのものなんだから、ね?だから何も問題なし!」
「本当に、ありがとうございます。……当日も、どうかよろしくお願いします」
私はもう一度、ふたりに頭を下げる。
こんなにも色んなひとに助けてもらっている、その事に私の胸は熱くなる。
そんな私の肩に、そっと手が置かれる。顔を上げると、フラスさんが優しく微笑みかけてくる。
「任せてアステさん。とびっきり綺麗に仕上げるわ。こんなに素敵なお嬢さんなのだもの、腕が鳴るわ」
「はいはいわたしも!……って言いたいところだけど、わたしメイクは門外漢だから、たくさん褒めて、アステさんの気分を盛り上げるのを頑張ります!」
ログさんの言葉に、思わず吹き出してしまう。なんて可愛らしいのだろう。
「ふふっ!ログさんにたくさん褒められたら、きっと私、恥ずかしくて消えたくなっちゃうわ」
「わわ!それは困る!でも、私は思った事つい口に出ちゃうからな……困ったなあ……」
「ほどほどにしましょうねログ嬢。あまり騒いでフォールス君に気づかれたら、わたくしたち……おしまいよ?」
「……ですよね。気をつけます!」
(そこまでフォールスに知られてはいけない事情とはなんなのだろう……)
私はつい気になってしまう。でも、図々しいと思われるのも嫌なので、必死にその気持ちを飲み込む。
「ま、無事ドレスも無事選べたと言う事で……お姫様、そろそろ戻りましょうか」
「はい、お願いします」
そして、私たちは店を出た。
そして今、私の前には、私より少し年下に見える女の子と、年上の女性がいる。
「お姫様、紹介します。これがログ、そしてこちらが、俺の同僚のフラスさん」
「はじめましてアステさん、ログです。いつもお兄ちゃんがお世話になってます」
「え……スクルさんの妹さん!?あ、いえ、こちらこそ、私、スクルさんにたくさんお世話になっていて……」
思わぬ身内の登場に、私は慌ててしまう。そんな私にも、ニコニコと可愛らしく笑いかけてくるログさん。
「ならよかった!でも、お兄ちゃん……デリカシーない事言ってません?大丈夫?」
「ログ……あとで覚悟しておけよ?」
「はいはーい」
フォールスといる時と同じような光景に、私は思わず目を細めてしまう。
「初めましてアステさん。わたくし、フラスと申します。スクル君とは、同じ部署で働いてますの」
「フラスさんですね……はじめまして……あの、でも……」
私は、なぜこのふたりを紹介されているのか分からず、スクルさんに助けを求める視線を向けた。
そんな私に、スクルさんは苦笑しつつ説明してくれた。
「実は、式の当日、このふたりにお姫様の身の回りの準備の手伝いをしてもらおうと思って」
「そ、そうだったんですか!?でも、私なんかのために、本当にいいの……?」
慌てる私に、フラスさんは優雅に微笑みかける。
「うふふ、お気になさらないで。フォールス君のお嫁さんのお手伝いなんて、そんな光栄なことありませんもの。ぜひお手伝いさせてちょうだいな」
「ね!ぜひぜひ!」
続くログさんも、とても楽しそうだ。
そこまで言ってもらえるなら……と、私は頷く。
「わあ!よかった!いやあ、腕が鳴りますねえフラスさん」
「本当ね、ログ嬢。フォールス君のデレデレしてる顔が見れるかどうかは、わたくしたちにかかっているのよ……これは燃えるわ」
まるで悪巧みをしているかのようなふたりに、私は若干慄いてしまう。
「さ、こうしちゃいられないですよ!早速ドレス選びに行きましょ!」
「ふふふ、アステさんにはどんなドレスが似合うかしら」
私は、ログさんとフラスさんに両脇をガシッと掴まれ、抵抗する間もなく、お店の中へ引っ張られてしまう。
「あ、ああ、スクルさん……」
思わずスクルさんを振り返るけれど、彼は私と目が合うと、苦笑しながら手を振って、私を見送るだけだった。
***
お店にはあらかじめ連絡をしてくれていたのか、お待ちしてましたという言葉とともに出迎えられた。
準備が整うまでこちらでお待ちください、とソファに案内され、飲み物とお菓子まで出されてしまう。
店内はとてもおしゃれで、なんとも落ち着かない。ソワソワしてしまう。
「あらあらアステさん、そんなに緊張して……こういうところははじめて?」
「あっ……はい……」
フラスさんの質問に、初めては初めてよねと、そう返事をする私。そこにすかさずログさんの声。
「いやフラスさん、はじめてもなにも何度も来る場所じゃないですから!」
なんて早い反応……私は、ログさんのツッコミに感動さえおぼえてしまう。
「ふふふ、そうよねぇ。でも……あのフォールス君が結婚なんてね。しかも、こんな可愛らしいお嬢さんをつかまえるなんて、ふふふ、わたくしまで嬉しくなっちゃう」
「ほんとに!あれこれアドバイスした甲斐ありましたよね!」
初耳の話に、私は目を丸くする。
「あ……アドバイス……?」
「そうよ。女の子が喜ぶものって、何があるんでしょう?って、それはもう困った顔で聞かれたのよ?」
「みんなでああだこうだ考えましたもんね。結局、色んなもの味見しまくって、クライアさんおすすめの紅茶に決まったんですよね」
紅茶……紅茶……私は記憶を手繰り寄せる。
「あれはわたくしも気に入って、すぐに買いに走ったもの。アステさん、もう飲まれました?」
そこでやっと私は思い出す。フォールスの家に訪れた時に出された、あの香りのいい紅茶を。
「あ……ええ……多分、フォールスが入れてくれたのがそれなのかしら……とてもいい香りで……」
記憶の中から、あの香りが蘇る。フォールスとの再会に恐怖を抱いていた私を落ち着かせてくれた、花のような紅茶の香り。
「きっとそれですよ!フォールスくん、ちゃんと入れ方も教わってたし、いやあ……頑張りが報われてよかったねえフォールスくん……っていないけど」
「ふふ、アステさん、この話はここだけの秘密よ?影の努力をばらしたなんて知られたら、怒られちゃうもの」
そんな事があったのかと驚いている私に、フラスさんはお茶目に、人差し指を口の前に立てる。その仕草さえ優雅だ。
「ええ……心の中の宝箱に、大切にしまっておきます」
「ふふ、素敵な表現ね。わたくし、そういうのとっても好きよ。もしいつか、彼の愛を疑う日がきたら、そっとのぞいてごらんなさい。きっと、役に立つわ」
愛を疑う日。そんな日が、いつか来てしまうのだろうか。私の胸がチリっと痛んだ。
そこに、店員さんから声がかかる。準備ができたので、ドレスのある部屋に案内してくれるそうだ。
「じゃあ、行きましょうか!世界一のお姫様のドレスを探しに!」
まるで、冒険に出かけるかのように拳を振り上げるログさんの可愛らしさに、私はつい笑った。
***
ドレス選びは、想像していた何倍も大変だった。
私には、ドレスに対する憧れやこだわりもこれといってなく、できるだけシンプルなものを……程度に思っていた。
でも、フラスさんとログさんは、あれがいいこれがいいと、気づけば私は、すっかりふたりの着せ替え人形となっていた。何着試着したのかも分からないくらいに。
けれどそれは、私に悪意があることでなく、本当に真剣に、私と……フォールスのために考えてくれているのが分かって、この疲労さえも充実感のひとつのようだった。
結局、あれこれと試着した中で、奇跡的に、全員がこれだ!と思ったドレスに決まった。
ドレスに合わせるアクセサリーなども選び……というか、私にはどれがいいかわからず、結局フラスさんとログさんに選んでもらった。
長い時間をかけ、ドレス選びを終えた私たちは、来店時に案内されたソファに再び腰掛け、やっと一息つく。
私は、心地よい疲れに包まれぼーっとしてしまう。
でも、そんな私とは対照的に、フラスさんとログさんは変わらず元気に、鈴を転がすような声で楽しそうにおしゃべりに興じている。
私たちがドレス選びをしていた間のスクルさんはというと、色々と用事を済ませていたそうで、ただ、彼が店に戻ってきた後も、しばらく待たせてしまっていたそうだ。
申し訳ないと思う気持ちと、フラスさんログさんに時間をかけてもらったありがたさ。その狭間で、どう彼に言葉をかけるべきか悩む私だったが、スクルさんは待たせた事など気にする様子もなく笑う。
「もっとかかると思って覚悟していたので、問題ありませんよ」
「そうそう、大事な事なんだから時間かかるのは当然!気にしない気にしない!」
ふたりの言葉に、私の申し訳なさも少し和らぐ。
「でも、素敵なドレスが見つかってよかった。本番が楽しみですねえ、フラスさん」
「ええ、本当に楽しみ。フォールス君がどんな顔をするのか、今からわくわくしちゃうわ」
なかなか会話の隙が見つからず、お礼も言えていない私は、ようやくふたりにお礼を言う。
「あ、あの……ドレス選び、手伝っていただいて、本当に……ありがとうございます」
私ひとりだったら、たくさんのドレスに圧倒されて、きっとわけが分からなくなっていただろう。ふたりがいてくれて本当によかった。
私は深く頭を下げた。
「いやだわ、頭をあげてちょうだい?ふふ、わたくし、とても楽しかったのよ?お手伝いできて、本当に嬉しかったわ。ね?ログ嬢」
フラスさんがそう言い、ログさんもうんうんと頷く。
……と、そこでログさんが意外な事を言った。
「でも、わたしとフラスさんがお手伝いする事は、誰にも秘密ですよ?」
「そ……そうなんですか?」
なぜ秘密なのか、理由が思い浮かばず、私はおろおろふたりを見る。
「ええ、そうでしょう?スクル君」
「はい。ミスオーガンザの事を考えると、そうするのがいいかと思いまして。お姫様、フォールス、ミスオーガンザ、あとは立会人。これだけでやります」
「わたくしたちのことは、フォールス君にも内緒ね。こちらも、彼に知られると困る事情もあるし、当日は式を、影からこっそり覗かせていただくわ」
「お行儀悪いけど、覗くのは許して下さい……ね?」
確かに、母の事を考えると、知った者だけでやる方がいいだろう。スクルさんの配慮はとてもありがたい。
でも、お世話になったふたりにちゃんと見てもらえないというのは、悲しい。
「許すも何も、本当ならおふたりにも、ちゃんと見ていただきたいくらいなのに……こちらの事情で、申し訳ありません」
私が頭を下げると、ログさんは慌て出す。
「そんな気にしないで!結婚式は、アステさんとフォールスくんのためのものなんだから、ね?だから何も問題なし!」
「本当に、ありがとうございます。……当日も、どうかよろしくお願いします」
私はもう一度、ふたりに頭を下げる。
こんなにも色んなひとに助けてもらっている、その事に私の胸は熱くなる。
そんな私の肩に、そっと手が置かれる。顔を上げると、フラスさんが優しく微笑みかけてくる。
「任せてアステさん。とびっきり綺麗に仕上げるわ。こんなに素敵なお嬢さんなのだもの、腕が鳴るわ」
「はいはいわたしも!……って言いたいところだけど、わたしメイクは門外漢だから、たくさん褒めて、アステさんの気分を盛り上げるのを頑張ります!」
ログさんの言葉に、思わず吹き出してしまう。なんて可愛らしいのだろう。
「ふふっ!ログさんにたくさん褒められたら、きっと私、恥ずかしくて消えたくなっちゃうわ」
「わわ!それは困る!でも、私は思った事つい口に出ちゃうからな……困ったなあ……」
「ほどほどにしましょうねログ嬢。あまり騒いでフォールス君に気づかれたら、わたくしたち……おしまいよ?」
「……ですよね。気をつけます!」
(そこまでフォールスに知られてはいけない事情とはなんなのだろう……)
私はつい気になってしまう。でも、図々しいと思われるのも嫌なので、必死にその気持ちを飲み込む。
「ま、無事ドレスも無事選べたと言う事で……お姫様、そろそろ戻りましょうか」
「はい、お願いします」
そして、私たちは店を出た。
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