アンドロイド魔王による異世界での理想郷

ノウミ

文字の大きさ
2 / 8
序章 〜終わりの始まり〜

【第2話】一体と一人

しおりを挟む
(ここは…一体…)

突如足元に大きな紋様が浮び私たちは光に包まれた、気がつけばどことも分からない大広間の中心に立っていた。過去のデータでも見た事がない巨大なシャンデリアや、ステンドグラスが散りばめられている。壁には大きな窓があり、差し込んだ光で大広間を照らしていた。

壁際を見渡せば、鎧を着た兵士の様な者たちや、杖を持ちローブを着た者達が立ち並んでいる。

そして、この中でも気になるのが奥にいる一際大きく目立つ豪華な椅子に座る威圧感を放ちながら鋭い眼光をこちらに向けている男だ。両隣にも、その男を守るかの様に男と女が剣を構えながら対に立ち、こちらを睨んでいる。

(おかしい、私は先ほどまで住宅の一室で、この男といたはずだ)

テレポーテーションなど、まだ実現に至っていない技術のはず。この男も同じく理解が及んでいないらしく口を開けながら動けずにいた。そうして固まっていると奥の男が、変わらず鋭い眼光をこちらに向けながら威圧感のある低い声でこう話した…。

「よくきた異世界の者よ、これでようやく世界が救われる…」
(!?異世界といったかこの男…そんなことあ…)
「あぁ!?偉そうなおっさんが、いきなりなにほざいてがやる!ここはどこだ!?」

隣に立っていた王燐は、急に声を荒げてバールの先端を奥にいる男に向かって差し出した。すかさず両隣の男と女が、こちらへと飛び掛かる勢いで構えはじめた。私は、この状況でよくそのような口が聞けるなと感心する。

「何だその口のききかた!斬り伏せてやろうか!?」
「…万死に値する」

男の方は激情家なのか同じく声を荒げて返す、女の方は冷静に淡々と吐き捨てるかの様に返した。まさに一触即発の状況、全員で向かわれたら太刀打ち出来ないだろう。

「やめろカルラ、ホウキ 剣を下ろせ…」

「はっ!」
「はっ…」

男の方は【カルラ】、女の方は【ホウキ】というらしい。やはりあの男が偉いのか、その一言で2人は剣を納め後ろへと下がる。

「すまぬな、いきなりの状況ゆえ理解ができないのも仕方がない」

どうやら話し合いは出来そうな雰囲気だ、大人しく向こうの出方を待つ方がいいか。

「ひとまず自己紹介を…我はこの国の現王である【ギルテ=ラザール】だ、両隣は我の護衛でな…左が【サザク=カルラ】、右が【ナナガ=ホウキ】という」

いきなり国王が出てくるとは。この世界のことも、この国がどれほどのものかは分からないが、ここはそれほど重要な状況という事だろうか。

「此度、お主らをこの大陸【ヘブンズガルド】へと、呼び寄せたのだ。お主からすると、異世界ということになるな」

「あぁん?」

「今この世界には六つの種族が存命しておる、その中の一種族である、我々人族を救っていただく為にお主らをこちらへ呼び寄せたのだ」
「ごちゃごちゃぬかしやがって…元の世界に還しやがれ!」
「まぁ待て、ただ呼び寄せただけではない…お主、元の世界では恵まれない境遇だったのではないのか?」
「いきなりなんだ?」

王の話では、この召喚において恵まれない境遇や不運に見舞われていた人が呼び出されるとの事。つまりは元の世界に未練なども残っていない人の方が、お互いに都合がいいと、こちらにきた以上高待遇は約束するらしい。

「ほほぉう…俺をもてなすと?」
「無論だ、お互いに益のある話だとも」
「へぇ~…お互いに…ね?いいじゃねえか!話次第では聞いてやらんでもない!」
「おぉ!そうか!それならこの後の…」

先程から嫌な予感がする、ラザール王とやらが私に目線を向けていない気がする、まるで私は蚊帳の外で二人だけで話を進めているような。私は会話を遮るように入る。

『少しお待ちください!私は今すぐにでも元の世界へ……「うるせぇ!グズ人形は黙ってろ!これは人間様を救うってことだろ!?てめぇには関係ねぇよな!?」

ピクッ…

この大広間の空気が一瞬張り詰めた様な感じがした。私にも伝わるぐらいの緊張感が走る、この男の発言がなにか触れてはいけないものに触れたのか。

「お主らに問う、そちらの男は人族かと見受けるが、その隣の"物"はそちらの世界でいうところの何だ?」
『私は、アンド……「ただのデク人形だよ!人様に使われるだけのな!」

初めて目線を向けられたが、それは恐ろしく冷たいものだった。何かがおかしい、ここにいてはいけないと感じる。

「では、人族ではないと…そうであるか…」
「あぁ!そうさ!俺様に使われるグズ人形だよ!」
「ふむぅ…こちらでいうところのゴーレムの様な存在か」

ゴーレム?似た様なものがこの世界でも存在しているのか。だが先程から、緊張感が解けていない、このままではなにか良くない方向へと進み始めているような気がしてならない。

『私は今すぐにでも元の世界に帰していただきたい、向こうでやるべき事が残っているのです』

私の発言と同時に、ギルテ=ラザールが手を挙げる。即座に護衛の2人が剣を再び構え始めこちらに向けてくる。

「あぁ!?なんだよ!やるってのか!?さっきと言ってる事が違うじゃねえか!」
「お主ではない、その隣の物はこの世界では“異端”“禁忌”とされている存在だ…この場で残しておくわけにはいかぬ…」

その言葉は私にとって都合の悪いものだと直ぐに理解できた、王燐も同じように理解しているようで隣で肩を振るわせながら、薄気味悪い笑みを浮かび始めていた。

「……くくくっ…はっははははは!!残念だったなデク人形!てめぇはどこまでも負け続けるようだなぁ!?お前が俺の人形にならねぇのは惜しいが、お前が潰される様を見るのも、それはそれでいいじゃねぇか!使えねぇデク人形に用はねぇよ!!」

(ダメだこのままでは、一先ずはここから逃げなければ……このままでは私は…)

[ |探索/検索(スキャン)開始 ]

私は逃げる為に即座にこの場の情報を集める、王燐の家の中でやったのと同じ要領でこの大広間の見取り図や、身の回りの人間の数や位置をインプットしていく。

-エネルギー ショウモウ シュウデンガ ヒツヨウデス ジュウデンガ ヒツヨウ-

(迂闊だった。まともに充電されていなかったのか、このままでは逃げるどころではない)
「てめぇはここで終いだ!潰れてろ!!」

私が状況を整理している隙に、王燐が手に持っていたバールを大きく振りかぶる。すると手に持っていたバールが光り輝き始めていた、王燐は気にする事なくそのままの勢いでこちらに振り下ろしてくる。

かろうじて避ける事は出来たが、追撃が来る。それに、奥からカルラとホウキこちらへ駆け出していた、このままでは挟み撃ちにされる!

《 ーザザッ ザザザザ 『カワレ』 ザザ ー 》
(何だこれは…私の中に何が…)
《 ーザザッ『オレニ』 『カワレ』 ザッー 》

「ちぃっ、避けてんじゃねぇよ!  おらぁ!!」

何かに意識を持っていかれそうになるが、辛うじて王燐の攻撃は避け続けている、出来るだけ最小限のエネルギーに抑えながら動き続ける。だが、カルラとホウキがそこまで迫ってきていた。

『まずーー』ボフンッ!

突如、私の周囲に白煙がたちこめる。

「げほげほっ、てめぇ!グズ人形!何しやがった!げほっ……」

私がこの煙を出したわけではない、この場にいるがこの白煙を出したようだ、それは私を中心に包み込むように広がっているように思える。

(まさか、この煙に乗じて来るのでは)
「おい、逃げるぞこっちだ…」
『あ、あなたは?』

フードを被った者に手を引かれる。人の様な何者かが私を助けようとしているらしい、敵か味方か判断出来ないが今は流れに身を任せるしかない、私は身を引かれながら煙と混乱に乗じてその者の案内されるように床下に空いた穴に潜らされる。

この状況とエネルギーの残量を考えて、確認や反論している暇はない。その穴に飛び込むと二人が入ってギリギリの空間しかなくその穴に横たわるようにして入る。入って直ぐにその者は蓋を被せたのか暗闇に包まれていた。

『まるで薄い墓穴のようですね』
「しーっ」

どうやらこのままこの場をやり過ごすつもりらしい。そうしてしばらく身を隠し、周囲の音が静まった頃合いを狙って、その者がゆっくりと蓋のようなものを開けて立ち上がる、私も同じく立ち上がると周囲には誰もいなかった。

「ふぃ~あぶね~、ギリギリだったなー…大丈夫か?」

その者はフードを被りながらこちらに向かって話しかけてきた。

『あ、貴方はいったい?』
「俺か?俺は…ごほっごほごぼごほ…まって、口に何か入った…ごほごほごほ………オエッ…」

『……』

敵が味方かまだ分からない、助けられた以上敵ではないと思うが一体なんの目的があって私助けてくれたのだろうか。本当に信用しても大丈夫なのだろうか。

今の私に、その判断はつかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...