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序章 〜終わりの始まり〜

【第4話】いままでとこれから

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四角いテーブルを挟んでお互いに腰掛ける。
基本的にアンドロイドなので疲れはないはずなのだが、何故か深く安堵し、安らいでいる気がする。

飲み物や食べ物を差し出されたが、食べるという行為ができないのでお断りした。
そうすると、驚いた表情を見せたが、何かを察したのか。
向かいの男はこちらを気にする事なく、目の前のご飯を食べ始めた。

「さて、食いながらで申し訳ないが話をしようか」

男は話を始める。私の知りたかった話を…

まずは、この世界について。
ここは大陸ヘブンズガルド。人族以外に6種族が住んでいた。
【獣族】【竜族】【妖族】【海族】【天族】【戒族】
古くから存命しておったが、互いに争い事はあれどそこまで大きな事になる事は無かったそうだ。
しかし、ある日を境に、人族が他の種族を凌駕し大陸を侵攻し始めた。そこから瞬く間に勢力図は塗り替えられ…
見るも無惨な、虐殺、暴殺の日々が続いたと。

男は強く拳を握り、話し続ける。どうやら相当な経験をしてきたようだ。
私は男の話に、耳を傾き続ける。

今も何も変わらない…人族以外の種族はそれぞれの地域へ後退し、逆らわないように静かに生き続けるしかないと。

「あなたは…人族ではないように見受けられるが…」

「あぁ…そうだな、まだ話してなかったな。」
「俺は獣族の【ラクーン】という、よろしくな」

男…ラクーンは少し悲しい表情をしながら私に微笑む。

「何故、私を助けたのですか?今の話を聞く限り、あの場に居たこともそうですが…」

「俺は、とある方の任務で城に潜伏していた…さっきの抜け道も俺が“術式”で作ったものだ」

「じゅつしき?聞き覚えのない技術だ、階段前の兵士を捕らえたのも、じゅつしきと呼ばれるものだろうか」

聞き慣れない言葉に、会話を遮る

「…そっか、あぁそうさ、この世には【術式(ジュツシキ)】と呼ばれる力が存在している。媒体となる杖を用意し…発現したい術式をイメージしながら特定の術式を発してみると…」

《 土(ソイル) 》

すると目の前に土の塊のようなものが出現した。

「この通りさ、兵士の時は簡単に拘束が解けないように石をイメージして拘束したって事」

これが異世界ということか、私は目の前の事象に驚く。
術式に関して色々聞きたい事はあるが、話が途中だった事を思い出し、続きを話してもらう。

「まず、任務についてはまだ話せない、あんたを信用していないわけじゃないが…念の為だ」
「それと…あんたを助けた理由だが…」

すると、後ろのドアが大きな音をたてて、開く。
突然の事に驚き、私はすぐに立ち上がる。ラクーンも同じく振り返りながら立ち上がり、2人は一点を見つめる。

すると突然、ドアの向こうから1人の女性がいきなり入ってきた、隠れ家がバレたのかと、身を構える。

女性は金色の髪をなびかせながら、こちらを確認する。
ラクーンと目があったのだろうか、大きな琥珀色の目を見開きながら…静かに、穏やかな声で話し始める。

「ラクーン?やけに外が騒がしいようじゃのう。それに、お主が戻っておったとは知らなんだ…」

ラクーンは全身に電流が走った様な感覚に襲われる。
しまった…と、考え出す時にはもう遅かった。

「いつ、妾がお主の任を解いたのじゃ?怒らぬから…素直に答えるがよい。妾が何か、勘違いをしてるやもしれぬ…」

ラクーンは汗を流しながら、恐怖に震えていた。
先程までは冷静に、私を助け出していた者とは思えないほどに震えていた。
それほどの人物なのか。

「それにそこの…そやつは…もしや?」

「あ!、ああ 姐さん! な  んで ここに…」

「おや?妾がお主に会いにきて何が悪い?…何かまずい事でもあるわけもあるまい?」

「いや…ちが… これ  は…  あの   その…」

「早く答えんかい…妾も暇でないぞ?」

より一層空気が張り詰める、あの吸い込まれる様な琥珀色の瞳に睨まれると、こちらも臆してしまう。

「彼は!ラクーン様は私を助けていただきました!」

咄嗟に様をつけた、家庭用アンドロイドであるが故だろう…私は間を遮り、この場をなんとかしようと動く。

先程まで、こちらを睨むように見ていたはずだが途端に表情を変えもう一度ラクーンに問う。

「ラクーン?妾は喉が渇いた…座って話さんか?その方も色々訳ありのようじゃしのぉ…」

「かしこまりました!!!」

ラクーンはとてつもないスピードで、椅子とグラスを用意し、飲み物を準備する。3人は四角いテーブルを囲む様に座る。
暫く沈黙が流れたが、ラクーンが重たい口を開け話し始めた。

「姐さん、ご存知の通り俺は任務を一旦放棄し、城から逃げてきました。クベアには取り敢えず詳細は伝えずに来ています」

「ほほぉう…そやつと関係がありそうじゃな…」

こちらを指差しながら、ラクーンに話す。

「はい。任務以上の理由がありました。俺もさっき戻ってきたところで、これからその話をするところでした」

2人の中では話が進んでいる様だが、私はまだ置いて行かれているようだ。なぜ助けたのか…そこが不透明なまま…

「もしや、戒族が生きていたと?生きて城に囚われておったというのか?」

戒族?先程の人族以外の種族で出た名だ。
それに…私が?そのまま私は話を聞き続ける。

「いや、違います。こいつは異世界から呼び寄せられました」

「なんじやと!?もしや、召喚術式を用いたのか!?」

「………はい」

「まことか……」

ラクーンは頷き、彼女は頭を抱えながら話を続ける。

「いや、よしとするか…こやつは人族に渡る前にお主が連れ出してくれたのじゃな?」

「……すいません。実はもう1人召喚されました。」

再び、彼女は頭を抱えその場で伏してしまった。
暫くの沈黙が流れ…何も話さなくなってしまった。

「あの…尋ねますが、私は戒族とではない気が…そもそも戒族とはいったい?」

ラクーンが話を続ける。
どうやら、戒族とは私の様に造られた人工体…生命人形(ゴーレム)や、人造体(ホムンクルス)などを造り出す事に精通した種族らしい。それら全体を総称して“戒族”と言われていたそうだ。
戒族は多種族とあまり交流を持たず、自分たちの国で生きていた。
その技術を用いて、他種族と争いになる事を避け、閉鎖的に生きていたそうだ。
そんな中、世界の情勢は変わり人族が起こす他種族への侵攻を開始していた頃。
戒族はこれを打ち払おうと、名乗りを上げる。
人族と戒族が争いを続ける中、人族は攻めきれない戒族に対し、一層の警戒心を持つ様になり、全勢力を上げ破滅へと追い込んだ…
一種族を滅ぼすほどの力を人族が持っているという事が、世界に対して証明された瞬間だった。

「わ…私は、その|生命人形(ゴーレム)や、|人造体(ホムンクルス)などは分かりかねるが……違うとも言えない」

「そうか…お主が戒族であるのであれば…もしや…」

「さっきの話の続きだが、残った五種族は、今の世界を…やつらの思い通りにさせたくない」
「その為にお前に力を貸して欲しい、俺たちの仲間になって欲しいと思った。だから、お前を助けた!」

私は考えた…考えて、私の今までの事を話し始めた。

私の元いた世界ではAI、人工的に知能を作り出す技術が発達し、それを用いた、私達アンドロイドが存在していた事。
考える事は勿論、自身の意見や、感情が芽生えた事。
それなのに、人は私たちをモノとして扱い…同じ生命、人として接してくれなかった事。
元いた世界でも似た様な境遇だった事、人に造らされ、捨てられ、壊されてきた事。

私は話すうちに、この2人の境遇と重ねてしまった…
2人も同じ思いを抱いたのか、目元を濡らしながら、静かに頷き…私の話に耳を傾けてくれていた。

この話をした時から、迷いは無かった。
あの場で命を救ってくれた事。
私の身を案じてくれていた事。
そして、私が人の為にありたいと思う事。
私が追い求めていた理想の世界を作りたいと願い、アンドロイド達と共に旗を上げたあの日の様に…
いつか、元の世界に帰る事ができたのであれば…私は…

「はい。私で力になれるのであれば…是非に」

2人は涙を浮かべ、私に話す。
「「 ありがとう、これで世界は変われる 」」…と

しかし、不審な点がまだ残っていた。

「あの、しかし私には力になれるとは思えないのですが。戦う力は微々たるもの、ラクーン様のように、術式とやらも使った事がない…なのにいいのですか?」

ラクーンは涙を拭いながら…

「何故、人族が戒族を滅ぼしたか?」
「何故、戒族を滅ぼした後、他の種族を残したのか」

私は不思議に思う、単純に戦略として脅威と感じたからなのだろう…しかし他種族を残し、戒族のみ滅びへと追いやったのかは謎だ。

続けてラクーンは話を続ける。

「戒族は他種族の中で唯一、最後まで人族に対して侵攻したという事もある。私達は、人族に対して劣る事は決して無かったが、ある日を境に逃げるしかできなくなっていた。そんな中でも、戒族は侵攻を続けた」

「勝ち目のない戦いだと目に見えていたのにか?」

「ふふ…お主は“魔心”というものが分かるか?」

「いえ、分かりません」

「魔心とは、妾らの様に人族以外が持つ“命”じゃ。これが唯一、人族との違いであり…人族が忌み嫌う元凶でもある」

また聞き覚えのないものが出てきた…魔心。おそらく心臓の事だろうか。
私にも心臓はなく、マイクロエンジンを用いて活動を可能としている。

「魔心を持つものには、この世に存在する、術式とよばれる力以外に【魔顕(マケン)】と呼ばれる力を扱う事ができるのじゃ…」

「まけん…ですか?」

「種族の根源と強く結び、種族たらしめる力を顕現できる…それが魔顕と呼ばれる力なのじゃ…」

「そして、俺たちはあの戦争で魔顕を封じ込められた。力が使えなくなるだけじゃねぇ、種族の根源が封じられ、全種族は弱体化してしまった」

それが、人族が優位に立つ決定打となりえたのだ。
弱体化して弱ってしまえば、後は戦争ではなく、一方的な虐殺へと変貌するのだから。

「…それでも、戒族は戦いを続けたと?」

「うむ、先程話した通り、妾達は魔心を封じられ弱体化した。じゃがの、お主の様に人工生命体は話が別じゃった…」

「魔心が無くとも、生命活動を可能にしていたと…」

「そうじゃ、そのおかげで戒族は人工生命体を前線に配置して戦争を続けておった……妾達に、救援を求める事もなく…」

おそらく、無駄死にになるだけだと考えたのだろう。
今戦えるのは戒族だけだと、閉鎖的に生きた種族としても、最後は世界の為、その身を犠牲にしたのだ。

「ですが、私は“1体”…数には勝てないと思いますが」

「そうでもない、人族に叛旗を翻すにはいくつか成さねばならぬ事があるのじゃ」

先程までとは一転、場の空気が少し軽くなった。
何か、好機を見出しているのだろう。

「1つ目が封印の解除。2つ目が戦力の増強…」
「そして、最後に…種族連合の立ち上げじゃ…」

「その為に、俺は城に潜入してたりしたって事」

ラクーンは自慢げに胸を張る。

「そうじゃ、ラクーンには封印解除の方法を探ってもらったったのじゃ…まぁ、今は抜けとるがの」

「それであの場に…」

「戦力の増強…これに関してはお主の力が必要じゃ」

「私…ですか?」

「うむ、残された戒族の遺産をそなたに解読、もう一度甦らしてほしいのじゃ」

「わ、私はこの世界に疎く!何もわからない赤子の様なものですよ!?」

「わかっておる、暫くはこやつをサポートに付けさせる故、安心せい」

ラクーンは驚いた表情を向ける。
だが、その表情は少し嬉しそうにしている。

「ですが…それだけでは…」

ラクーンがすかさず、説明をする。
どうやら私の使っていた索敵能力が、戒族の得意としていた技術の一つらしい。
近い技術があるのであれば、通じるものがなにかあるのかもしれないとの事だ。

「ものは試しじゃ、どの道、妾達含め、あの人族ですら理解が及ばなかった技術だそうて、ダメならそれまでじゃ…」

「あんたなら出来る!そんな感じがする!」

ラクーンの根拠のない言葉でも、何故か背中を押される。

私は決心する。ここまで言ってくれるのだ、ここで断れば、先程この人達の仲間になるという話も、口だけのものになってしまう。
幸いな事に、元いた世界の技術は全て私の中に詰め込まれている、解読できなくとも、こちらの世界で力にはなれるだろう。

「こんな私でよろしければ…ぜひ解読をさせて下さい」

「よく言った!それでこそ…男?、女?なのじゃ!」

私は、胸の辺りが熱くなる様な気がした。
これが助け合うという事なのだろうか、いつぶりだろう、こんな気持ちになるのは。
当たり前だったあの日に、少し戻れた様な気がした。

「最後の種族連合とは…人族に敵対する為の組織という事でしょうか。それこそ、今の状況であれば、全種族が一丸となりそうですが」

「さっから言った通り、他の2つの問題を解決せぬ事には、話すらできぬのが現状じゃ」

「…なるほど」

私の役割がどれだけ重要な事なのか理解した。
そして、「「世界は変われる」」と言った言葉の意味が。

「そういえば、お名前を聞いていませんでしたが貴女もラクーンと同じ獣族でしょうか?」

「ん?妾か?妾はの………」

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