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36.最悪の拷問
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ということで、久世には内緒で計画を続けることを決意した。
彼からやめてくれと言われて、わかったと了承したうえで、その約束を反故にするわけだから、完全なる裏切りである。
裏切りだが、一日の誤差だ。久世の前では昨夜の出来事、つまり約束の前夜であったことにすればいい。
彼に対して誠実でありたいと努めているものの、もともと大した倫理観なんぞ持ち合わせていない自分は、結局のところ以前と変わらぬ最低野郎なのである。
最低どころか、その目的も自分勝手なものでしかない。しかし、どんな手段を使っても、彼からの愛を繋ぎ止めたいのである。
自分が彼の二番手になるなんて、考えるだけでおぞましい。一欠片の愛すら、他の誰にも向けさせたくない。家族愛という形だとしても、血の繋がらない相手にそれが向けられると思うと、耐え難いのである。
そうした言い訳を頭の中で繰り返しつぶやきながら仕事を終え、当然のごとく誘われた瑞希と二人で、彼女のマンションへと向かった。
求められ始めて三日目の今夜、瑞希は相当欲求が溜まっていることだろう。それをさらに煽り、交換条件を突きつける。
決意新たに気合いも十分な状態でマンションへと至り、瑞希からサインをいただく書類をたっぷりと収めたブリーフケースを手に、リビングルームへ足を踏み入れた。
すると驚くことに、そこには先客がいたのである。
「……相馬さん?」
今や勝手知ったるそのソファに、ゆうゆうと座る昴の姿があった。
「ルイの考えなんてお見通しよ。私のことを舐めすぎていたようね」
ふう疲れたと言わんばかりに首を揉みながら、瑞希は昴のもとへ行ってその膝の上に腰をおろした。
「……狙いがあったとしても、瑞希に求められて袖にするなんて、男であればあり得ない。生田くんは真正のゲイだな」
瑞希の腰を抱き寄せ、頬にキスをしながら、昴が言った。
「あれが使えないのよ」
「ということは、異父弟のほうが使うのかな?」
呆然とした自分を尻目に、二人はくすくすと笑みを向け合いながら、当然とばかりに唇を重ねていちゃつき始めた。
馴れ馴れしいなんてレベルではない。もしかしなくても関係ができている。
なぜこの二人がという疑問はあるものの、お見通しだというセリフは、昴がこちらの思惑をバラしたことを裏付けている。
そして、はめられたことに気づいた瑞希は、自分に一泡吹かせるため、ここへ連れてきたのだろう。
「そのブリーフケースの中には、弁護士がつくった書類かなにかが入っているのかな? 誓約書とか?」
愛する久世とそっくりの顔で、せせら笑うように昴は言った。
「誓約書なんてバカみたい」
吐き捨てるように言った瑞希の口に、昴は愛おしげな目を向けて、人差し指を当てた。
「生田くんは、瑞希と異父弟を別れさせたいから、頑張っているんだよ」
「無駄な努力ね。美貌とスタイルだけで何のテクもない男のどこがいいのかわからないけど、昴がいるからもう要らないわ」
言いながら、瑞希は昴の指を舐め始めた。
「あいつもゲイだから仕方がないよ。瑞希を見て欲情しないやつは全員玉なしだ」
「あら、私を誰にも渡したくないんじゃないの?」
「そうだよ。瑞希を欲しがる男たちに見せびらかせるのが楽しいんじゃないか」
それに、嬉しげな笑い声を返した瑞希が、昴と正面から抱き合うように姿勢を変えて、濃厚なキスをし始めた。
深夜で、かつ高級マンションの防音効果により、二人から発せられる唾液の絡む音がやけに耳につく。
何かぎゃふんとさせる一発が出てくるのかと身構えていたが、単に侮蔑の言葉を並べながらいちゃつくだけらしい。
まさかと思うが、それでこちらがブチギレるか、瑞希とのセックスを惜しんで歯噛みをするかと考えているのかもしれない。
見当違いな逆襲を呆れながら見ていると、昴は瑞希のワンピースをまくりあげて、下着に手をかけ始めた。
おいおい、このままやるつもりじゃないだろうな。
「僕はお邪魔のようですので、ここで失礼いたします」
ぞっとした生田は、一声かけて玄関のほうへと振り返った。
「……見ていかないのか?」
「そのためにお招きくださったのでしたら、十分堪能させていただきましたので、これ以上は結構です」
出歯亀なんてしたくもないので、振り向きもせずに答えた。
「瑞希を落とすためにバーまで開いて、それが無駄になって悔しいか?」
「えっ?」
ドアノブにかけていた手をとめ、思わず振り返った。
「あっ、ん」
対面で抱き合っている二人は、いつの間にやら服を乱しており、昴の指が瑞希の股の間で動いている。
「じゃあ、瑞希は本当に透との婚約を破談にするつもりなんですか?」
昴が久世家を継ぐという話にはなっていない。内閣総理大臣夫人の座に執着していたのに、それは諦めるのだろうか。
あっと、吐息を漏らしながら、瑞希は横目でこちらを見た。
「昴はフランスのロメールグループを継ぐ男なのよ? 首相の妻の座よりもいいわ」
「エドゥアルドからの求婚は断ったのに?」
「ええ。彼はただの億万長者。でも昴はフランス貴族の末裔ですもの」
単にこちらの思惑を暴いただけでなく、世間的にも久世から昴へ乗り換えるらしい。
フランスに貴族制度が未だにあるのかは知らないが、そういうことなら願ったり叶ったりである。
「へえ……」
「ロメール家の資産は櫻田家の50倍もあるのよ? エドゥアルドも申し分なかったけど、……はあっ、自ら会社を経営していたわけでも、それこそ貴族だったわけでもないわ……んあっ」
ぬちゃぬちゃと淫靡な音を立て始めた。
見たくもないのに、日常からかけ離れた異様な光景のせいか、目が吸い寄せられてしまう。
「そう。俺は正真正銘、ロメール伯爵の末裔だ」
「あっ、ん、だめっ、あ、ああっ」
「ん……祖父は遺産を残してくれたし、株式も保有している」
「あっ、あっ、あ」
「日本へ来たのは、瑞希を迎えにくるためだ……っ」
言いながら昴は一物を取り出した。顔はそっくりでも、サイズで言えば彼よりも大きい。などと見たくもないのに見てしまう。
「あっ、いきたいのに……あああっっ」
うわ。最悪だ。彼と同じ顔を快感に歪ませながら、瑞希を対面に挿入しやがった。
「はあ、俺のお姫様が、異父弟と結婚する寸前だったなんて、……ん、間に合ってよかったよ」
昴の声と、ずちゃずちゃと粘液の絡まる音が聞こえて気分が悪くなってきた。
何が願ったり叶ったりだ。不快なものを見せられて、頭が混乱していたらしい。
瑞希が諦めてくれたことは僥倖だが、昴がフランスの会社の跡取りとなるなら、久世家の養子となる道は絶たれたことになる。
結局のところ、なんの解決にもなっていない。
「あいつはたかが御曹司だ。俺とはレベルが違う」
昴を説得するのも難しいだろう。というか二度と関わりたくない。
「そ、あんっ、そうよっ、あんな男より、あっ」
「あいつよりいいだろ?」
「あんっ、あっ、い、いいわっ」
昴に突き上げられ、ぐちゃぐちゃと音を立てながら腰を動かす瑞希は、喘ぎで返事もままならないらしい。
「あいつより大きい?」
「んっ、大きいし、気持ち、いいっ、あっ、あっ」
何言ってんだこいつら。
これ以上聞き出すことはないし、なにより苦痛に過ぎる。中年男性同士のよりマシだが、若い男女とはいえ男のほうは久世と瓜二つだ。最悪の拷問に近い。
吐き気に耐えながら、部屋を後にするべく再びドアノブに手をかけた。
「生田くん、見ていけよ」
「……結構です。お邪魔しました」
「いや、見ておいたほうがいい。透もこんなふうに女を抱くことになるんだ」
ぴたりと、手を止めてしまう。
「……跡継ぎなんだから、んっ、その次の子をつくらなきゃならない……はあ、締まる」
挑発であることはわかっている。
わかっているが、なぜ昴がそんな真似をする必要があるのかはわからない。
「ああっ、あんっ、いいっ」
思わず振り向くと、首元にすがりつく瑞希の肩越しに、上目でこちらを見据える昴と目が合った。
「んっ……金と手間をかけて、結局透の結婚は阻止できない。はあっ、瑞希が手を引いても、唐澤は他の令嬢を連れてくるだろ……んんっ」
「あっ、すばるぅ」
「……瑞希、締めすぎ……家出だなんて非現実的だ。そうなると、透はやりたくもない政治の道に入り、愛する男と別れなければならなくなる」
「なんで僕と別れるって決めつけるんですか?」
「じゃなかったら、こんな手間をかけてまですることじゃない……んっ」
ずばりを突いてくる男だ。
「それが、相馬さんに関係があるんですか?」
瑞希のことも惜しみなく突き上げる昴に問いかける。
「……はあっ、っ、あるよ……瑞希、一回いかせて?」
「だめっ、あっ、あっ」
その後、答えを待つも、射精を耐えているのか、しばしの間ぱんぱんと肉の打ち付ける音と瑞希の喘ぎだけが響いていた。
「あいつの、……ああ、」
「はげし……いくっ……いくのぉ」
「くそ、俺もいきそう」
もう会話はいいから、一度いってくれ。出歯亀なんてしたくもないし、一刻も早く出ていきたい。
いや、出ていこう。一層激しくなった対面座位の上下運動なんて見ていたくない。
「あいつの不幸こそ、俺の幸福だからな……あっ、出る。中に出すよ」
昴の声を聞いて振り向いた。
「あん、わたしもっ……あああっ」
瑞希も同時にいったらしい、快感にむせぶ絶叫を耳にしながら、昴のことを見誤っていたことに気がついた。
昴はグリードなんてものではない。なぜか久世に対して憎悪のような感情を抱えている。それも、並ではないほどの。
その目で昴を見てみれば、偶然として済ませていた点が、そう済ませるにはあまりにも不自然であると見えてきた。
久世と昴はコピーをしたかのようにそっくりなのである。異父兄弟ではなく実の兄弟だったから、なんて理由でも説明がつかないほど似ている。
二人は、髪型もスタイルも、筋肉のつき方までまったく同じと言っていい。ともに暮らして育てば好みが似るかもしれないが、二人は生き別れのような状態で育っているのだから、ここまで瓜二つなのは不自然だ。
まるで実の兄弟であることを訴えかけているようでもあり、入れ替わることすらできそうである。
歪んだ憎悪なのか、何か意図があるのか。
わからないが、その弟の恋人に、その婚約者との性行為を見せる意図だけは理解できない、いや理解したくもない。
二回戦目に突入した二人を背に去ろうとしたとき、昴からまたも挑発の声をかけられたが、今度こそ無視だけを返して生田はマンションを後にした。
彼からやめてくれと言われて、わかったと了承したうえで、その約束を反故にするわけだから、完全なる裏切りである。
裏切りだが、一日の誤差だ。久世の前では昨夜の出来事、つまり約束の前夜であったことにすればいい。
彼に対して誠実でありたいと努めているものの、もともと大した倫理観なんぞ持ち合わせていない自分は、結局のところ以前と変わらぬ最低野郎なのである。
最低どころか、その目的も自分勝手なものでしかない。しかし、どんな手段を使っても、彼からの愛を繋ぎ止めたいのである。
自分が彼の二番手になるなんて、考えるだけでおぞましい。一欠片の愛すら、他の誰にも向けさせたくない。家族愛という形だとしても、血の繋がらない相手にそれが向けられると思うと、耐え難いのである。
そうした言い訳を頭の中で繰り返しつぶやきながら仕事を終え、当然のごとく誘われた瑞希と二人で、彼女のマンションへと向かった。
求められ始めて三日目の今夜、瑞希は相当欲求が溜まっていることだろう。それをさらに煽り、交換条件を突きつける。
決意新たに気合いも十分な状態でマンションへと至り、瑞希からサインをいただく書類をたっぷりと収めたブリーフケースを手に、リビングルームへ足を踏み入れた。
すると驚くことに、そこには先客がいたのである。
「……相馬さん?」
今や勝手知ったるそのソファに、ゆうゆうと座る昴の姿があった。
「ルイの考えなんてお見通しよ。私のことを舐めすぎていたようね」
ふう疲れたと言わんばかりに首を揉みながら、瑞希は昴のもとへ行ってその膝の上に腰をおろした。
「……狙いがあったとしても、瑞希に求められて袖にするなんて、男であればあり得ない。生田くんは真正のゲイだな」
瑞希の腰を抱き寄せ、頬にキスをしながら、昴が言った。
「あれが使えないのよ」
「ということは、異父弟のほうが使うのかな?」
呆然とした自分を尻目に、二人はくすくすと笑みを向け合いながら、当然とばかりに唇を重ねていちゃつき始めた。
馴れ馴れしいなんてレベルではない。もしかしなくても関係ができている。
なぜこの二人がという疑問はあるものの、お見通しだというセリフは、昴がこちらの思惑をバラしたことを裏付けている。
そして、はめられたことに気づいた瑞希は、自分に一泡吹かせるため、ここへ連れてきたのだろう。
「そのブリーフケースの中には、弁護士がつくった書類かなにかが入っているのかな? 誓約書とか?」
愛する久世とそっくりの顔で、せせら笑うように昴は言った。
「誓約書なんてバカみたい」
吐き捨てるように言った瑞希の口に、昴は愛おしげな目を向けて、人差し指を当てた。
「生田くんは、瑞希と異父弟を別れさせたいから、頑張っているんだよ」
「無駄な努力ね。美貌とスタイルだけで何のテクもない男のどこがいいのかわからないけど、昴がいるからもう要らないわ」
言いながら、瑞希は昴の指を舐め始めた。
「あいつもゲイだから仕方がないよ。瑞希を見て欲情しないやつは全員玉なしだ」
「あら、私を誰にも渡したくないんじゃないの?」
「そうだよ。瑞希を欲しがる男たちに見せびらかせるのが楽しいんじゃないか」
それに、嬉しげな笑い声を返した瑞希が、昴と正面から抱き合うように姿勢を変えて、濃厚なキスをし始めた。
深夜で、かつ高級マンションの防音効果により、二人から発せられる唾液の絡む音がやけに耳につく。
何かぎゃふんとさせる一発が出てくるのかと身構えていたが、単に侮蔑の言葉を並べながらいちゃつくだけらしい。
まさかと思うが、それでこちらがブチギレるか、瑞希とのセックスを惜しんで歯噛みをするかと考えているのかもしれない。
見当違いな逆襲を呆れながら見ていると、昴は瑞希のワンピースをまくりあげて、下着に手をかけ始めた。
おいおい、このままやるつもりじゃないだろうな。
「僕はお邪魔のようですので、ここで失礼いたします」
ぞっとした生田は、一声かけて玄関のほうへと振り返った。
「……見ていかないのか?」
「そのためにお招きくださったのでしたら、十分堪能させていただきましたので、これ以上は結構です」
出歯亀なんてしたくもないので、振り向きもせずに答えた。
「瑞希を落とすためにバーまで開いて、それが無駄になって悔しいか?」
「えっ?」
ドアノブにかけていた手をとめ、思わず振り返った。
「あっ、ん」
対面で抱き合っている二人は、いつの間にやら服を乱しており、昴の指が瑞希の股の間で動いている。
「じゃあ、瑞希は本当に透との婚約を破談にするつもりなんですか?」
昴が久世家を継ぐという話にはなっていない。内閣総理大臣夫人の座に執着していたのに、それは諦めるのだろうか。
あっと、吐息を漏らしながら、瑞希は横目でこちらを見た。
「昴はフランスのロメールグループを継ぐ男なのよ? 首相の妻の座よりもいいわ」
「エドゥアルドからの求婚は断ったのに?」
「ええ。彼はただの億万長者。でも昴はフランス貴族の末裔ですもの」
単にこちらの思惑を暴いただけでなく、世間的にも久世から昴へ乗り換えるらしい。
フランスに貴族制度が未だにあるのかは知らないが、そういうことなら願ったり叶ったりである。
「へえ……」
「ロメール家の資産は櫻田家の50倍もあるのよ? エドゥアルドも申し分なかったけど、……はあっ、自ら会社を経営していたわけでも、それこそ貴族だったわけでもないわ……んあっ」
ぬちゃぬちゃと淫靡な音を立て始めた。
見たくもないのに、日常からかけ離れた異様な光景のせいか、目が吸い寄せられてしまう。
「そう。俺は正真正銘、ロメール伯爵の末裔だ」
「あっ、ん、だめっ、あ、ああっ」
「ん……祖父は遺産を残してくれたし、株式も保有している」
「あっ、あっ、あ」
「日本へ来たのは、瑞希を迎えにくるためだ……っ」
言いながら昴は一物を取り出した。顔はそっくりでも、サイズで言えば彼よりも大きい。などと見たくもないのに見てしまう。
「あっ、いきたいのに……あああっっ」
うわ。最悪だ。彼と同じ顔を快感に歪ませながら、瑞希を対面に挿入しやがった。
「はあ、俺のお姫様が、異父弟と結婚する寸前だったなんて、……ん、間に合ってよかったよ」
昴の声と、ずちゃずちゃと粘液の絡まる音が聞こえて気分が悪くなってきた。
何が願ったり叶ったりだ。不快なものを見せられて、頭が混乱していたらしい。
瑞希が諦めてくれたことは僥倖だが、昴がフランスの会社の跡取りとなるなら、久世家の養子となる道は絶たれたことになる。
結局のところ、なんの解決にもなっていない。
「あいつはたかが御曹司だ。俺とはレベルが違う」
昴を説得するのも難しいだろう。というか二度と関わりたくない。
「そ、あんっ、そうよっ、あんな男より、あっ」
「あいつよりいいだろ?」
「あんっ、あっ、い、いいわっ」
昴に突き上げられ、ぐちゃぐちゃと音を立てながら腰を動かす瑞希は、喘ぎで返事もままならないらしい。
「あいつより大きい?」
「んっ、大きいし、気持ち、いいっ、あっ、あっ」
何言ってんだこいつら。
これ以上聞き出すことはないし、なにより苦痛に過ぎる。中年男性同士のよりマシだが、若い男女とはいえ男のほうは久世と瓜二つだ。最悪の拷問に近い。
吐き気に耐えながら、部屋を後にするべく再びドアノブに手をかけた。
「生田くん、見ていけよ」
「……結構です。お邪魔しました」
「いや、見ておいたほうがいい。透もこんなふうに女を抱くことになるんだ」
ぴたりと、手を止めてしまう。
「……跡継ぎなんだから、んっ、その次の子をつくらなきゃならない……はあ、締まる」
挑発であることはわかっている。
わかっているが、なぜ昴がそんな真似をする必要があるのかはわからない。
「ああっ、あんっ、いいっ」
思わず振り向くと、首元にすがりつく瑞希の肩越しに、上目でこちらを見据える昴と目が合った。
「んっ……金と手間をかけて、結局透の結婚は阻止できない。はあっ、瑞希が手を引いても、唐澤は他の令嬢を連れてくるだろ……んんっ」
「あっ、すばるぅ」
「……瑞希、締めすぎ……家出だなんて非現実的だ。そうなると、透はやりたくもない政治の道に入り、愛する男と別れなければならなくなる」
「なんで僕と別れるって決めつけるんですか?」
「じゃなかったら、こんな手間をかけてまですることじゃない……んっ」
ずばりを突いてくる男だ。
「それが、相馬さんに関係があるんですか?」
瑞希のことも惜しみなく突き上げる昴に問いかける。
「……はあっ、っ、あるよ……瑞希、一回いかせて?」
「だめっ、あっ、あっ」
その後、答えを待つも、射精を耐えているのか、しばしの間ぱんぱんと肉の打ち付ける音と瑞希の喘ぎだけが響いていた。
「あいつの、……ああ、」
「はげし……いくっ……いくのぉ」
「くそ、俺もいきそう」
もう会話はいいから、一度いってくれ。出歯亀なんてしたくもないし、一刻も早く出ていきたい。
いや、出ていこう。一層激しくなった対面座位の上下運動なんて見ていたくない。
「あいつの不幸こそ、俺の幸福だからな……あっ、出る。中に出すよ」
昴の声を聞いて振り向いた。
「あん、わたしもっ……あああっ」
瑞希も同時にいったらしい、快感にむせぶ絶叫を耳にしながら、昴のことを見誤っていたことに気がついた。
昴はグリードなんてものではない。なぜか久世に対して憎悪のような感情を抱えている。それも、並ではないほどの。
その目で昴を見てみれば、偶然として済ませていた点が、そう済ませるにはあまりにも不自然であると見えてきた。
久世と昴はコピーをしたかのようにそっくりなのである。異父兄弟ではなく実の兄弟だったから、なんて理由でも説明がつかないほど似ている。
二人は、髪型もスタイルも、筋肉のつき方までまったく同じと言っていい。ともに暮らして育てば好みが似るかもしれないが、二人は生き別れのような状態で育っているのだから、ここまで瓜二つなのは不自然だ。
まるで実の兄弟であることを訴えかけているようでもあり、入れ替わることすらできそうである。
歪んだ憎悪なのか、何か意図があるのか。
わからないが、その弟の恋人に、その婚約者との性行為を見せる意図だけは理解できない、いや理解したくもない。
二回戦目に突入した二人を背に去ろうとしたとき、昴からまたも挑発の声をかけられたが、今度こそ無視だけを返して生田はマンションを後にした。
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お気軽にコメント頂けると嬉しいです
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