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第三章・第一節 兄妹二人のダンジョン攻略

37.最強の兄妹

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「うおおおおおぉぉぉぉッ!」

 俺は剣を振り、二足歩行の緑色の竜を切り飛ばす。その後ろ、反対側では……。

「――『マジック・ハンド』……そして『状態付与』……、毒ッ!」

 全身が岩で出来た巨大トカゲに、マジックハンドとスキルのコンボ技で一気に死へと追いやる。

 少し回りくどい戦い方だが、岩で出来た身体に雷属性は効かないので仕方がなかった。


「……それにしても、敵が多すぎるな」

「倒しても倒してもキリがないよ……。早く奥に進もう?」

 魔物自体はそこまで強くないが、とにかく数が多い。前に入った、魔人・アニロアの治めていたあのダンジョンより数も、強さも上。レベルが違いすぎる。

 基本一撃で倒せるのと、厄介な攻撃をしてくる魔物には今まで出会ってないのが救いだが、ダンジョンの探索もなかなか捗らない。

「また前から魔物が来たよ。――ここは私が!」

 唯葉が一歩前に出ると、前から向かってくる小さな緑のドラゴンたち五匹に手を向けて、

「――『ショック・ボルト』ッ!」

 バチバチバチバチィッ!! という音と共に、紫色の電流がドラゴンたちの方へ飛んでいき、そのまま五匹は感電。

 ――グギャアアァァッ!! という悲鳴と共に、その場で電気ショックを受けて倒れる。

「ふふんっ、何体でもまとめて感電させてあげるんだからっ」

『ショック・ボルト』、こちらも初級魔法で、近くにいる者に伝播して、広範囲に電流を流すもの。

 レベル上げの時に重宝していたり、唯葉が初めて覚えた雷魔法だったりする。

 本来はちょっと痺れさせて、動きを止めたりする程度の魔法のはずが、唯葉の桁外れの魔力のお陰か喰らえばショック死の最強魔法となってしまっている。


 それからも倒しては進み、倒しては進みを続け……。

「この先に何かありそうだな」

「そうだね、一本道がやけに長いし」

 進み続けると、やがてダンジョンは一本道が延々と続くようになった。この先には絶対何かがあるはず。

 そして、その一本道を進み続けて……やっと狭い一本道から、開けた場所に出る。

「――いやいや、何だこれ……」
「いくら何でも多すぎるよ……」

 開けた場所は、学校の体育館ほどの大部屋で、その大部屋一面に――なんと、無数の赤い魔法陣が。

 そして、その魔法陣が示すのは――数えることのできないほどの、何百もの魔物の群れ。

 しかし、この部屋。ここまで厳重に守られているという事は、絶対に何かがあるはず。……だとすれば、行くしかない。

「唯葉、『ショック・ボルト』でなんとかなりそうか……?」

「多分ムリ。流石にこの数じゃ分散しすぎてまともに効果が出ないと思う。……アレを使うしかないかも。危ないから、お兄ちゃんはそこで待ってて」

 そう言うと、唯葉は大部屋の方へと歩いて行き、俺も一度後ろへ下がる。そして、

「――『サンダー・ブラスト』ッ!!」

 唯葉が叫んだ次の瞬間――ゴオオオオオォォォォォォッ!! まるで爆発音のような轟音と共に、白い光がダンジョン中を包み込む。

 そして、その光が止むと、大部屋には無数の魔物が焼け焦げていた。

 ――中級魔法、『サンダー・ブラスト』。あまりの攻撃力に、普段使いには適していない、超高火力の雷魔法。

 中級という名の通り、本来は単体の敵に雷を落とす魔法のはずが、唯葉の高すぎる魔力によって、周囲の敵を全て焼き焦がす、破壊の一撃と化してしまっている。

 しかし、それでも全ての魔物は倒しきれていなかった。その数、残り数十体ほど。


 後ろに下がった俺は……ただ危ないから離れただけではない。こちらも、戦う準備をしていた。

「――『マジック・コンバータ』ッ!」

 俺が唯一、理解できた魔法。それが、マジック・コンバータだった。無属性の中級魔法。

 この魔法は『魔力を一時的に他のステータスに変換できる』魔法。

 つまり、魔力のステータスをゼロにする代わりに、力を上げたり、守を上げたりする事ができるのだ。

 この魔法が使えるようになるまでは気にしたことすらなかった、俺の『魔力』のステータスは114。このダンジョンで戦っていた分レベルも上がって、さらに高くなっているかもしれない。

 常人と比べれば高い数値ではあるのだが、それでも俺は魔法が使えず、せっかくの魔力ステータスを腐らせていた。

「コンバート、《敏捷》」

 その言葉を唱えるだけで、俺の敏捷は飛躍的に上昇する。

 魔力というステータスそのものを否定するかのような魔法な気もするが……そのステータスを腐らせておくよりはずっとマシだろう。

 一気に速度を上げた俺は大部屋へと走ると、魔法の反動でしばらく動けない唯葉の代わりに、残った魔物を一匹一匹切り刻んでいく。

 そして、最後の一匹の二足歩行ドラゴンも――スパンッ!! 大部屋にいた全ての魔物を、一瞬にして片付けてしまった。

「倒しちゃったな……」
「倒せちゃったね……」

 これを二人でやったとは、片づけてしまった今でも信じられないが……。

 ここまでの桁違いな数の魔物を倒した後だ。ステータスを確認してみると、
 

【梅屋 正紀】

《レベル》134
《スキル》味方弱化
《力》401
《守》284
《器用》399
《敏捷》344
《魔力》158


【梅屋 唯葉】

《レベル》112
《スキル》状態付与
《力》571
《守》386
《器用》705
《敏捷》405
《魔力》772


 ……ステータスが天井知らずだ。心なしか、唯葉のステータスは少しずつ上がりにくくなっている気がするが、そもそも元が高すぎるのでそこまで気にならない。

「お兄ちゃん、あそこ。扉みたいなのがあるよ」

 大部屋に、ただ一つ。白く重そうな扉があった。

「また魔物が湧き始める前に急ぐとしよう。行こう、唯葉」

 白い扉を開け、その先に続く階段を俺たちは降りていく。
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