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第三章 第三節 主人公だと思ってた

48.グランスレイフへ

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「ふうん。『主人公』を超える力……ねえ。くだらないとは思うけど、嫌いじゃないわ」

 この世界の主人公は、俺なんかではないらしい。でも、それを超える、主人公という概念さえも壊せるような力を手に入れる。そんな夢くらい、見たって良いはずだ。

「アタシは、強さってのは道具だと思ってた。決して目標にはなり得ない。目標を達成する為に必要な道具だってね。でもアナタは、本当に『強くなる』のが目標だと言った。ここまで生きてきて、そんな人を見るのは初めてよ」

 竜人の女性は、少し間を置いて、俺に向けて問いかけてくる。

「……アナタとの戦いで感じたその覚悟、アタシはとても気に入った。もしも望むなら、その覚悟に応えてあげる。――その覚悟は、本物かしら?」

「……どういう事だ?」

「アタシは強くなる方法を知っている。もちろん、、ね」

 確かに、彼女は強い。さっきこの身をもって体感した事実だ。

 そんな彼女の言う強くなる方法。強さを求める俺には、聞き捨てならないものだった。

「俺は……強くなりたい。それはさっきも言った通りだ」

「そう言うと思ったわ。……こんな所じゃあアレだし、アタシが拠点にしてるダンジョンで話すとするわね」


 ***


 そう言われて案内されたのは、山の洞窟の奥深く。ここまでの道には恐ろしい数の魔物がいたが、彼女はあれを全て操っているというのだろうか。一緒にいた俺には目もくれずにいた。

 もし俺があれだけの数の魔物に襲われれば、手も足も出ずに終わるだろう。

 そんな魔物だらけの道の奥に、一つの大部屋があった。部屋の中心には、黒くて大きなドアがある。

「アタシはね、このヒューディアルとグランスレイフを繋ぐためにここでひっそりと活動していたの。魔族がこの大陸に、楽にやって来られるように」

「グランスレイフ……魔族の住む大陸か」

 どんな所かも想像はつかないが、その名前だけは聞いたことがある。ここ、ヒューディアルが人間の治める大陸ならば、その真逆。戦争相手である魔族の住む大陸だ。

「アナタはこれから、この次元の扉を通ってグランスレイフへと向かいなさい。まだ未完成ではあるけど、アタシの補助があれば、一方通行で一時的にグランスレイフに向かう事くらいならできるわ」

「魔族の大陸に……俺が行くのか!?」

 彼女は確かにそう言った。対立する魔族の、敵地のど真ん中へ行けと。

「……あら、覚悟は出来ているんじゃなかったかしらぁ?」

「確かに言ったが……いきなり魔族の大陸に行けなんて言われても頭の整理が追いつかねえよ」
 
 それを聞いた彼女が、ふふっと軽く笑うと……。

「グランスレイフだって、そこまで悪い所でもないわよ? 結局、ここだっていつかはアタシたち魔族が支配する訳だし、何も変わらないでしょ」

「……随分な自信だな」

 そう口では言ったが、そりゃそうだと思う。あんな圧倒的な力を見せつけられたのだから、当然だ。

 あんな力を持った魔人が、何人も、何十人も、もしくはそれ以上いるのだとしたら、こんなひ弱な人間だけの大陸なんて、間違いなく滅ぼされてしまうだろう。

「これを見せれば、他の魔人たちも話を聞いてくれると思うわ。持っておきなさい」

 そう言うと彼女は、一枚の紙を渡してきた。そこには、手書きで『イルエレ』と、サインが書かれていた。おそらく彼女の名前なのだろう。

「街のはずれに飛ばすから、まずはグランスレイフの城へ向かいなさい。そしてこの紙を見せれば話は通るはずよ」

「……一つ聞いても良いか?」

「何?」

 ここまでトントン拍子で話が進んでいるが、逆にそれが気がかりでならなかった。

「……どうして俺なんかに、ここまでしてくれるんだ?」

 あんな圧倒的な強さを持つ彼女が、虫けら同然であるはずの俺に、わざわざここまでしてくれる理由が分からない。その問いに対して、彼女は少し考えた後、

「何か、強い意志を感じたから……じゃダメかしら? まあ、アタシは気まぐれだから」

「そんな物なのか……?」

 まあ良いかと思い、俺はこの異世界に来てから、最大級の覚悟を決めて。

「それじゃ、時間も勿体無いし、さっさと飛ばすわよ。――『ディメンション・ゲート』ッ!!」

 彼女の叫びと同時、黒いドアが――ゴウッ!! と黒い光と衝撃を放ち、大きく開け放たれる。

「不完全だから一分もしないうちに閉じてしまうわ。……さっさと行きなさい」

 俺は、魔族の住む大陸、グランスレイフへと繋がる一方通行のドアの前へと立ち、そのドアの奥へと一歩、足を踏み入れる。

 その瞬間、――ギュウウウウウンッ!! という、身体が強風で吹き飛ばされていくような音と感覚に支配されて……そのまま意識が遠のいていった。


 ***


 すっかり力も失ってしまった、黒いドアだけが残る部屋の中。一人、竜人のイルエレは呟いた。

「あの潜在能力なら。……ふふっ、楽しみにしてるわ。
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