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第一章:偽りの招待状
偽りの招待状 13
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さっきからずっと気難しそうに口を閉ざして、みんなのやり取りを聞いていた人物。
五十代だろうか。少なくとも、美九佐さんよりは若い。
「無駄に金を持っている酔狂な奴なら、絶対にやらないとは言い切れない。世の中には、平気で他人の頭に銃弾を撃ち込むような狂った人間だっているんだ。それに比べたらこれくらい、まだ可愛い方だろう」
ぶっきらぼうに言い放ち、その人は川辺さんの用意してくれていたアイスコーヒーをぐいと飲み干した。
「……貴方は、まだお名前を伺っていませんでしたね?」
横柄な口調の男に対してほぼ全員が怯むような様子を見せる中、一番平静を保ったままの美九佐さんが探るようにして声をかけた。
「映画評論家の笠島 健次だ。名作映画の鑑賞会などと言う、くだらない罠につられて来たらこの様だ。こんな三流映画の舞台にすら使えんような場所で映画の上映なぞ、笑い話にもなりはしないわ。本当に、馬鹿にされてしまった」
ふて腐れたようなその顔は、どうにも神経質そうな印象を与えてくる。
たぶん、この人頑固だ。すぐ怒ったりしてきそう。
あたしの苦手なタイプの筆頭。なるべくなら話しかけたりはしたくない。
「映画の鑑賞会、ですか。また新しい名目が増えましたね。テーマパークに演奏会、医学の勉強会とシンポジウム、食事会、ホテルのモニター。いや、実にバラエティに富んでますな」
たぶん、癖なのかもしれない。美九佐さんはまた顎髭に手をやりながら、愉快そうに頬を緩めた。
「どこの誰かわからん奴にからかわれて、何が楽しいんだ? おい、俺たちはこれからどうなる? まさか、個室くらいは用意してあるんだろうな?」
笠島さんから敵対心を含むような目でじろりと睨まれ、川辺さんは少し困ったように頭を下げながら柔らかな口調で言葉を返す。
「もちろん、それぞれにお部屋をご用意しております。今からそちらへのご案内をさせていただきますが、ただ……」
不意に、川辺さんの目があたしとお兄ちゃんへ向いた。
「白沼様のお二人は予定外の宿泊となりますので、お部屋のご準備ができておりません。幸い空き部屋はございますので、少しお時間をいただければすぐにご用意いたします」
「別に急ぐ必要もない。今すぐ寝るわけでもないからな。それより、オレは腹が減った。食事の方はオレたちのぶんもまかなえるのか?」
みんなが自己紹介をしている間中、終始眠ったように目を瞑り続けていたお兄ちゃんが、静かに瞼を開く。
「ああ、食事に関しましてはご心配なく。調理場の地下に備蓄があるのを確認しております。あれだけの量ならば、この人数でも半月凌げるくらいはあるでしょう」
「そうか。それなら良い。昼食の時間は何時からだ?」
「一応、十二時半くらいになるかと。何ぶんわたくし一人でやらせていただきますので、至らない部分も多々出てきてしまうかと思いますが、その際はご容赦ください」
現在の時刻は十一時二十分。つまり、お昼ご飯まではまだ一時間もあることになる。
「それなら、オレは昼食までここにいよう。その間に部屋を割り当ててくれれば問題ない」
「はぁ、そうですか。それでしたら、他の皆さまには取りあえずご用意してありますお部屋へ案内させていただきますので、それぞれお荷物を持ってついてきてください。十二時半近くになりましたら、一階の北側、一番奥のドアが食堂への入口になっておりますので、そちらへ集合してください」
一階の北側。川辺さんがそう言って指差したのは、この研究所を正面から見て右側。
こんな木に囲まれた場所にいきなり来ると方向感覚が鈍くなるなと、そんなことを考えてしまう。
「あー、やっと少し休めるか。着いたばっかなのに、何だかすげー疲れた気分だぜ」
川辺さんの話が終わると同時、伊藤さんが荷物を手にして真っ先に立ち上がる。
「……ねぇ、恭一」
五十代だろうか。少なくとも、美九佐さんよりは若い。
「無駄に金を持っている酔狂な奴なら、絶対にやらないとは言い切れない。世の中には、平気で他人の頭に銃弾を撃ち込むような狂った人間だっているんだ。それに比べたらこれくらい、まだ可愛い方だろう」
ぶっきらぼうに言い放ち、その人は川辺さんの用意してくれていたアイスコーヒーをぐいと飲み干した。
「……貴方は、まだお名前を伺っていませんでしたね?」
横柄な口調の男に対してほぼ全員が怯むような様子を見せる中、一番平静を保ったままの美九佐さんが探るようにして声をかけた。
「映画評論家の笠島 健次だ。名作映画の鑑賞会などと言う、くだらない罠につられて来たらこの様だ。こんな三流映画の舞台にすら使えんような場所で映画の上映なぞ、笑い話にもなりはしないわ。本当に、馬鹿にされてしまった」
ふて腐れたようなその顔は、どうにも神経質そうな印象を与えてくる。
たぶん、この人頑固だ。すぐ怒ったりしてきそう。
あたしの苦手なタイプの筆頭。なるべくなら話しかけたりはしたくない。
「映画の鑑賞会、ですか。また新しい名目が増えましたね。テーマパークに演奏会、医学の勉強会とシンポジウム、食事会、ホテルのモニター。いや、実にバラエティに富んでますな」
たぶん、癖なのかもしれない。美九佐さんはまた顎髭に手をやりながら、愉快そうに頬を緩めた。
「どこの誰かわからん奴にからかわれて、何が楽しいんだ? おい、俺たちはこれからどうなる? まさか、個室くらいは用意してあるんだろうな?」
笠島さんから敵対心を含むような目でじろりと睨まれ、川辺さんは少し困ったように頭を下げながら柔らかな口調で言葉を返す。
「もちろん、それぞれにお部屋をご用意しております。今からそちらへのご案内をさせていただきますが、ただ……」
不意に、川辺さんの目があたしとお兄ちゃんへ向いた。
「白沼様のお二人は予定外の宿泊となりますので、お部屋のご準備ができておりません。幸い空き部屋はございますので、少しお時間をいただければすぐにご用意いたします」
「別に急ぐ必要もない。今すぐ寝るわけでもないからな。それより、オレは腹が減った。食事の方はオレたちのぶんもまかなえるのか?」
みんなが自己紹介をしている間中、終始眠ったように目を瞑り続けていたお兄ちゃんが、静かに瞼を開く。
「ああ、食事に関しましてはご心配なく。調理場の地下に備蓄があるのを確認しております。あれだけの量ならば、この人数でも半月凌げるくらいはあるでしょう」
「そうか。それなら良い。昼食の時間は何時からだ?」
「一応、十二時半くらいになるかと。何ぶんわたくし一人でやらせていただきますので、至らない部分も多々出てきてしまうかと思いますが、その際はご容赦ください」
現在の時刻は十一時二十分。つまり、お昼ご飯まではまだ一時間もあることになる。
「それなら、オレは昼食までここにいよう。その間に部屋を割り当ててくれれば問題ない」
「はぁ、そうですか。それでしたら、他の皆さまには取りあえずご用意してありますお部屋へ案内させていただきますので、それぞれお荷物を持ってついてきてください。十二時半近くになりましたら、一階の北側、一番奥のドアが食堂への入口になっておりますので、そちらへ集合してください」
一階の北側。川辺さんがそう言って指差したのは、この研究所を正面から見て右側。
こんな木に囲まれた場所にいきなり来ると方向感覚が鈍くなるなと、そんなことを考えてしまう。
「あー、やっと少し休めるか。着いたばっかなのに、何だかすげー疲れた気分だぜ」
川辺さんの話が終わると同時、伊藤さんが荷物を手にして真っ先に立ち上がる。
「……ねぇ、恭一」
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