裏切られ死に復活した魔王は、勇者へ復讐する

さめ

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003.旅立ちと遭遇

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 まずは勇者を探さねば・・・。

 魔王城に眷族の反応も感じられぬ。以前ならば眷族を送り込み、用は済んだのだがな。
 1人というのは不便な物だ。また眷族を作りださねばならぬとは。

 ・・・いや、それは後ほど考えるとしよう。今再び、勇者の傀儡となっても困るからな。

 玉座の間を出て自室に入ると、そこは埃まみれになった空間が広がっていた。

「先ほどは思い至らなかったが、あれからどれ程の時が流れたのか」

 アガリアレプトに聞けばよかったが、今となっては奴は灰と化している。
 まあいい・・・、人間の街にでも行けば分かる事だ。

 幸か不幸か、我はもはや人間と見分けがつかぬ。

 だが目立つ行動は禁物だな。

 この人間の体になってからも、不死の呪詛が有効であるかも分からぬし、有効であっても奴は未だにシャムシールの剣を、所持しているかもしれぬからな。

 だが・・・我が野望までもう一歩であったが、ただ敗北するのではなく、屈辱的な敗北を与えた勇者に復讐せねば気が済まぬ。

 先程の魔術を行使した時も、こうして体を動かしている時も、体が変わっただけで力が落ちているわけではないようだ。

 だとすれば純粋な力は我の方が上。だが、真っ向からぶつかるのも危険であろう。

 だとすれば、我が復活した事を知らないという状況と、この人間の容姿を利用して、今度は我が策を弄して寝首を掻くのが、最良の手という事か。

 屈辱的な敗北には、屈辱的な敗北を与えてやろう。



 だが流石に裸という訳にいくまい。

「”カレーション・ド・ブジェ”」

 アイテム創造の魔術を発動し、体にあった衣服を身に付ける。
 金の装飾を施した黒の鎧ジャケットとズボン、黒に白の覆いが付いたブーツ、そして金の装飾が施されたローブに袖を通す。

 たまに魔王城に襲撃に来ていた、冒険者の格好を真似てみたのだが。
 こういう服しか来ていなかったゆえ、これで人間の中に溶け込めるだろう。

「”ディフェント・エスパケス・デ・ストケージ”」

 異空間収納の魔術を発動し、宝物庫から財宝と武具を全て吸い上げる。
 もはや主人のいなくなるこの城に、財を残していく必要はない。

 全て持って行く事にしよう。



 魔王城から出たものの、まずはどこに行くべきか。

 勇者が勇者として称えられているのであれば、どの人間の街に赴いても情報は得られそうだ。

 ここから一番近い人間の街は・・・分からんな。

 魔族の中で特筆した力を持ってからというもの、魔王と担ぎあげられてからはほとんどこの城にいたからな。

「ん? 何故人間がここに?」

 魔王城に道具を持って歩いてくる人間が数人。

「魔王城にある財宝はまだ見つかっちゃいねえ! 俺達が見つけて大金持ちになるぞ!」

 ずいぶん都合よく、説明口調で歩いてくるものであるな。
 つまりは賊であるという事か。

「なんだぁ? 兄ちゃん! お前も宝探しか?」

「気安く我に話しかけるな、俗物が。見逃してやるゆえ、早々に立ち去れ」

「ああん? 宝を独り占めしようってか? いい度胸じゃねえか!」

「話にならんとは、この事であろうな」

 1番威勢の良かった男まで間合いを詰め、そのまま胸を貫いた。
 心の臓を潰され、男は白目をむいて絶命する。

「な!? なんだ!」

「助けてくれ!」

「おかあさん!」

 残った人間は情けなく逃亡を図るが、ここで逃しても面倒だし、貴重な情報源である。

 逃がしはしない!

 首を折り、胴体を破壊し、一方的な蹂躙を行い人間を始末するが、腰を抜かして震えていた男だけを残す。

「うわあああ! 悪夢だ! 俺は悪夢を見ているんだ!」

「やかましいことこの上ないな」

 男の頭を掴み、そのまま持ち上げる。

「ぎゃああああ! 痛い! 痛い! 殺さないで!」

「大人しくするのであれば、解放してやろう」

 その言葉で男は痛みを堪えながら、身じろぎひとつしなくなる。

「良いぞ。”テレパ・チーイ”」

 読心術の魔術で、男の頭の中にある街の場所と、その光景の記憶を吸い上げる。

 これで我の空間転移の魔術も使えるというもの。

 新しい体にも大分慣れてきた。こいつ等も役には立ったようだな。

 人間から手を離し、力なく落ちた人間は地面に力なく倒れた。

「あんた何者だよ・・・」

「我はただの復讐者だ」

 顔を踏みつけて再度悲鳴を上げさせる。

「そうだ・・・まだ知りたいことがあったな」

 男に手をかざし、読心術の魔術を発動する。

「魔王討伐から10年だと? あの勇者が今や王都にあるアカデミーの校長やっているとは」

 思ったよりも時は流れ、そして勇者の立場も変わっているとは。
 知識も一緒に吸い上げたので、王都もアカデミーというのも、どういうところか分かるが、どうやって近づいたものか・・・。

「足をどけてくれよ! 解放してくれるんだろ!?」

「そうだったな」

 足をどけて最寄の街に向けて歩き出すが、

「”フラム・デ・オンフェアー”」

「ぎゃあああああああああああ!」

 アガリアレプトは数秒耐えたが、一瞬で灰となってしまったか。

「約束どおり解放した。恐怖からな・・・」

 奴の記憶を吸い上げたことで、街の近くまでは空間転移の魔術が使えるようになった。

 では向かうとするか。

「”トランジシオン・スパティアル”」

 空間に穴が開き、そこを歩いて通過すると、目の前に石造りの壁で囲われた街が見えた。

 あそこが男の居た街”ノド”か。

 魔王城に最も近いゆえに、高い石壁を造ったそうだが、今となっては無駄となってしまっているのだろう。

 では情報収集を・・・

「やめてください!」

 人間の女の声だな。

「ねえちゃん! 遊ぼうぜ~! 楽しませてくれよ!」

 兵士の格好をした男数人に囲まれているな。

「私はアカデミーへの入学試験があるんです! そんな時間はありません!」

 女は毅然とした態度をしているが、震えているのが分かる。
 なんとも滑稽な様相ではないか。

 問題に巻き込まれては、目立たずに紛れ込めなくなってしまう。
 回り道をして、街に向かうしかあるまい。

「あ! そこの魔法使い? いや・・・剣士? の方! どうか助けてください」

「あ? 勇敢なお兄さん! 俺たち王国騎士に勝負を挑もうってか?」

「いい度胸だな! この人数相手に勝てるのかよ!」

「こいつ弱そうだぜ! 半殺しにして金目のものを奪おう!」

 我は返事すらしていないのだが。

 露払いをしなければならぬか・・・。
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