裏切られ死に復活した魔王は、勇者へ復讐する

さめ

文字の大きさ
4 / 7

004.騎士と少女

しおりを挟む
 ただの人間の騎士が5人。

 話にならぬな。これでは運動にすらならない。
 勇者以外の強者はおらぬと思うが、勇者以外の人間の強さをしる良い機会とでも思うか。

「”カレーション・ド・ブジェ”」

 剣を創造し、人の体躯での稼働を確かめるために何回か剣を振るう。
 その衝撃で風が舞い、騎士共が顔を覆っている。

「なんだぁ!?」

「案ずるな・・・ただの鉄の剣である」

 驚いた顔をしている騎士共に、遠慮なく踏み込む。

 通り抜けざまに2人の騎士の首を落し、地面を抉りながら自らを静止させる。

「は!? え?」

 何が起きたか分からないのか、残った3人は叫ぶ訳でもなく、ただただ棒立ちしている。
 ようすから察するに、目ですら我の動きを追えていなかったようだ。

 弱すぎる・・・。勇者が特別なのか、それともこいつらが特別弱いのか・・・。

 だが我に刃向った人間に、手加減などはせぬ。

「テ・・・テメー! 何しやがった?」

「冬を迎えた樹木が葉を落とすように、その足らぬ頭を落としただけだが?」

「王国騎士を殺害するとは、最大級の罪だ!」

「人が我を裁くと言うか!」

 魔王げなく大声を出してしまったか。しかしこれだけで後ずさりするとは、なんとも哀れな生き物だ。

「飽きた、死んでもらおう」

 再び踏み込み、鎧ごと真っ二つに切り裂き、2人を人間だったものに変える。

「ひいいいいい!」

 残った一人が大げさな態度で逃亡を図るが。

「逃がしはせぬよ。”トネール・デ・オンフェアー”」

 巨大な雷が逃げた騎士を襲い、地面ごと煙を上げて絶叫すらせずに絶命した。

「他愛のない・・・害虫駆除となんら変わらぬ」

 とはいえ、死体をこのままという訳にもいかぬか。

「”フラム・デ・オンフェアー”」

 死体を全て鎧ごと消炭にし、ここに人間がいた形跡すら消してしまう。

「あの・・・」

 そうか・・・。この娘の処分を忘れていた。

「ありがとうございます!」

 ん? 何故我にお礼を言うのだ? そうか・・・この娘は助けられたと勘違いしているのか。

「とてもお強いのですね。剣に加えて見たこともない魔法も使えるなんて!」

 何故か分からぬが、勝手に話を進めているな

 それに魔法ではなく魔術なのだが。そうか・・・人間が行使するのは魔法であったな。

 それにこの娘の風貌は、勇者パーティーにもいた魔法使いの格好に似ている。
 くの字に先端が折れた帽子を、深く被っているので顔は良く見えぬが、青みがかったローブに白のリボン、金色の長い髪のようだが。

 そして身の丈程もある三日月の装飾がある杖も持っている。

 恐らくは魔法使いだからこそ、魔法と判断したのかもしれぬな。

 だとするのならば、魔術を行使する者がいると吹聴されぬよう、ここで始末してしまう方が・・・。


「この時期に実力者が街に来るなんて・・・もしかして、あなたも”クレジュア・アカデミー”の入学試験に?」

 アカデミーだと? 勇者が校長とやらをやっているというやつか?

「それは勇者が設立したという奴か?」

「そうですけど・・・知らないのですか?」

 この口ぶりだと、この娘もそのアカデミーとやらに入る為に訪れたのだろう。

 情報収集と勇者への接近、我もそのアカデミーに入るというのは得策かもしれぬ。

「いや・・・確認しただけである。我もそのアカデミーに入ろうと思って参ったのだ」

「ずいぶん変わった話し方ですね」

 むう、これでは人間に紛れるのも難しいのだろうか。

「ここより離れた彼の地より参ったのでな。浮世離れしているのかもしれぬ」

「そうなんですね。変わった服装ですし・・・」

「我はそこそこ気に入っているのだがな。ところで、そのアカデミーというのはどうすれば入れるのだ?」

「知らないのですか?」

「アカデミーの噂を聞いて参っただけなのでな」

「そういう事ですか。では助けて頂いたお礼にご案内しますね。一緒に入試の申し込みをしましょう」

「良かろう、我に同行するのを許そう」

 記憶を読み取ってもいいのだが、都合の良い人間の協力者も必要であろう。
 記憶だけが人間に溶け込む為の、知とは限らぬからな。

 こやつの所作すらも、今の我には貴重な情報と成り得る可能性すらあるからな。

 ノドに向かって歩き出す娘だが、1つの疑問が浮かぶ。

「娘よ、貴様は我の所業を見ても何とも思わぬのか?」

「・・・このままという訳にはいきませんよね」

 言葉に力がこもっている。何やら事情があるようだが。

「・・・その理由を話す事は、私がアカデミーへ入ろうとする理由を話すのと、同一の事になってしまいます」

「ならばよい。貴様は先程の所業を見なかった、我は今の話を聞かなかった。そうであろう?」

「はい・・・ありがとうございます」

 真っ当な理由とは思えぬが、小奴を利用するのには必要な情報ではない。

 我の所業を広められても困るしな。
 勇者に我の復活を悟られるのは、何とも避けたい事象である。

 不要になるまでは、利用させてもらうぞ・・・小娘。



 ノドまでの僅かな道中、今度は小娘から問いかけられる。

「あの・・・お名前は何と言うのですか?」

「我の名か・・・」

 遥か昔に魔王と呼ばれるようになってからは、自らの名など名乗る事が少なくなった。
 魔王と言えば我を指し、いつしか我の名などを忘れられたころ、配下も我を魔王と呼んでいたからな。

 もはや我が名を口にしても、もはや古の魔族以外、ましてや人間が知るところではないか。

 それを確かめるためにも、娘に名乗ってみるのも一興か。

「我が名はルキフェルである」

「ルキフェルさん・・・ルキさんとお呼びしても?」

「図に乗るな・・・人間の娘」

「なんだかルキさんって、昔の魔族みたいですね」

 ふざけてると思われたのか、クスクスと笑う娘に不快感を覚える。
 だが我が名を聞いても反応が無い所を見ると、我の名は伝わってはいないようだ。

「・・・すいません、怒りました?」

「怒りを覚えていれば、即座に始末している。不快に感じただけである」

「お詫びに私の名前もお教えしますね。リリスと言います」

「貴様の名などに興味はない」

「ちょっとは興味持って下さいよ。折角見た目も良いし、背も高くて強いんですから。そんな態度では、女の子を口説けませんよ?」

「元より娘などいらぬ」

「もったいないですよ」

 ・・・始末しとけばよかったと後悔の念に襲われる。
 あまりの馴れ馴れしさに今すぐ殺してしまいそうだが、我も今は我慢のしどきなのだろう。

 記憶を吸い上げて、跡形もなく燃やせばいいのだろうが、生きた情報源も必要だ。
 ここは代役が見つかるまでの我慢であろう。



 ノドの街の街道門をくぐり、往来する人間の間をすり抜けながら、白く大きな石造りの建物に到着する。

「ここが校舎です。受付に行きましょう」

 なるほど、ここが人間の学び舎という訳か。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...