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しおりを挟む「まさかルナ殿がS級冒険者だったとは…」
あれから騎士団員の方がたくさんやって来たのだが既にドラゴンが倒されていたのを見て驚いていた。おそらく団長様が倒したと思ったのだろう。騎士団員の団長様を見る目が輝いて見えたので間違いない。私のことはその場に居合わせた一般人とでも思っていそうだ。
団長様はあまり大事にしないように言い含め、後の処理を騎士団員の方にお願いをして私と共にその場を後にした。
ちなみにお肉は尻尾の部分ならいいだろうとのことでしっかり頂いてきた。今は鞄の中に入っている。
そうして今は私のお店で説明をしていたところだ。
「特に隠していたわけではないんですが、こういう形でお伝えすることになってしまって申し訳ありませんでした」
「いや!ルナ殿が謝ることではない!今回はルナ殿のおかげで何の被害も無く済んだんだ」
「でも団長様に秘密だと言ってわざと隠していた手前申し訳なくて…」
「気にしないでくれ。確かに驚きはしたがルナ殿はルナ殿に変わりないのだから何の問題もない!」
「団長様…」
団長様が優しすぎて泣けてきそうだ。どうしてこの方はこんなに優しいのだろうか。
「ただ気にはなるのだが、ルナ殿がS級冒険者だということなら今までの料理に使われていた食材はルナ殿が自ら?」
「ええそうです。ライージュ国の各地を巡って集めているんです」
「そうだったのか。しかしそれにしてもルナ殿程の実力者であれば王都で話題になっていてもおかしくないのだが…」
「うーん、多分王都のギルドでは依頼を受けたことがないからですかね?基本的に地方で魔物討伐の依頼を受けてますから」
「なるほど。でもS級冒険者ともなればお金には困らないのでは?それなのになぜこの店を?」
団長様の言う通りで私はお金に困ってはいない。元々の預金もあるし魔物討伐で得る報酬もある。それに魔物食材以外の部位はギルドで買い取りもしてもらっているのでむしろ貯まっていくばかりである。
それでもこの食堂を続ける理由は簡単。私の夢だから、それだけだ。
「このお店は私の長年の夢なんです」
「夢…」
「それに冒険者になるのも夢だったんです。本来ならこの二つの夢は叶わないはずでした。でもそんな私に機会が巡ってきたんです。おそらくこんな機会はもう二度と無いようなそんな奇跡が起きたんです。それならその機会を無駄にせず夢を追いかけようって決めたんです」
「そして夢を叶えたと」
「はい。忙しいですが毎日がすごく楽しいんです。冒険者として困っている人を助けられるし、お店では料理を美味しいと言ってお客さんが笑顔を見せてくれるのが嬉しいんです。それにこうして団長様と出会うことができましたから」
「っ!…私もルナ殿に出会うことができてよかった」
「え?あ、ふふっ、団長様は冗談も上手なんですね!」
さすがにイケメンで優しい団長様にそんなことを言われたら勘違いしそうになる。この方はライージュ国の騎士団長様だ。そして私はただの平民。不釣り合いにも程がある。なんとか冗談として話を逸らそうとしたが団長様は真剣な眼差しで私を見つめている。
「っ!団長様…?」
「冗談などではない。私は本当にそう思っている」
「…でも平民の私と出会ったって団長様には何の利益にもなりませんよね?」
「利益などそんなもの関係ない。私は心からルナ殿に出会えてよかったと思っているんだ」
「それは、どうして…?」
「…ルナ殿のことが好きだ」
「えっ?」
(今、団長様の口から私が好きだって聞こえてきたけど…本当に?)
「初めてこの店で会った時のルナ殿の笑顔が今でも忘れられないんだ」
「あの時?」
「…ああ。でもルナ殿にとったら俺はただの客の一人でしかないのは分かっている。それでもいつか私のことを一人の男として見て欲しいとも心のどこかで思ってしまっているんだ」
「団長様…」
「突然すまなかった。今日は疲れているだろうからゆっくり休んでくれ。…また会いに来る」
そう言うと団長様は店から出ていってしまった。
「団長様が私のことを好き…?…ど、どうしよう!?わ、私前世を合わせてもまともな恋愛経験がないからこういう時どうすればいいのか全然わからないっ!」
私は団長様が出ていって一人になった店の中で頭を抱え悶えるのだった。
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