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家の中に入る前に、気がついた。
わたくしを送ってくれたデンゼルの姿は既にない。
(どうしましょう)
よく考えればわかることだけれど、門扉の所に兵士がいないのだ。
入り口の所にも。
ということは、この家に人はいないのだろうか?
塔で暮らしていた時は、人がやってくるばかりでわたくしから何かをすることなんて許されなかったし……こういう時、どうしたらよいのかしら。
「あ……」
扉に触れてみると、開く。
そのことに驚きつつも足を踏み入れてみると、中は綺麗だった。
「あれえー、奥様がもういらしたんですかあ」
「えっ、あ、あの……ごめんなさい、誰もいなかったものだから……」
「あんれまあ、旦那様はどうなすったんですかあ。まったく仕事人間も大概になせえとあれほど申しましたのにねえ」
館の中から現れたのは快活に笑う老婆で、わたくしはどうしていいのかわからなかった。
そもそも、塔の中で暮らしていたから侍女たちとも碌に接していないけれど……彼女がお姉様のところの侍女とは違うということくらいはわかる。
(怒っている風、ではない……のかしら)
ただ立ち尽くすしかできない私を見て、老婆は首を傾げて外に出てみて、不思議そうな顔をしている。
「あんれまあ! 奥様、まさかお一人なのですかあ」
「え? ええ、そうだけれど……」
「奥様んとこの侍女さんとかおられねえんですかあ」
「……ええ、輿入れの際のみということでお姉様のところの侍女が着いてきてくれただけだから……」
老婆の問いに私は不安になる。
やはり私だけでは生け贄には足りない、そういうことなんだろうか。
侍女たちにも家族がいるのだから、王族が犠牲になってしかるべきだとお母様にも言われているのだけれど……足りないと言われたならば、どうしたら良いのかしら。
「あんれまあ……」
びっくりしたような顔の老婆は私の前にくると深々とお辞儀をしてくれた。
そして申し訳なさそうにエプロンで手を拭きながら私を見上げる。
「あたしゃあこの近所に住むエヴリンってもんでねえ。奥様にゃあ申し訳ないけんども、日中の掃除と旦那様の料理を作りおくっていう仕事をしていて……トシもトシだけん、夕方には帰っちまうのよ」
「そ、そうなのね」
「奥様んとこで侍女さんを連れてくるだろうから大丈夫だって旦那様からは聞いてたんだけんども……」
「いいえ、ありがとう教えてくださって。まだ帰る時間までに余裕があるならば、この館の中を案内してもらっても……?」
「そのくらいでしたらお安いご用ですよう」
とりあえず、エヴリンは私に対して丁寧に振る舞ってくれて、あれこれと教えてくれただけでなくお茶も淹れてくれた。
明日も来るからねという彼女を見送って、ほっと息を吐き出す。
「……わたくし、生け贄に来たのに……こんなことでやっていけるのかしら」
とりあえず、エヴリンの言葉からあの方がこの家で暮らしていることはわかったし、お戻りになったら今後のことについて相談しなくては。
わたくしは生け贄だから、身一つで良いのだと国王であるお父様に言われていたし、そもそも個人的な持ち物もなかったからそういうものだと思っていたけれど……エヴリンは、わたくしがここで暮らしやすいように部屋まで用意してくださっていると聞いたわ。
となると、生活するのに服を繕わねばならないのかしら。
……布くらいは与えてもらえるのかしら?
「帰った」
「ひゃい!」
ぼんやりと扉に背を向けていたら男の人の声が!
と思ったらゼノン様だった。そういえば、仕事を片付けたらすぐ戻ると仰っていて……あれはその場だけのお話ではなかったのね。
「お、おかえりなさいませ」
「……ああ」
「あ、あの、エヴリンならば先ほど帰ってしまいました」
「……そうか」
「……」
「……」
ど、どうしましょう!
普段から会話などしたことのないわたくし、なんと話しかけて良いのかわからないわ!!
わたくしを送ってくれたデンゼルの姿は既にない。
(どうしましょう)
よく考えればわかることだけれど、門扉の所に兵士がいないのだ。
入り口の所にも。
ということは、この家に人はいないのだろうか?
塔で暮らしていた時は、人がやってくるばかりでわたくしから何かをすることなんて許されなかったし……こういう時、どうしたらよいのかしら。
「あ……」
扉に触れてみると、開く。
そのことに驚きつつも足を踏み入れてみると、中は綺麗だった。
「あれえー、奥様がもういらしたんですかあ」
「えっ、あ、あの……ごめんなさい、誰もいなかったものだから……」
「あんれまあ、旦那様はどうなすったんですかあ。まったく仕事人間も大概になせえとあれほど申しましたのにねえ」
館の中から現れたのは快活に笑う老婆で、わたくしはどうしていいのかわからなかった。
そもそも、塔の中で暮らしていたから侍女たちとも碌に接していないけれど……彼女がお姉様のところの侍女とは違うということくらいはわかる。
(怒っている風、ではない……のかしら)
ただ立ち尽くすしかできない私を見て、老婆は首を傾げて外に出てみて、不思議そうな顔をしている。
「あんれまあ! 奥様、まさかお一人なのですかあ」
「え? ええ、そうだけれど……」
「奥様んとこの侍女さんとかおられねえんですかあ」
「……ええ、輿入れの際のみということでお姉様のところの侍女が着いてきてくれただけだから……」
老婆の問いに私は不安になる。
やはり私だけでは生け贄には足りない、そういうことなんだろうか。
侍女たちにも家族がいるのだから、王族が犠牲になってしかるべきだとお母様にも言われているのだけれど……足りないと言われたならば、どうしたら良いのかしら。
「あんれまあ……」
びっくりしたような顔の老婆は私の前にくると深々とお辞儀をしてくれた。
そして申し訳なさそうにエプロンで手を拭きながら私を見上げる。
「あたしゃあこの近所に住むエヴリンってもんでねえ。奥様にゃあ申し訳ないけんども、日中の掃除と旦那様の料理を作りおくっていう仕事をしていて……トシもトシだけん、夕方には帰っちまうのよ」
「そ、そうなのね」
「奥様んとこで侍女さんを連れてくるだろうから大丈夫だって旦那様からは聞いてたんだけんども……」
「いいえ、ありがとう教えてくださって。まだ帰る時間までに余裕があるならば、この館の中を案内してもらっても……?」
「そのくらいでしたらお安いご用ですよう」
とりあえず、エヴリンは私に対して丁寧に振る舞ってくれて、あれこれと教えてくれただけでなくお茶も淹れてくれた。
明日も来るからねという彼女を見送って、ほっと息を吐き出す。
「……わたくし、生け贄に来たのに……こんなことでやっていけるのかしら」
とりあえず、エヴリンの言葉からあの方がこの家で暮らしていることはわかったし、お戻りになったら今後のことについて相談しなくては。
わたくしは生け贄だから、身一つで良いのだと国王であるお父様に言われていたし、そもそも個人的な持ち物もなかったからそういうものだと思っていたけれど……エヴリンは、わたくしがここで暮らしやすいように部屋まで用意してくださっていると聞いたわ。
となると、生活するのに服を繕わねばならないのかしら。
……布くらいは与えてもらえるのかしら?
「帰った」
「ひゃい!」
ぼんやりと扉に背を向けていたら男の人の声が!
と思ったらゼノン様だった。そういえば、仕事を片付けたらすぐ戻ると仰っていて……あれはその場だけのお話ではなかったのね。
「お、おかえりなさいませ」
「……ああ」
「あ、あの、エヴリンならば先ほど帰ってしまいました」
「……そうか」
「……」
「……」
ど、どうしましょう!
普段から会話などしたことのないわたくし、なんと話しかけて良いのかわからないわ!!
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