愛情をひとかけら、幸せな姫の物語

玉響なつめ

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 翌日、わたくしは大変お恥ずかしい話ですが、立つことがままならず……朝やってきたエヴリンに身支度を手伝ってもらわねばならないほどでした。
 彼女はわたくしがベッドで指一本動かせない状況にぎょっとして、傍らでオロオロするゼノン様に病気なのかと大声で問うた後、事情を聞いてなんとゼノン様を蹴ったのです!

 エヴリンは大変小柄な老婆であるのに、飛び上がってゼノン様を蹴るだなんて……彼女は昔、格闘技でも嗜んでいたのでしょうか?
 あの時は本当に驚きました!

 勿論、彼女の攻撃程度でゼノン様はびくともいたしませんし、激高して手打ちにするようなことなどなさいません。
 そもそも、わたくしの体力がなさすぎたせいで、閨を共にした翌朝起きられないだなんて……本来ならば館を預かる女主人として、あってはならないことなのでは?

 ですが、反省しきるわたくしを着替えさせ椅子に座らせ、甲斐甲斐しく世話をしてくれるエヴリンはそうではないようでした。

「まったくもう。いっくら可愛い嫁っこぉもらったとはいえ、こぉんな無理ィさせるだなんてよう! 軍人ってなあどうしてこう、手加減ってぇもんが下手なんだろうねえ!」

「エ、エヴリン、旦那様は悪くないのよ? ゼノン様は普段からわたくしのことを気遣ってくださるの。だけれど、その、わたくしがあまりにも体力がないから……」

「奥様はほんにお優しいことで……塔の中でお暮らしだったそうですし、慈愛の人は生まれつき体が弱いモンですからねえ。体力ばかりは、奥様のせいじゃあねえですよう」

「でも……」

「旦那は女房のことを大事にして一人前ですよう! あたしも夫が元軍人でしてねえ、まあこちらのご主人ほど出世はしやしませんでしたがよう、体力馬鹿でこっちがいつもヒィヒィ言わされたもんですよう」

「そうなの……」

「まったく、せめて奥様のお着替えだけでも手伝えるようになってもらわにゃあ困っちまいますよう!」

 プリプリするエヴリンはわたくしの身を案じてくれているのだとわかる。
 それがとても嬉しくて笑みがこぼれたところで、思い出す。

「あっ、そうだったわ! 今日からこの館で侍女と執事が来るって……」

「あんれまあ!」

 身支度を調えた後、エヴリンに支えてもらうようにして食堂に行くとゼノン様がソワソワとしたご様子で歩き回っておられました。
 わたくしたちの姿を見てほっとしたご様子でしたので、エヴリンが毎朝買ってきてくれるパンと、彼女が作ってくれた朝食を囲みます。

「旦那様あ、侍女を正式に雇われるそうでえ。そうするとあたしゃあどうします?」

「ああ、俺が雇うわけじゃないんだが……正直、エヴリンがコレまでと同じように来てくれると、助かるんだが……そうだな、頼まれてくれないか」

「はいはい、なんでしょうかあ」

 ゼノン様がカップを置く。
 そして真面目な顔で言葉を続けられました。

「新しくここで働く人間たちの不満を聞いてほしいんだ。それとなくでいい。俺のような化け物のところで働いてくれる以上、彼らにとって不快でない環境を作りたい」

「そんな……ゼノン様はこの国の英雄! なによりも、王太子殿下が選別した使用人が来るのでしょう?」

「そうですよう、旦那様あ。ちょいと繊細すぎるんじゃあないですかあ。あたしゃ旦那様のことを化け物だなんて思ったことはこれっぽっちもねえですよう」
 
「……エヴリンのような人もいると理解しているし、クレオン……様が選んだ人間を疑うわけじゃない。だが、それでも……俺は化け物だ。そのことを忘れて、誰かが不快になることは避けたいんだ」
 
「ゼノン様……」
 
 コレはきっと何を言っても受け入れてくださらない。
 わたくしとエヴリンは、そっと顔を見合わせたのでした。
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