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ローズの覚悟。

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ライラック伯爵家の客間の前で、父の連れてきた女性の声が聞こえた。お花摘み(トイレ)の帰りに聞こえた声にローズはその部屋の前で立ち止まった。

「まあ、まあ、まあ、リンダお嬢様。お久しぶりでございます。」
「アンナもお元気で。」
年配の侍女長がリンダに挨拶をする。

「まあ!! リラお嬢様は、お小さい頃の旦那様にそっくりで。」
「ああ、アゼリアにも似ているだろう。」
リラを見て、レムスに似ていると声を上げた。その言葉にレムスも息子に似ていると頷いた。

「ええ、本当にコレはまさしくリーズ侯爵家のお血筋ですね。」
リーズ侯爵家はレムスの生家である。三男であったレムスは子供の頃にライラック伯爵家を継ぐ者として養子縁組をした。しかし一人娘マーガレットとの婚姻したことで入婿となった。

「本当に仲の良い二人でしたのに…… それなのに引き裂かれて、しかし宜しゅうございました。」
ほろりと、アンナは涙をこぼす。

その声は大きく、娘ローズにの耳によく届いていた。

(アンナが知っているの…… )
アンナは父がリーズ侯爵家からライラック伯爵家に養子に入る時に共についてきた父の乳母でもある。

(あの女性はお父様の幼馴染? 子供の頃から仲がよかったの? 引き裂かれたって、お父様はあの女性が好きだったの? あの女性もお父様のことが…… ) 
淑女としてははしたないが、ローズは細く扉を開け中に聞き耳をたてた。

「お父さまと離れていて寂しいけれど、お姉さま達と会えて嬉しいの。」
「そうね、仲良くなれるといいわね。私もマーガレット様と仲良くなりたいです。」
「マーガレットとなら、直ぐに仲良くできるだろう。」
リラが嬉しそうに言うと、リンダも夫人と仲良くなりたいと言い。直ぐ仲良くなれると、レムスは当然のように頷いた。

「リラ。お姉さまも弟もできたけど、お兄さまと妹も欲しいな。」
リラがぼそりと呟く。

「まあ、まあ、まあ、リラお嬢様。お兄様はともかく妹様はお父様に頑張ってもらったら御出来になりますよ。」
「ほんと、お母さま? 」
リラは明るい笑顔を母に向けた。

「ええそうね、お父様が頑張ってくれたら…… 」
「……うむ。」
きらきらと目を輝かすリラから目を反らして、リンダはレムスを見る。二人は目を合わせ、はにかみながら目を反らした。


もう聞いていられなくなったローズは、その場を後にする。

「勝手なことを言って!! 」
(妹なんていらないわ!! )
ローズは心の中で叫んで自分の部屋に駆け込んだ。
 
『お兄さまと妹も欲しいな。』
(なに、勝手なことを言っているの!! )
ローズはベッドの近くまで来て枕を持ち、何回もベッドに叩きつけた。怒りがおさまらない。

『妹様はお父様に頑張ってもらったら御出来になりますよ。』
(アンナ…… )
何時も優しく、信頼していた侍女長にも裏切られたようで哀しくなる。ぴたりと動きを止めて、唇を噛む。

『お父様が頑張ってくれたら…… 』
父と目を合わせ、はにかみながら目を反らし合う女性。扉の隙間から見てしまった、父と女性の睦まじい姿。

(酷い、酷いわ!! お母様を裏切って!! お父様の馬鹿!! )
口数は少ないが父は、母を愛していると思っていた。

(お父様の馬鹿!!! )
自分と変わらない歳のリラを見て、父は何年も母を裏切っていた事に哀しみがとまらない。ローズの目から涙が止めどなく溢れた。

『リラ、お姉さま… 』
(アゼリア…… )
何も知らずに、もじもじとリラを姉と呼ぶ弟。 

夫の裏切りを知って、青ざめ床に伏せる母。

「私が、しっかりしないと…… 」
ローズは枕を握り締めた、しかし涙は止まらない。

『ローズお姉さま。』
屈託のない明るい、弟と似た笑顔を向けて来るリラ。

「認めない…… 」
(妹なんて、認めない。)
ローズはベッドに伏せて、声を殺して泣いた。

侍女が夕食の準備が出来たと呼びに来ると、涙を拭き母と弟を護る為に背筋を伸ばして自分の部屋を出ていった。










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