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幼なじみが泊まりに来た件③
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…眠れない。
「…っ、」
ベッドに潜り込んで、耳にイヤホンを当ててから数時間後。
もう既に深夜なのに、あたしはまだ寝付けずにいた。
…いや、というか、音楽を止めて寝るって方法も知ってる。
だけど止めちゃうと、今日起こった嫌なことを思い出しちゃいそうだから。
今日は、耳に流れてくる音楽を止められない。
…しかし、その時だった。
「…?」
耳を塞いでいても、なんとなく、部屋の中に気配を感じた。
…いま、部屋に誰か入って来たような…。
そう思って一旦イヤホンを外し、恐る恐る布団から顔を出すと…
「…世奈?」
「っ…!?」
なんと部屋の中には、いつのまにか健がいた。
どうして今の時間帯に、何を思って入って来たのか全くわからないけど、あたしはびっくりして思わず声を上げそうになる。
でもその声をなんとか抑えて、代わりに文句を口にした。
「ちょ、何でアンタがここにいんの!」
「や、色々思うことがあって。っつか起きてたの?」
「だってなかなか眠れなくて…。…あっ、まさか泊まりに来たからって夜這いとか考えてる!?」
そう言って、「出てってよ!」とそいつに向かってクッションを投げつけるあたし。
あたしが誰にでもヤラしてくれるっていうウワサ、もしかしてまだ信じてんの!?
だけどそのクッションを健は綺麗に受け止めると、それを抱えながら言う。
「違ぇよ。っつか落ち着け」
「どこが違うの!実際こうやって女の子の部屋に侵入してるじゃん!」
「だ、だからそれは…」
健はあたしの言葉にちょっと躊躇いながらそう言うと、ベッドの上に座るあたしに近づいてくる。
そんな健を前にして、思わず体を後ずさるあたし。
「な、何でこっち来るの。近づいて来ないでよ」
「警戒心強すぎ。そんな心配しなくても誰もお前なんか襲わねぇって」
「……」
「…あ、ごめん違う。そういうことを言いに来たんじゃなくて」
「…?」
健はそう言うと、ぽすん、とあたしのベッドに腰を下ろす。
そしてちょっと黙り込んだあと、やがてあたしに言った。
「……謝りに来た」
「?」
「今日、世奈が襲われて辛い目にあったのに、俺は一言も世奈に優しい言葉、かけなかったから」
「!」
「あと、今まで、世奈を傷つけてきたこと全部。全部、謝りに来た」
そんな珍しい言葉を言われたと同時に、ふいに健と目が合う。
部屋が薄暗くてその表情はわからないけど、声を聞く限りでは多分、真剣そう。
だけど、どうして今更?
そりゃあ今日は健にも傷ついたけど…今までの分全部って、半端ないエピソードの数があると思う。
だからあたしは、健に言った。
「…別にいいよ。謝らなくたって」
「…」
「確かに健には今までいっぱい傷つけられたけど、そんなの今更だし。その時謝ってほしかった。
…そうだな。去年のバレンタイン当日に、あたしが元彼にフラれた後、渡せなかった手作りチョコを健にあげたのに、目の前でゴミ箱に捨てられた時が何気に一番ショックだったかな」
あたしはそう言うと、「まあそんなチョコを健に渡したあたしも悪いんだけどね」と苦笑いを浮かべる。
…うん。あの時は、失恋よりも泣いたな。何故か。
だけどあたしがそう思っていると、そのうちに健が言った。
「……ごめん」
「…?」
「あの時は、世奈が元彼のために一生懸命作ったチョコだって思ったらムカついたから捨てた。
…どーせ作ってくれるんなら、他の誰のためでもない、俺のためだけに作ったチョコが欲しかった」
「!」
「…けど、思えば確かに最悪だよな。だったら貰わない選択をした方がまだマシ」
健はそう言うと、再度あたしに「ごめん」と謝る。
だけど、そんな健にあたしは返事も出来ずに固まったまま。
…だって、それって…
だけどあたしが何も言えないでいると、そのうちに健が不思議そうにあたしに問いかけてくる。
「…世奈?」
「!」
「どした?」
「……あっ、」
…正直、こんなはっきり言われると照れ臭い。
健の気持ちは、この前からわかってた…はずだけど。
でも不意打ちでそんなこと言わないでほしい。
普段はわかりづらすぎてほとんど伝わってこないのに、たまにこうやって、急に痛いくらいに健の気持ちが伝わってくるから。
そして、あたしがそう思っていると…
「世奈、」
「!」
ふいに名前を呼ばれて、顔を上げれば。
次の瞬間、右腕を軽く引かれて、その反動であたしは健に抱きしめられた。
「…っ、」
「…ごめんって。怒ってんの?…まあ、そんな簡単に全部許して貰えるわけないのも、わかってたけど」
「…、」
「これから、挽回していくから。これからは出来るだけ素直になって、早月には…アイツには負けない」
そう言って、よりぎゅうっと強く抱きしめられるから、なんだか健の気持ちが伝わってくるようで、思わず、顔が熱くなってくる。
…今が、深夜で良かった。
何もかも見えづらいのが好都合。
…そう思っていると。
「…っし。じゃあ俺、そろそろ部屋戻ろうかな」
「!」
「世奈には、伝えたいことは伝えたし。それに、世奈ももう眠いだろうし」
「…」
健はそう言うと、抱きしめていたあたしの体を離して、ベッドから立ち上がる。
「じゃあ、おやす…」
だけど、あたしはその手を即座に掴むと、健に言った。
「待って」
「!」
「…もう少しだけ、一緒にいて?」
「え、」
あたしはそう言うと、上目遣いで健を見つめる。
だって、このままじゃ…またおんなじ。
おんなじ時間を過ごしてしまうだけだから。
それだけは、今は避けたい。
だからあたしは、目の前で少し戸惑いを見せる健に言葉を続けた。
「…そんなに、あたしのこと好きなら、もっとわかりやすく愛してよ」
「…世奈?何言って…」
「……いて」
「…?」
絞り出すように、慣れない言葉を口にしながら、あたしは健に両腕を回す。
そして、今度ははっきりと健に言った。
「抱いて、健」
「…っ、」
ベッドに潜り込んで、耳にイヤホンを当ててから数時間後。
もう既に深夜なのに、あたしはまだ寝付けずにいた。
…いや、というか、音楽を止めて寝るって方法も知ってる。
だけど止めちゃうと、今日起こった嫌なことを思い出しちゃいそうだから。
今日は、耳に流れてくる音楽を止められない。
…しかし、その時だった。
「…?」
耳を塞いでいても、なんとなく、部屋の中に気配を感じた。
…いま、部屋に誰か入って来たような…。
そう思って一旦イヤホンを外し、恐る恐る布団から顔を出すと…
「…世奈?」
「っ…!?」
なんと部屋の中には、いつのまにか健がいた。
どうして今の時間帯に、何を思って入って来たのか全くわからないけど、あたしはびっくりして思わず声を上げそうになる。
でもその声をなんとか抑えて、代わりに文句を口にした。
「ちょ、何でアンタがここにいんの!」
「や、色々思うことがあって。っつか起きてたの?」
「だってなかなか眠れなくて…。…あっ、まさか泊まりに来たからって夜這いとか考えてる!?」
そう言って、「出てってよ!」とそいつに向かってクッションを投げつけるあたし。
あたしが誰にでもヤラしてくれるっていうウワサ、もしかしてまだ信じてんの!?
だけどそのクッションを健は綺麗に受け止めると、それを抱えながら言う。
「違ぇよ。っつか落ち着け」
「どこが違うの!実際こうやって女の子の部屋に侵入してるじゃん!」
「だ、だからそれは…」
健はあたしの言葉にちょっと躊躇いながらそう言うと、ベッドの上に座るあたしに近づいてくる。
そんな健を前にして、思わず体を後ずさるあたし。
「な、何でこっち来るの。近づいて来ないでよ」
「警戒心強すぎ。そんな心配しなくても誰もお前なんか襲わねぇって」
「……」
「…あ、ごめん違う。そういうことを言いに来たんじゃなくて」
「…?」
健はそう言うと、ぽすん、とあたしのベッドに腰を下ろす。
そしてちょっと黙り込んだあと、やがてあたしに言った。
「……謝りに来た」
「?」
「今日、世奈が襲われて辛い目にあったのに、俺は一言も世奈に優しい言葉、かけなかったから」
「!」
「あと、今まで、世奈を傷つけてきたこと全部。全部、謝りに来た」
そんな珍しい言葉を言われたと同時に、ふいに健と目が合う。
部屋が薄暗くてその表情はわからないけど、声を聞く限りでは多分、真剣そう。
だけど、どうして今更?
そりゃあ今日は健にも傷ついたけど…今までの分全部って、半端ないエピソードの数があると思う。
だからあたしは、健に言った。
「…別にいいよ。謝らなくたって」
「…」
「確かに健には今までいっぱい傷つけられたけど、そんなの今更だし。その時謝ってほしかった。
…そうだな。去年のバレンタイン当日に、あたしが元彼にフラれた後、渡せなかった手作りチョコを健にあげたのに、目の前でゴミ箱に捨てられた時が何気に一番ショックだったかな」
あたしはそう言うと、「まあそんなチョコを健に渡したあたしも悪いんだけどね」と苦笑いを浮かべる。
…うん。あの時は、失恋よりも泣いたな。何故か。
だけどあたしがそう思っていると、そのうちに健が言った。
「……ごめん」
「…?」
「あの時は、世奈が元彼のために一生懸命作ったチョコだって思ったらムカついたから捨てた。
…どーせ作ってくれるんなら、他の誰のためでもない、俺のためだけに作ったチョコが欲しかった」
「!」
「…けど、思えば確かに最悪だよな。だったら貰わない選択をした方がまだマシ」
健はそう言うと、再度あたしに「ごめん」と謝る。
だけど、そんな健にあたしは返事も出来ずに固まったまま。
…だって、それって…
だけどあたしが何も言えないでいると、そのうちに健が不思議そうにあたしに問いかけてくる。
「…世奈?」
「!」
「どした?」
「……あっ、」
…正直、こんなはっきり言われると照れ臭い。
健の気持ちは、この前からわかってた…はずだけど。
でも不意打ちでそんなこと言わないでほしい。
普段はわかりづらすぎてほとんど伝わってこないのに、たまにこうやって、急に痛いくらいに健の気持ちが伝わってくるから。
そして、あたしがそう思っていると…
「世奈、」
「!」
ふいに名前を呼ばれて、顔を上げれば。
次の瞬間、右腕を軽く引かれて、その反動であたしは健に抱きしめられた。
「…っ、」
「…ごめんって。怒ってんの?…まあ、そんな簡単に全部許して貰えるわけないのも、わかってたけど」
「…、」
「これから、挽回していくから。これからは出来るだけ素直になって、早月には…アイツには負けない」
そう言って、よりぎゅうっと強く抱きしめられるから、なんだか健の気持ちが伝わってくるようで、思わず、顔が熱くなってくる。
…今が、深夜で良かった。
何もかも見えづらいのが好都合。
…そう思っていると。
「…っし。じゃあ俺、そろそろ部屋戻ろうかな」
「!」
「世奈には、伝えたいことは伝えたし。それに、世奈ももう眠いだろうし」
「…」
健はそう言うと、抱きしめていたあたしの体を離して、ベッドから立ち上がる。
「じゃあ、おやす…」
だけど、あたしはその手を即座に掴むと、健に言った。
「待って」
「!」
「…もう少しだけ、一緒にいて?」
「え、」
あたしはそう言うと、上目遣いで健を見つめる。
だって、このままじゃ…またおんなじ。
おんなじ時間を過ごしてしまうだけだから。
それだけは、今は避けたい。
だからあたしは、目の前で少し戸惑いを見せる健に言葉を続けた。
「…そんなに、あたしのこと好きなら、もっとわかりやすく愛してよ」
「…世奈?何言って…」
「……いて」
「…?」
絞り出すように、慣れない言葉を口にしながら、あたしは健に両腕を回す。
そして、今度ははっきりと健に言った。
「抱いて、健」
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