兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ

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幼なじみがモテすぎてる件③

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午後からの練習試合は、白熱していた。

最初の方は点を取られて負け気味だったけれど、それを頑張って挽回して勝利を掴んだのは健だった。
応援に来ていた女子達は、ずっと健のことを応援していて、皆試合に夢中で。
あたしは顧問の先生に教えてもらいながら審判をしたり、また部員達のドリンクを作ったり、ボール広いをしたり…と休んでいる時間なんて一切なかった。
そしてその練習試合が終わったのが、夕方の16時半。
部員達が終了のミーティングをしている間なんて、もう疲れてぐったりだった。

「いやー、ほんっとに助かったよ工藤!ありがとな!」
「い、いえ。でももうこの一回きりでいいです」

全てが終わったあと、先生があたしにそう言ってくれた。
だけどあまりにも感謝されるから、もしかしたら次回もあるのでは?とつい疑ってしまう。
だけどそろそろ一年生の入部時期だからそれはないと言われて、あたしは内心ほっと胸を撫で下ろした。
…良かった。正直もう二度とやりたくない。

そう思っていると…ふいに先生が健の方に目を遣って、言った。

「…あー、アイツはほんっとに女子に囲まれる奴だな」
「そ、そうですね」
「羨ましいなー。あんにゃろー」

先生がそう言って、見ているその視線の先。
健はまた女子達にきゃあきゃあ言われながら、囲まれている。
多分、さっきの試合の感想でも言われているんだろう。
健、凄く頑張ってて、正直あたしから見ても輝いていたから。

…ていうか昼間も思ってたけど、女の子に囲まれてる時の健ってほんとに嬉しそう。
あんな優しい笑顔、あたしには向けてくれないのに。
本当にあたしのこと好きなのかな?なんて。

「じゃあ工藤も気をつけて帰れよー」
「あ、はい。さようなら、」

先生があたしにそう言うと、一足先にグランドを後にしていく。
そんな先生に続いて、あたしは健の方に目を遣ったあと、グランドを出て更衣室まで鞄を取りに行った。

…健、今日は友達と帰るだろうな。
先に帰ればいいのかな。
だけど何だかそのまま帰るのは気が引けて、あたしは生徒玄関にある自販機に向かった。

さっき、健はドリンクを貰ってる様子はなかったから、きっと喉渇いてるよね。
「お疲れ」って渡してみよう。
今日、本当に頑張っててチームを勝利にも導いていたわけだし。

しかし…

「…あっ!?」

自販機に、お金を入れて。
スポーツドリンクを選択したつもりが、その瞬間。
あたしの指先が間違って選択してしまったのは、なんとその下の列に配置されているあったかいコーンポタージュで。

嘘でしょ!?
確かに美味しいけど、今の健は絶対に飲みたがらない。
運動の後にこれはいらないよー。
そう思って、ため息交じりで仕方なくそのコーンポタージュを取り出し口から取り出す。

「あっつ、」

もう春なんだからあったかいのなんていらないのに。
自販機にドリンクの交換機能とかほしい。いやそんなのないか。
あたしはそのままコーンポタージュ片手に生徒玄関を出ると、そのまま健を探した。
帰りは一緒に帰る約束なんてしてないけど、でも独りで帰る気分にはなれなくて。

…コーンポタージュなんて渡したら、なんて言われるかな。
笑われる?いや、それか「それはないわ」とか何とか言われて、貰ってくれない、かも。
まぁそうなっても当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
そう思いながら、サッカー部の部室付近まで行くと…その瞬間。
あたしはとある光景を、見つけてしまった。

「…!」

あまり人目につかない、その場所で。
そこには健と、もう一人同じ学年の女の子がいて。
凄く可愛い子。
その子は、顔を真っ赤にしながら健に何かを言っていて…多分、告白かな?
だけど健は申し訳なさそうに何かを言うと、その相手の子は落ち込んだ様子でその場を後にしてしまった。

「…」

告白の現場って、人がしてるとこ、初めて見たな。
健は帰る途中に引き留められた様子で、あたしは女の子がいなくなったのを確認すると、健の側に歩み寄る。

「健、」
「!」

コーンポタージュを後ろに隠しながら、そいつに近づくと、健はまだ開けていないスポーツドリンクを片手に持っていて。
あ…あの後やっぱり誰かから貰ったのかな。
あたしが声をかけると、健は少し驚いたような顔をした。

「え…もしかして今の見てた?」
「うん、もうバッチリ!可愛い子だったよね。告られたんでしょ?」

しかしあたしがそう問いかけると、健が言う。

「…お前には関係ないだろ」

そう言って、あたしから目を逸らしてその場を後にしようとする。
そんな健のあとを、あたしは慌ててついて行って…

「関係ないことないでしょ。たまたま目撃しちゃったんだし」
「…」
「で、付き合うの?どうなの?…あ、でも、さっきの感じだと………うーん、もったいないな。付き合っちゃえばいいのに!」

もしかしたら、さっきの子は健にフラれてしまったのか。
しかしあたしがそう言って冷やかそうとしたら、そんなあたしに健がふと立ち止まって言った。

「…世奈はそう思ってるんだ?」
「…え」
「昼間もそうだったけどさ、世奈は俺が他の女の子と付き合えばいいって思ってるんだ?」
「!」

健はあたしにそう問いかけると、少し驚いた顔をするあたしを見遣る。
するとそんなあたしに、健が言葉を続けて言った。

「付き合うって言ったらさ、その子と手繋いで一緒に帰ったり、デートしたり、キスしたり、それ以上のことも…するわけじゃん?」
「!」
「そしたら多分、世奈ともこうやって並んで歩くことも、なくなるんだよな。…まぁ俺らってそもそも、そういうことほとんど無かったけどさ」
「…っ」
「世奈は俺がそういうことするの、平気だって思ってるってことでいいの?」

健はあたしにそう聞くと、どこか寂しそうな顔をする。
その言葉に、あたしは少しの間黙り込んでしまったけれど…やがて口を開くと、言った。

「…平気だよ」
「!」
「あ…あたし実は、早月くんと付き合おうかなぁって、思ってるの。だって早月くん、優しいし、あたしのこと好きなのが凄く伝わってくるから、嬉しくて。だから……」

あたしはそこまで言うと、だけど健の目を見れずに少し俯く。
胸が凄く苦しい…。
「健の気持ちには答えられない」
だけどその一言は言えなくて、そんなあたしに健が言った。

「…そっか」
「…」
「じゃあ俺も…さっきの子の告白の返事、OKしようかな」
「…え」
「さっきはまだ、返事はしてなかったから。すぐには答えられないって言っただけで。もし世奈にフラれたら、考えるつもりでいたし」
「!」
「じゃあ、今朝言ってたパンケーキの話も、あれ無かったことにして。さっきの子に悪いから」

健はそう言うと、あたしに背中を向けて「じゃあな」と先に学校を後にしていく。
そんな健の後ろ姿を、あたしはただ見つめたまま、しばらくは動けないでいたけれど…
だけどそのうちに抑えは効かなくなって、やがて走って追いかけてしまった。

その手を、夢中で掴んだ。

「っ…待って!」
「!」

…………

そして、その一方で。
あたしは知らない。

「ありがとうございました、」

いつものカフェ『Green』の入口で、兄貴が営業スマイルでお客さんを見送る。
目の前には、今日独りでカフェにやって来た早月くん。

「サンドイッチ、美味しかったです。
ごちそうさまでした」

早月くんはそう言って兄貴に軽く会釈をすると、やがてカフェを後にした。
兄貴に背中を向けたその直後の、早月くんの曇った表情は、誰も知らない…。









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