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第30話 微睡みからの…
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「ん……」
久しぶりに感じる、誰かの温もり。少し湿り気のある逞しい胸板に顔をうずめると、たちまち自分でない人の匂いに身体が包まれる。
泣き腫らした瞼はいつもより敏感で、窓から入ってくる朝日の刺激でさえ痛く感じてしまう。
まだ微睡んでいたい。何ともいえないこの心地良さをもう少し、感じていたい。
そう思っていたのに――
先ほどから聞き慣れない野太い声が頭に響いて、ひどく痛む。
「……から……大丈夫だ」
「ですがっ!!」
「静かに。……パスカル……から……まで待機してろ」
「殿下、なりませぬっ!! 無駄に観察眼の鋭いどこぞの高飛車令嬢は、某国の間者との噂もありますゆえ!」
「いいから、下がってろ」
「――無駄にってことはないと思うけど」
陰口を叩かれていると寝てても聞こえてしまうこの体質、何とかならないかしら。
「お。デルフィーヌ、起きたか?」
「で、で、殿下ぁ!?」
ベッドに横たわったまま声がした方角へ瞳だけを動かすと、肩肘をついた姿勢で私の顔を覗き込んでいる殿下の姿が目に飛び込んできた。まだ起きてさほど時間も経っていないだろうに、醸し出す色気が半端ない。
慌てて後退るも――あれっ!? ベッドが……落ちちゃう!!
「危ないっ!! ったく、ここのベッドは狭いんだ。気を付けろ」
落ちる寸前のところで殿下に両腕で抱き留められ、何とか難を逃れる。
ん? 頬に殿下の胸板が直接当たっているような……。
「ど、ど、どぉーして裸なんですかっ!?」
「さぁな。どうしてだと思う?」
意地悪そうに口角を上げた殿下を見て、嫌な汗が背中を伝う。
「まさか……」
まさか、まさか、まさか!! いくら情緒不安定だったとしても――
「デルフィーヌが脱げと言ったんだろう?」
「うっそぉ!?」
「忘れたのか? 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってしまったから、脱いで寝ろと言ったじゃないか」
「なぁんだ。意味深な言い方、しないでくださいよ」
「いったいどんな想像をしたんだよ?」
一瞬でもヘンな想像をしてしまった自分を恥じて真っ赤になってると、蹴破られる勢いでドアが開かれた。
バンッ!!
いきなり強面の大男が現れ、思わず殿下の腕にしがみつく。
「無礼者っ!! 貴様ぁ、こちらにおられる御方をどなたと心得る!?」
初対面で、まさかの『貴様』呼ばわり……。
「リシャール王太子殿下かと」
「恐れ多くもこの国の第一王子はリシャール殿下であらせられるぞ?」
「ですからさっき、そう言いましたけど?」
「つまり、貴様ごときが気安く触れて良い御方ではないっ!」
「あのですね! ご存知ないようですが私は、殿下の――」
あれ? 殿下に妃候補から外してほしいと言った手前、妃候補とは言いづらいし、いつ抜籍されてもおかしくないからロワーヌ侯爵令嬢と言っちゃうのも気が引ける。
何て自己紹介すればいいのかしら……。
私としたことが、妃候補を退いた後のシミュレーションも足りてなかったわ。
「殿下の、なんだ!?」
「――茶飲み仲間の、デルフィーヌと申します」
「はぁ!? 言うに事欠いて茶飲み仲間だと? 殿下がお前みたいなちんちくりんの小娘を相手にするわけないだろうが! 密室であることを利用して、殿下の貞操を奪おうと企むなど――(万死に値する)」
ちょっと、なにこの大男。殿下への忠誠心が重すぎない?
今、ボソッとだけど、『万死に値する』って言ったわよね!?
ていうか、私が殿下の腕にしがみついたくらいで貞操の危機だなんて、大袈裟すぎるでしょ!
「こほん。まずこの状況を説明をする前に、貴方の言うところの“ちんちくりん”の定義について伺いますが――」
私が強面の大男と言論による平和的解決を探り始めたところで、殿下が仲裁に入った。
「こら。パスカル、〝ちんちくりん”は言い過ぎだ。それから彼女は、将来俺の妻になるかもしれない女性だ。貴様呼ばわりは感心しないな」
「妻ですか!?」
なんで貴方が驚くのよ、失礼ね。って私も、ビックリしちゃったけど。
「それに、レディがいる寝室にノックもなく入ってくるのはどうかと思うぞ?」
「はっ。大変、申し訳ございません」
「もういい。それより、朝食の用意を頼む」
「かしこまりました」
え? この人、護衛じゃなくて料理人なの!? 意外!!
「じゃあ、俺たちも支度するか」
軽く伸びをした殿下がそのままベッドから降りようとするものだから、咄嗟にバックハグをして引き留めた。
「立ち上がっちゃ、ダメ―っ!!」
「は? どうして」
「だって、裸――」
「なわけないだろ? 服を脱いだのは上だけだ。ったく、朝からどんな想像をしてるんだよ」
「え………」
「デルフィーヌは案外、スケベなんだな」
その瞬間、私は明確に決意した。
もう二度と、殿下の前で取り繕ったりなどしないと。忖度も、斟酌も、顧慮も、気遣いも、この男には不要だと。
階下に降りると、ジェローム卿に伴われたソフィーが迎えに来てくれていた。
「お嬢様っ!! そのお顔、どぉーされたんですか!」
「ちょっとね」
「もうっ、水辺に長くいたからですよ。痕になったら大変です。帰ったら虫刺されのお薬を塗りましょう」
「ソフィー殿。瞼のそれも、うなじのそれも、虫刺されではないから大丈夫だよ」
「えっ!? そ、そうですね……」
ん? 何だかソフィーとジェローム卿の距離、近くなってない?
さては、何か進展があったのね。後で聞き出してやるんだからっ!!
久しぶりに感じる、誰かの温もり。少し湿り気のある逞しい胸板に顔をうずめると、たちまち自分でない人の匂いに身体が包まれる。
泣き腫らした瞼はいつもより敏感で、窓から入ってくる朝日の刺激でさえ痛く感じてしまう。
まだ微睡んでいたい。何ともいえないこの心地良さをもう少し、感じていたい。
そう思っていたのに――
先ほどから聞き慣れない野太い声が頭に響いて、ひどく痛む。
「……から……大丈夫だ」
「ですがっ!!」
「静かに。……パスカル……から……まで待機してろ」
「殿下、なりませぬっ!! 無駄に観察眼の鋭いどこぞの高飛車令嬢は、某国の間者との噂もありますゆえ!」
「いいから、下がってろ」
「――無駄にってことはないと思うけど」
陰口を叩かれていると寝てても聞こえてしまうこの体質、何とかならないかしら。
「お。デルフィーヌ、起きたか?」
「で、で、殿下ぁ!?」
ベッドに横たわったまま声がした方角へ瞳だけを動かすと、肩肘をついた姿勢で私の顔を覗き込んでいる殿下の姿が目に飛び込んできた。まだ起きてさほど時間も経っていないだろうに、醸し出す色気が半端ない。
慌てて後退るも――あれっ!? ベッドが……落ちちゃう!!
「危ないっ!! ったく、ここのベッドは狭いんだ。気を付けろ」
落ちる寸前のところで殿下に両腕で抱き留められ、何とか難を逃れる。
ん? 頬に殿下の胸板が直接当たっているような……。
「ど、ど、どぉーして裸なんですかっ!?」
「さぁな。どうしてだと思う?」
意地悪そうに口角を上げた殿下を見て、嫌な汗が背中を伝う。
「まさか……」
まさか、まさか、まさか!! いくら情緒不安定だったとしても――
「デルフィーヌが脱げと言ったんだろう?」
「うっそぉ!?」
「忘れたのか? 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってしまったから、脱いで寝ろと言ったじゃないか」
「なぁんだ。意味深な言い方、しないでくださいよ」
「いったいどんな想像をしたんだよ?」
一瞬でもヘンな想像をしてしまった自分を恥じて真っ赤になってると、蹴破られる勢いでドアが開かれた。
バンッ!!
いきなり強面の大男が現れ、思わず殿下の腕にしがみつく。
「無礼者っ!! 貴様ぁ、こちらにおられる御方をどなたと心得る!?」
初対面で、まさかの『貴様』呼ばわり……。
「リシャール王太子殿下かと」
「恐れ多くもこの国の第一王子はリシャール殿下であらせられるぞ?」
「ですからさっき、そう言いましたけど?」
「つまり、貴様ごときが気安く触れて良い御方ではないっ!」
「あのですね! ご存知ないようですが私は、殿下の――」
あれ? 殿下に妃候補から外してほしいと言った手前、妃候補とは言いづらいし、いつ抜籍されてもおかしくないからロワーヌ侯爵令嬢と言っちゃうのも気が引ける。
何て自己紹介すればいいのかしら……。
私としたことが、妃候補を退いた後のシミュレーションも足りてなかったわ。
「殿下の、なんだ!?」
「――茶飲み仲間の、デルフィーヌと申します」
「はぁ!? 言うに事欠いて茶飲み仲間だと? 殿下がお前みたいなちんちくりんの小娘を相手にするわけないだろうが! 密室であることを利用して、殿下の貞操を奪おうと企むなど――(万死に値する)」
ちょっと、なにこの大男。殿下への忠誠心が重すぎない?
今、ボソッとだけど、『万死に値する』って言ったわよね!?
ていうか、私が殿下の腕にしがみついたくらいで貞操の危機だなんて、大袈裟すぎるでしょ!
「こほん。まずこの状況を説明をする前に、貴方の言うところの“ちんちくりん”の定義について伺いますが――」
私が強面の大男と言論による平和的解決を探り始めたところで、殿下が仲裁に入った。
「こら。パスカル、〝ちんちくりん”は言い過ぎだ。それから彼女は、将来俺の妻になるかもしれない女性だ。貴様呼ばわりは感心しないな」
「妻ですか!?」
なんで貴方が驚くのよ、失礼ね。って私も、ビックリしちゃったけど。
「それに、レディがいる寝室にノックもなく入ってくるのはどうかと思うぞ?」
「はっ。大変、申し訳ございません」
「もういい。それより、朝食の用意を頼む」
「かしこまりました」
え? この人、護衛じゃなくて料理人なの!? 意外!!
「じゃあ、俺たちも支度するか」
軽く伸びをした殿下がそのままベッドから降りようとするものだから、咄嗟にバックハグをして引き留めた。
「立ち上がっちゃ、ダメ―っ!!」
「は? どうして」
「だって、裸――」
「なわけないだろ? 服を脱いだのは上だけだ。ったく、朝からどんな想像をしてるんだよ」
「え………」
「デルフィーヌは案外、スケベなんだな」
その瞬間、私は明確に決意した。
もう二度と、殿下の前で取り繕ったりなどしないと。忖度も、斟酌も、顧慮も、気遣いも、この男には不要だと。
階下に降りると、ジェローム卿に伴われたソフィーが迎えに来てくれていた。
「お嬢様っ!! そのお顔、どぉーされたんですか!」
「ちょっとね」
「もうっ、水辺に長くいたからですよ。痕になったら大変です。帰ったら虫刺されのお薬を塗りましょう」
「ソフィー殿。瞼のそれも、うなじのそれも、虫刺されではないから大丈夫だよ」
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ん? 何だかソフィーとジェローム卿の距離、近くなってない?
さては、何か進展があったのね。後で聞き出してやるんだからっ!!
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