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最終話 新たな辞令
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神妙な面持ちをした宰相閣下の隣に、髪を短く切りご機嫌な様子の殿下が立っている。
「閣下。今日からここが臨時の執務室になると聞いたのですが、どういうことでしょう? 体調ならバッチリですから、いつでも職場に復帰でき――」
「う、うん。それなんだが。コホン、これからデルフィーヌへ辞令を交付する」
「辞令!?」
「デルフィーヌ・ド・ロワーヌ。本日付で宰相室勤務の任を解き――」
そこまで宰相閣下が言うと、殿下が後を引き継いでこう言った。
「新たに王太子特別補佐官の職を命ずる」
「え!? 宰相室勤務は、クビですか!?」
「いや。季節外れの配置転換と思ってくれればいい」
「で、ですが、王太子特別補佐官と言われても何をすれば……」
「それは俺から説明しよう。常任の新設ポジションだが、職務内容は多岐に渡る。とてもひと言では説明しきれないし、ライフスタイルに応じてその都度変化するだろうから、そこは2人で話し合って決めていこう」
そう言って殿下が辞令を差し出すものだから、条件反射的にシャンっ! と姿勢を正して、両手でそれを受け取った。
「それで、任期はいつまででしょう?(陛下がお戻りになるまで、かしら?)」
「死がふたりを分かつまで」
「え?」
「任期は、俺たちがレオと再会するまでだ。悪いが、自主退職は認めてやれない」
「……だったら、どうして一昨日、あのまま帰っちゃったんですか?」
「父上が王都を発つ前に結婚の許可をもらいたかった。それに、2日も風呂に入ってない状態でさすがにプロポーズはマズいと思ってな」
殿下は両手を広げると、「だから、こうして出直すことにした。どうだ、惚れ直したか?」とわざと茶化すようにそう言った。
「デルフィーヌ。ミシェルとマルタンは、君の真心に従って決めればいいと言っている。殿下からの求愛に、君はどう応えたい?」
そんなの、決まってる。私の片思い歴、長いんですからね?
「謹んでお受けいたします。わたし、全力でリシャール様をお守りしますから!!」
「それには及ばない」
「え? どうして?」
「俺は、デルフィーヌを守れる強い男になる。あの時、そう宣言しただろう? 君のことも、これから生まれて来るかもしれない俺たちの子も、俺が守ってみせる。だから、デルフィーヌには、ただデルフィーヌとして俺の側にいてほしい」
思わず渡された辞令に目を落とすと、新たな職務欄には、「デルフィーヌ」とだけ記されていた。「王太子特別補佐官」なんて役職も、「王太子妃」という肩書も、なんにも書かれていなかった。
「もう、役割を演じる必要はないんだ」
殿下はそう言って、優しく微笑んでくれた。
きっと、彼にはお見通しだったのだと思う。
私がこれまで、期待される役割を生きることでしか、自分の存在価値を認められなくて苦しんできたことを。
それからは、目が回るような忙しさだった。
義両親が駐在先の帝国へ戻る前に、急遽、婚約式を執り行うことになったからだ。
――そうして迎えた婚約式当日。
両親が挙式をしたロワーヌ侯爵家の裏手にある丘の上に、家族や親しい友人たちが続々と集まってくる。
「フィーヌ、おめでとう!」「デルフィーヌ様。おめでとうございます」
「隊長!! エライザ様!! ありがとうございます!」
「ガブリエル、よく来てくれたな」
「殿下。まさか兄弟子から義兄になるとは。人生、分からないものですね」
そうなのだ。
実父は、早逝した兄夫婦の一人息子だった甥のガブリエル隊長を引き取り、実子として育てていた。隊長が7歳となり寄宿学校で暮らし始めた頃、あの事件が起きたという。
「実はさ、フィーヌを初めて見たとき、お義父さんとおんなじ目をしてるなって思ったんだ。お義父さんから結婚したい人がいるって話は聞いててさ。俺の母親と同じ、美しい黒髪をした女性だって言うから春休みに会うのを楽しみにしてたんだけど、あんなことになっちまったから」
隊長のお母様は、私の母と同じ、アクロティア帝国の血を引く方だったらしい。
実父からの伝言を聞いた隊長は、一瞬涙ぐんだものの、すぐに「ヤッベ。昔ヤンチャしてたの、全部見られてたのか……」と言って頭をガシガシと掻いた。
それから、陛下もシャーロット王女を伴い顔を出してくれた。
――2か月前。
レオナルド殿下が私に託した願いを確認するため、彼が使っていた机の二重底にある手紙を読むことにした。
力強い筆圧で書かれた大人びた文章を見て、レオナルド殿下が口述した内容をパスカルさんが代筆したのだと直ぐに分かった。
筆を取ることすら叶わない彼が、代筆をお願いしてまで託したいと思った願いだ。必ず叶えよう。読む前から、そう決めていた。
「少女Dへ
やっと会えたね。君がこの手紙を読んでいるということは、僕は神の世界へと旅立ち、空からうまく君をここまで導くことができたのかな。
唐突だけれど、君に託したい願いが2つある。どちらも、僕の大切な兄妹についてだ。
一人は、異母兄妹のシャーロットについて。僕がいなくなることで、彼女の孤独が深まるのを懸念している。そうならないことを願うが、もし君から見て彼女が今そういう状態にあるならば、どうか、僕たち家族との仲を取り持ってやってほしい。
そしてもう一人は双子の兄、リシャールについて。
君と出逢った日、兄が言ったんだ。
『あんな子は初めてだ。数時間前に殺されかけた俺に対し、一切の手加減をしないんだぞ? それも、たかだかサクランボの種飛ばし競争でだ! しかもその子、陸のアース・アイの持ち主でさ、俺たちは魂の片割れらしい』と。
僕は忍耐強い人間でね。体調の不良も、これまで何とか誤魔化しながら踏ん張ってきた。リシャールにとって僕は、肉体の片割れだから。でも、兄には「魂の片割れ」がいるって分かったから、ようやく安心して神の国へ行くことができそうだよ。どうか、兄のことを宜しく頼む。
少女D、君には感謝してもしきれない。
だから、僕から君へプレゼントをさせてほしい。
もし君が将来、リシャールからプロポーズを受けたなら、そのときは、リシャールの部屋に飾られている君の人物画の額縁裏を見てみてほしい。それが、君に勇気を与えてくれることを願っている。
レオナルド=フィリップ=ルイ」
――殿下からプロポーズを受けた日の夜。
私はそっと、2階のLと彫られている部屋に入った。
てっきりレオナルド殿下の部屋だと思っていたそこは、左利きのリシャール様用に造られた部屋だった。10歳にして難関な医学書を読み漁り、何とか治療の糸口を見つけようとしていたのは、リシャール様の方だった。
殿下ってば、どこまで私を惚れさせたら気が済むのよ。本当に惚れ直しちゃったじゃない。
カタン。
少女時代の私を描いた人物画を壁から降ろし、裏返してみる。
「うそ……」
そこには、レオナルド殿下が残した手紙とは異なる筆跡で、こう書かれていた。
タイトル:『リシャールの初恋:勇敢な少女、D』
◇◇◇
というわけで、レオナルド殿下からの贈り物に勇気をもらった私は、こうして晴れの日を迎えている。
ねぇ、レオナルド殿下? わたし、あなたに託された願いにちゃんと応えられたかしら。これで良かった? ちゃんと出来てたら、何か分かるように合図を送ってね。
心の中でそう話しかけ、目の前にいるリシャール殿下へと意識を戻す。
「デルフィーヌ・ド・ロワーヌ。リシャール=フィリップ=グザヴィエは、生涯をかけて貴女を守りぬくことを誓います。私の妻になってくださいますか?」
「はい。喜んで」
みんなが大きな拍手を送ってくれる中、殿下が驚いたように私の顔を覗き込んでくる。
な、なに!? わたし、何か粗相しちゃった!?
うっそ!! もしかして、はげを隠していた白のガーゼが風で吹き飛んじゃったとか!?
思わず殿下の瞳を見つめ返すと、そこには、緑の惑星を閉じ込めたような私の瞳が映っていた。成人とともに出現するはずだったアース・アイが、数か月遅れで現れた。しかも、このタイミングで。
――ということは、レオナルド殿下から与えられたお仕事は全うできたみたい。合図、しかと受け取りましたよ、レオナルド殿下。
そうして半年間の婚約期間を経て、私とリシャール様は正式に夫婦となった。
私たちの結婚生活がどのようなものだったのかについては、うふふ。
また別のおはなしで。
最後に、著名な歴史研究家がこの時代のアルマス王国について記したという一節を、ちょこっとだけ紹介しようと思う。
「リシャール国王は、その卓越した政治的・外交的手腕で大陸の平和を実現させた人物であるが、あるとき、他国の王子にその秘訣を聞かれた彼は、こう答えたという。
『それは、良い妻をもらうことです』と。
リシャール国王とデルフィーヌ王妃の結婚生活は謎に包まれているが、妻との決まり事一つ作るにも、リシャール国王はまるで多国間条約を締結するがごとく緻密に戦略を練り、必要な根回しを欠かさなかったという。そのような家庭生活が、彼の外交手腕をあそこまで磨き上げたといっても過言ではないだろう。
いったい、彼の妻はどれほどの恐妻家だったのかと思いきや、アクロティア皇妃の称号をも受け継ぐデルフィーヌ王妃は、意外にも庶民派の妃として国民に人気があったという。
彼女が結婚式で被っていた白いベールは、実のところ側頭部にできたハゲを隠すためだったとの失礼極まりない逸話も残されているが、後に、花嫁を守る魔除けとして定着させるなど、政治面のみならず文化面でも多大な影響を与えた人物として後世に伝えられている。
あくまでも想像でしかないが、4男1女に恵まれた二人は、喧嘩の数だけ仲直りをしたに違いない。』
おわり
◇◇◇
読者の皆さま。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
婚約を結んだタイミングで、一旦、物語としてはハッピーエンドを迎えました。
これからは番外編として、本編に詳しく描けなかったエピソードを追加していく予定ですので、引き続きお楽しみいただけますと嬉しいです。
「閣下。今日からここが臨時の執務室になると聞いたのですが、どういうことでしょう? 体調ならバッチリですから、いつでも職場に復帰でき――」
「う、うん。それなんだが。コホン、これからデルフィーヌへ辞令を交付する」
「辞令!?」
「デルフィーヌ・ド・ロワーヌ。本日付で宰相室勤務の任を解き――」
そこまで宰相閣下が言うと、殿下が後を引き継いでこう言った。
「新たに王太子特別補佐官の職を命ずる」
「え!? 宰相室勤務は、クビですか!?」
「いや。季節外れの配置転換と思ってくれればいい」
「で、ですが、王太子特別補佐官と言われても何をすれば……」
「それは俺から説明しよう。常任の新設ポジションだが、職務内容は多岐に渡る。とてもひと言では説明しきれないし、ライフスタイルに応じてその都度変化するだろうから、そこは2人で話し合って決めていこう」
そう言って殿下が辞令を差し出すものだから、条件反射的にシャンっ! と姿勢を正して、両手でそれを受け取った。
「それで、任期はいつまででしょう?(陛下がお戻りになるまで、かしら?)」
「死がふたりを分かつまで」
「え?」
「任期は、俺たちがレオと再会するまでだ。悪いが、自主退職は認めてやれない」
「……だったら、どうして一昨日、あのまま帰っちゃったんですか?」
「父上が王都を発つ前に結婚の許可をもらいたかった。それに、2日も風呂に入ってない状態でさすがにプロポーズはマズいと思ってな」
殿下は両手を広げると、「だから、こうして出直すことにした。どうだ、惚れ直したか?」とわざと茶化すようにそう言った。
「デルフィーヌ。ミシェルとマルタンは、君の真心に従って決めればいいと言っている。殿下からの求愛に、君はどう応えたい?」
そんなの、決まってる。私の片思い歴、長いんですからね?
「謹んでお受けいたします。わたし、全力でリシャール様をお守りしますから!!」
「それには及ばない」
「え? どうして?」
「俺は、デルフィーヌを守れる強い男になる。あの時、そう宣言しただろう? 君のことも、これから生まれて来るかもしれない俺たちの子も、俺が守ってみせる。だから、デルフィーヌには、ただデルフィーヌとして俺の側にいてほしい」
思わず渡された辞令に目を落とすと、新たな職務欄には、「デルフィーヌ」とだけ記されていた。「王太子特別補佐官」なんて役職も、「王太子妃」という肩書も、なんにも書かれていなかった。
「もう、役割を演じる必要はないんだ」
殿下はそう言って、優しく微笑んでくれた。
きっと、彼にはお見通しだったのだと思う。
私がこれまで、期待される役割を生きることでしか、自分の存在価値を認められなくて苦しんできたことを。
それからは、目が回るような忙しさだった。
義両親が駐在先の帝国へ戻る前に、急遽、婚約式を執り行うことになったからだ。
――そうして迎えた婚約式当日。
両親が挙式をしたロワーヌ侯爵家の裏手にある丘の上に、家族や親しい友人たちが続々と集まってくる。
「フィーヌ、おめでとう!」「デルフィーヌ様。おめでとうございます」
「隊長!! エライザ様!! ありがとうございます!」
「ガブリエル、よく来てくれたな」
「殿下。まさか兄弟子から義兄になるとは。人生、分からないものですね」
そうなのだ。
実父は、早逝した兄夫婦の一人息子だった甥のガブリエル隊長を引き取り、実子として育てていた。隊長が7歳となり寄宿学校で暮らし始めた頃、あの事件が起きたという。
「実はさ、フィーヌを初めて見たとき、お義父さんとおんなじ目をしてるなって思ったんだ。お義父さんから結婚したい人がいるって話は聞いててさ。俺の母親と同じ、美しい黒髪をした女性だって言うから春休みに会うのを楽しみにしてたんだけど、あんなことになっちまったから」
隊長のお母様は、私の母と同じ、アクロティア帝国の血を引く方だったらしい。
実父からの伝言を聞いた隊長は、一瞬涙ぐんだものの、すぐに「ヤッベ。昔ヤンチャしてたの、全部見られてたのか……」と言って頭をガシガシと掻いた。
それから、陛下もシャーロット王女を伴い顔を出してくれた。
――2か月前。
レオナルド殿下が私に託した願いを確認するため、彼が使っていた机の二重底にある手紙を読むことにした。
力強い筆圧で書かれた大人びた文章を見て、レオナルド殿下が口述した内容をパスカルさんが代筆したのだと直ぐに分かった。
筆を取ることすら叶わない彼が、代筆をお願いしてまで託したいと思った願いだ。必ず叶えよう。読む前から、そう決めていた。
「少女Dへ
やっと会えたね。君がこの手紙を読んでいるということは、僕は神の世界へと旅立ち、空からうまく君をここまで導くことができたのかな。
唐突だけれど、君に託したい願いが2つある。どちらも、僕の大切な兄妹についてだ。
一人は、異母兄妹のシャーロットについて。僕がいなくなることで、彼女の孤独が深まるのを懸念している。そうならないことを願うが、もし君から見て彼女が今そういう状態にあるならば、どうか、僕たち家族との仲を取り持ってやってほしい。
そしてもう一人は双子の兄、リシャールについて。
君と出逢った日、兄が言ったんだ。
『あんな子は初めてだ。数時間前に殺されかけた俺に対し、一切の手加減をしないんだぞ? それも、たかだかサクランボの種飛ばし競争でだ! しかもその子、陸のアース・アイの持ち主でさ、俺たちは魂の片割れらしい』と。
僕は忍耐強い人間でね。体調の不良も、これまで何とか誤魔化しながら踏ん張ってきた。リシャールにとって僕は、肉体の片割れだから。でも、兄には「魂の片割れ」がいるって分かったから、ようやく安心して神の国へ行くことができそうだよ。どうか、兄のことを宜しく頼む。
少女D、君には感謝してもしきれない。
だから、僕から君へプレゼントをさせてほしい。
もし君が将来、リシャールからプロポーズを受けたなら、そのときは、リシャールの部屋に飾られている君の人物画の額縁裏を見てみてほしい。それが、君に勇気を与えてくれることを願っている。
レオナルド=フィリップ=ルイ」
――殿下からプロポーズを受けた日の夜。
私はそっと、2階のLと彫られている部屋に入った。
てっきりレオナルド殿下の部屋だと思っていたそこは、左利きのリシャール様用に造られた部屋だった。10歳にして難関な医学書を読み漁り、何とか治療の糸口を見つけようとしていたのは、リシャール様の方だった。
殿下ってば、どこまで私を惚れさせたら気が済むのよ。本当に惚れ直しちゃったじゃない。
カタン。
少女時代の私を描いた人物画を壁から降ろし、裏返してみる。
「うそ……」
そこには、レオナルド殿下が残した手紙とは異なる筆跡で、こう書かれていた。
タイトル:『リシャールの初恋:勇敢な少女、D』
◇◇◇
というわけで、レオナルド殿下からの贈り物に勇気をもらった私は、こうして晴れの日を迎えている。
ねぇ、レオナルド殿下? わたし、あなたに託された願いにちゃんと応えられたかしら。これで良かった? ちゃんと出来てたら、何か分かるように合図を送ってね。
心の中でそう話しかけ、目の前にいるリシャール殿下へと意識を戻す。
「デルフィーヌ・ド・ロワーヌ。リシャール=フィリップ=グザヴィエは、生涯をかけて貴女を守りぬくことを誓います。私の妻になってくださいますか?」
「はい。喜んで」
みんなが大きな拍手を送ってくれる中、殿下が驚いたように私の顔を覗き込んでくる。
な、なに!? わたし、何か粗相しちゃった!?
うっそ!! もしかして、はげを隠していた白のガーゼが風で吹き飛んじゃったとか!?
思わず殿下の瞳を見つめ返すと、そこには、緑の惑星を閉じ込めたような私の瞳が映っていた。成人とともに出現するはずだったアース・アイが、数か月遅れで現れた。しかも、このタイミングで。
――ということは、レオナルド殿下から与えられたお仕事は全うできたみたい。合図、しかと受け取りましたよ、レオナルド殿下。
そうして半年間の婚約期間を経て、私とリシャール様は正式に夫婦となった。
私たちの結婚生活がどのようなものだったのかについては、うふふ。
また別のおはなしで。
最後に、著名な歴史研究家がこの時代のアルマス王国について記したという一節を、ちょこっとだけ紹介しようと思う。
「リシャール国王は、その卓越した政治的・外交的手腕で大陸の平和を実現させた人物であるが、あるとき、他国の王子にその秘訣を聞かれた彼は、こう答えたという。
『それは、良い妻をもらうことです』と。
リシャール国王とデルフィーヌ王妃の結婚生活は謎に包まれているが、妻との決まり事一つ作るにも、リシャール国王はまるで多国間条約を締結するがごとく緻密に戦略を練り、必要な根回しを欠かさなかったという。そのような家庭生活が、彼の外交手腕をあそこまで磨き上げたといっても過言ではないだろう。
いったい、彼の妻はどれほどの恐妻家だったのかと思いきや、アクロティア皇妃の称号をも受け継ぐデルフィーヌ王妃は、意外にも庶民派の妃として国民に人気があったという。
彼女が結婚式で被っていた白いベールは、実のところ側頭部にできたハゲを隠すためだったとの失礼極まりない逸話も残されているが、後に、花嫁を守る魔除けとして定着させるなど、政治面のみならず文化面でも多大な影響を与えた人物として後世に伝えられている。
あくまでも想像でしかないが、4男1女に恵まれた二人は、喧嘩の数だけ仲直りをしたに違いない。』
おわり
◇◇◇
読者の皆さま。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
婚約を結んだタイミングで、一旦、物語としてはハッピーエンドを迎えました。
これからは番外編として、本編に詳しく描けなかったエピソードを追加していく予定ですので、引き続きお楽しみいただけますと嬉しいです。
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