スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です！【R18／完全版】

第二章 ドキドキの同居生活

少女エマ

　シャーロットが眉をハの字にしてつぶやいた。
　彼女は使用人の一人であるエマのことがずっと気がかりだった。少女は全く喋らないのだ。笑顔を見たこともない。

（まだ子供なのにニコリともしないなんて、心配だわ）

「ええ。ここに引き取られてきてもう半年になりますが、まだ一言も発しないんですよ。何か理由があるみたいなんですが、誰も詳しく知らないんです」

　エマは身寄りがないという噂だった。しかしブランドン公爵家は使用人の娘にも、きちんと教育を受けさせている。

「そうなの……気がかりね」
「若奥様はお優しいですね。私たちのような者のことを心配して下さって。――さ、とりあえず参りましょうか」

　侍女が目尻に皺を寄せて微笑んだ。シャーロットは彼女に促されるまま寝室を出た。
　泡の浮かんだ猫足のバスタブで侍女達に身体を磨き上げられている間、シャーロットはぼんやりとここ三ヶ月の事を思い出していた。

（人生が変わっちゃったみたい……）

　オリヴァーに逆プロポーズした後、パーティー会場に戻ると、彼は横抱きにしていたシャーロットをそっと降ろし、手を取った。あの夜シャーロットはときめきっぱなしだった。

　――注目されるのは苦手でね。それに、自ら話のネタになるような行動をとらなくてもいいだろう。

　オリヴァーがウインクをする。

　――はい。そうでございますね。

　シャーロットはぷっと吹き出した。二人はにっこり笑い合う。オリヴァーの配慮が嬉しかった。それから彼はジョージの元にシャーロットを伴った。一緒に現れた二人に兄は驚いた。更に婚約することになったと聞いて、びっくり仰天していた。しかし心から祝福してくれてた。
　そしてシャーロットはその足でオリヴァーの屋敷に連れてこられたのだった。
　その時、彼はこう告げた。

　――すぐ天使を汚すのは申し訳ない。君が慣れるまで、しばらく別々に眠ろう。

　シャーロットに異論はなかった。これ以上何か起こったら、ときめきに耐えられずに心臓が爆発して死んでしまうと思ったからだ。