未希のツイノベ置き場

未希かずは(Miki)

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11.インストラクターの恋

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受けはスポーツインストラクターだ。
スポーツジムで個人レッスンをしたり、教室を受けもったりしている。
受けは、元々は水泳でバタフライの競技選手だった。
そこで鍛えられた逆三角形の体形は、受けの自慢だった。

ある日攻めが個人レッスンを申し込んできた。
攻めは好きな人に振り向いてもらいたくて、身体を引き締めたいらしい。
背も高く、肩幅もあるし、それなりに運動経験のある人のようだ。
半年もあればあっという間に見違えるだろう。何より本人のやる気が素晴らしかった。

先ずは体組成チェックだ。
二人きりの個室で薄着になるように攻めに伝える。攻めは上半身裸になる。
スッキリとした綺麗な身体だ。
うんうんと頷きながら、広背筋を鍛えればさらに締まるなと受けは思う。

「受けさん、あなたの筋肉が見てみたいです。僕のモチベーションにさせて下さい!」

やる気につながるならとシャツを脱いでみせると

「こんな立派な腕や肩、触ってみたい。触っていいですか?うわっ、思ったより柔らかい。なんてかわい、あ、いや、いつも硬いわけじゃないんですね」

「そうですね。力を入れた時だけ硬くて、普段は柔らかい方がスポーツをするにはケガをしなくて良いですから。俺は適度にストレッチもしています」

 攻めは腕や腹、脇、胸を執拗に触ってくる。

「下半身の筋肉も触っていいですか?」

「あ、ああ。構わないが、俺はそんなに太ももは…うわっ」

興奮した攻めがさわさわと太ももを撫でた後、尻をもみ始めた。

「はあーっ、引き締まってるのに適度に柔らかい。何て理想の尻!」

目的の体組成計に乗る頃には尻や胸を触られまくった後で、受けはぐったりしていた。
それでも、こんな時でもなければ人の筋肉に触れられないからと言われれば、これもトレーナーの仕事と思って受けは我慢した。←ちょろい
その後攻めと理想の体型について話し合う。

「やっぱり相手に振り向いてもらうには抱きしめた時に相手をどきどきさせないといけませんから。受けさん、僕に抱きしめられてどう思うか教えてください」

そう言って攻めは色んな角度から抱きしめてくる。
受けは男だから、誰かに抱きしめられたことなどないのだが、これも攻めのためと思って一生懸命答えた。

「やっぱり見せる筋肉より動ける筋肉の方が、硬すぎず抱かれ心地は良い気がします。ですが、腕に回した時に適度な厚みが欲しいでしょうか」

「分かりました!では背中や肩周りを鍛えたいです。後ぜひ、下半身の持久力と受けさんを軽々と抱き上げられる位の筋力が欲しいですね」

攻めは結構なウエイトを持ち上げたいらしい。
こんな感じで体脂肪は減らしつつ、上半身を鍛えて下半身は長距離選手のように持久力のある筋肉を鍛えていく事に決まったのだった。

頻度は週1回、60分個人レッスンをして、そこで1週間分のトレーニングメニューを教える。

「1週間に一度しか会えないんですね。もっと会えたら良いのに」

そんなことを言ってため息をつく攻め。

「あ、そうそう。割増料金かかりますが、毎日SNSで食事や運動を送ってもらえればアドバイスするサービスもありますよ」

受けがそう言うと、

「は?え?毎日?朝おはようからおやすみまで?もうそんなの彼氏じゃん」

ブツブツ呟く攻め。

「受けさんはそのサービスを誰かとしてるんですか?」

「いやー、僕はまだしたことないですね」

「え?じゃあ俺が初めて?ヤります!」

「え?ありがとうございます。初めてで慣れてないのでご迷惑おかけするかもしれませんが、ぜひ!」

こうして毎日SNSでのやり取りも始まった。
攻めは毎日こまめのメッセージを送ってくる。攻めはしっかりと受けのアドバイス通りにこなしているようで必ず食後と朝夕の運動後に送られてくる。
それとともに、必ず受けを気遣う一言が入っていた。
受けは、いつしかそれが楽しみになってきていた。

週に一度、実際に攻めと一緒にトレーニングをする。
成果を確かめたいと言って、終了時に必ず攻めは受けのことを抱きしめてきた。
受けは、次第に攻めの暖かく広い腕にすっぽりと抱きしめられることにドキドキするようになってきた。攻めは抱きしめながら受けの耳の側で囁く。

「そろそろ、僕は受けさんをドキドキさせられるような身体になりましたか?」

そうだった。
攻めは好きな人を振り向かせるために受けの個人レッスンを受けに来ていたんだ。
この優しさも心地よさも今だけの関係。
ここで受けが頷けば、二人の関係は終わる。
そう思うと、素直に頷くことはできなかった。

「あと1ヶ月、頑張ろう。そうしたら完璧だと思うよ」

受けは嘘をついたのだった。

後日、攻めを街なかで見かける。
攻めは、ある店で買い物をしているようだった。
どうやらプレゼントのようで、きちんと包装され、リボンのついた箱を受け取っていた。
一ヶ月後にプレゼントとともに告白でもするのだろうか。
受けは胸が痛んだ。

一ヶ月後。これが最期のレッスンだった。
攻めの身体は男から見ても完璧な色気のある身体になっていた。適度な胸の厚みと、無駄のない引き締まった腹部。後ろから見た背中は、背筋が真っすぐ伸びており、その周囲に綺麗な筋肉が取り囲んでいた。
受けはああ、これが最期の見納めかとじっと見つめる。
攻めが「これで合格ですか?」と尋ねるので、何も言わずに受けは頷いた。
すると、攻めが急に抱きついてくる。

「もう、俺はあなたのインストラクターではありません。そういうのは、好きな人にやってください」

そう言って、攻めを振りほどこうとするが、鍛えられた腕にがっちりホールドされて外れない。
受けは筋肉に自信があるにも関わらずだ。

「合格ってことは、俺のこの身体にドキドキしてくれてるんでしょう?僕は受けさんのために鍛えたんですよ?好きです。決してこの腕は外れませんからあきらめて付き合ってください」

「嘘だっ!だって俺と会う前から好きな人がいるって言ってただろう?」

「覚えてませんか?俺たち前に会ってますよ」

 攻めが言うには、攻めを好きになった女の子の彼氏が、攻めに殴りかかってこようとした時に受けが助けたらしい。

「あー、そんな事あったかな?悪い。覚えてないわ」

「良いんですよ。でも、僕はあの時の貴方に一目惚れしたんです。優しくて強くて、そして笑顔が可愛かった」

「か、可愛いって!」

 真っ赤になる受け。こんなガチガチの筋肉の男が可愛いわけないと怒ると、

「強くてかっこいいのにそうやってかわいい顔するギャップがたまらないんです。さて、告白の返事をください」

受けは、攻めの気持ちを知って喜ぶ自分に気付いてはっきりと自覚する。恐る恐る受けは答えた。

「……俺も攻めのことが好きだ」

「やった!これで両思いですね」

そう言って、あの時受けが見たプレゼントの箱を攻めが差し出してくる。受けが戸惑っていると、

「お誕生日おめでとうございます」

と言ってくる。何故知ってるのかと驚くと、

「SNSに載ってましたよ。無防備ですよね。その日を最期のお別れにしようとするロマンチストな貴方が大好きです」

攻めは更に言葉を続ける。

「貴方が私に惹かれてきてることくらい気付いていました。それなのに、俺には別に好きな人がいると勘違いしてて離れようとしていることも。
こんなかわいい人を好きにならないわけないじゃないですか。」

何もかもお見通しの攻めに何もいえず口をぱくぱくする受け。

「さて、貴方のために鍛えたこの身体、今夜披露してあげますから、今晩は僕と一緒に過ごしましょうね。今夜は寝かせませんよ」

攻めはそう言って、受けを軽々と抱き上げる。その時の攻めの顔は凄みがあって、受けはタジタジになってしまったが、それにキュンとしてしまったことは攻めには内緒だ。
その夜、自分にアクロバティックな姿勢がとれる柔軟性と体力筋力がある事を初めて受けは後悔した。


 おしまい

書いてて楽しかったお話でした✨
ここまでお読みいただきありがとうございました💕
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