虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐

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四章 月下香

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炎を纏う少女と少年が悠然とした足取りで互いの距離を詰めて行く

闘技台は完全に炎に覆われ逃げる事は不可能

そしてあと数歩というとこで二人の姿が視界から消える

二人の姿を目視出来ず、しかし所々から衝撃波と雷のような轟

観客は目にすることができない戦闘を前に歓声をあげるものはいなかった

静寂の中に轟く音。一体何が衝突しているのかわからない音

観客はただ呆然と眺める事しかできなかった

疾風迅雷で死闘を繰り広げるレオンとリコリス


「———暑いな!その衣は!」


二人は驚くべき速さで戦闘を繰り広げる、まさに神速染みた駆ける鳥との一対一だった———



————俺が打撃を打ち込んでも衣が防ぎ、逆にこちらが火傷を追う

完璧な防御、理不尽な攻撃

「そんなものですか!もっと、この快感を味合わせてくださいっ!」

「‥‥‥この戦闘狂がっ!」

リコリスは炎を使い攻撃を仕掛けて来る。炎が纏った拳に蹴り。さらには身体能力、俊敏正、反射神経、が底上げされ、生身の肉体では到底敵わない。

「さあ!さあ!行きますよ!燈《ルーメ・フォーコ》」

彼女が唱えた瞬間、魔法陣が浮かび上がったが何も起こらない

その時俺はハッタリかと思ったがその魔法の効果は予想外のとこから襲ってくる

「‥‥‥ガハっ!」

突如何もない背後の空間から炎が現れ、火傷を負う

「ふふふ。どうです?痛いですか?こんなものじゃまだ終わりませんよ!」

俺は炎を何度も受けながら彼女を観察し続けた

(一体どういうことだ?いつの間にか背後から炎が現れるだと‥‥)

「くそっ!何かないのか?!」

何度も炎に襲われた俺の上半身の衣服がほとんど燃え消えた
そして服の下では酷い火傷の跡が露わになる

「この‥‥なめるなっ!」

俺は魔法陣を腕に纏わせエルフ大国で対峙したファルコの大技風神ウェルトゥルヌスの改良版をリコリスに放った

腕で横なぎに払った風の刃。到底目視出来ぬ神速でリコリスに迫る

そして————リコリスは俺が放った魔法の正体を知らない

「———え?キャァッ!」

目の前まで迫った風の刃はリコリスの虚をついて見事命中した

「今のは見えなかった‥…!」

この攻撃がきっかけにようやく距離を取ることが出来た

そして二人の戦闘を目視出来なかった観客達はようやく見えた二人の姿に驚く

そして闘技台を囲う炎に驚く

「なんだよあの姿は!リコリス様の魔法か!」

「とんでもねーな!炎を纏っているぞ!」

「リコリス様、素敵―!」

「おいおい、あのチビ酷い火傷を負っているぞ!」

「とんでもない速さの中で何が起こっていたんだ?!」

観客達はリコリスの形態と俺の火傷を見て各々意見し、騒がしくなる
騒がしくなるのも無理はない。俺とリコリスの死闘は観客からしてみれば、体感わずか数秒の出来事。 

いきなり二人の姿が消えたかと思えば明後日の方向から衝撃波と爆音が襲い、闘技台が炎に覆われる

それから数秒たてば炎の衣を纏ったリコリスと火傷を負った少年が闘技台の端と端にいるのだから。それは混乱するに違いない

そしてこの俺の姿を見ていたのはファシーノ達も同じであった


◊◊◊


「あの人が火傷をするなんて‥‥信じられないわ」

「はわわわわ。どうなってしまうんでしょう‥‥」

———私は火傷を追わせたリコリスを睨み付ける。今すぐにでも闘技台へ向かいたいが必死に感情を抑える。デリカートは口元に手を当て慌てている

そしてヴァルネラ様はというと

「ふむ。これは少々まずいのではない」

「それはどういう意味です?彼が負けるとでも?」

ヴァルネラ様の発言に喰いかかった。彼が負けると言われるのは我慢ができなかった。それに酷い火傷が目に入ると尚更‥‥‥

「そんなに怒るでない、小娘。このままではということだ。それにレオンがこの場であの魔法を使ってしまえば被害は想定できん。それを考慮して相手の土俵で闘っているのだ。ここは見届けなくては女が廃ると言うものよ。ここは我慢だ」

悔しさで、手を握る潰す。ヴァルネラ様にあやされ、冷静さを取り戻すけど心の中は渦巻いている‥‥‥

「そう‥‥そうね。見届けましょう」

胸に手を当て力強く握る。そしてこの戦いを最後まで見届けましょう


◊◊◊


———ここは闘技場の医務室

怪我をした選手達が運ばれ何人もの人がベッドに横になっている

そのうちの一人が瞼を開き、眼を覚ました————



「———ん?ここは一体っ?」

「「「お‥‥お姉さまぁぁ!!」」」

娼婦街の花魁ことエリーが眼を覚ました

そして目を覚ますとエリーの義妹である娼婦が看病をしていた

その数は数十人。現在医務室の数は上限を超え、半数は娼婦達で埋め尽くされていた

「あ、あなた達!どうしてここへ?!」

「そんなの決まってます!お姉さまの勇姿を見届けるためです!」

「そうだったの‥‥でもごめんなさいね。私負けちゃったわ‥‥」



———私は表情を濁ませる。負けたと言うことはこの後の経緯も決まってしまったと言う絶望からの表情。そんな私に娼婦の子達は声を駆けてくれる

「お姉さま。とても感動しました‥‥私たちのためにここまでしてくれて一体どうしたらいいか‥‥」

「お姉さまはゆっくり休んでいてください」

「そうはいかないわ‥‥これからどうなるか‥‥」

そしてある娼婦の子が不思議なことを言い出す

「———お姉さま、気を失っていたけどとても幸せそうな笑みでした‥‥私そんなお姉さまを見て、もう悲しくて‥‥」

娼婦の子はその場で泣き崩れてしまいました‥‥

(この子が言っていた幸せそうな笑顔とは‥‥一体)

ふと中継されている魔法で映し出されるモニターに眼を映す
そこには炎を纏ったリコリス王女と服がやぶれ火傷だらけの仮面の少年が映し出されていた


「———嘘」


———私は気絶する前の記憶を思い出す。気を失う間際にかけられた言葉

私がずっと求めていた言葉。その記憶の全てが片隅から蘇る



———必ず‥‥助けてやる———



彼が最後に言ってくれた言葉に胸が弾ける感覚に陥る

しかし娼婦には絶対に封印しなくてはならない感情がある


それは恋心


男には恋をさせるけど、自らが飲まれてはならない。何人もの男を相手するのには不必要な感情

なぜなら娼婦と言う仕事に支障をきたしてしまうから‥‥‥

娼婦になった日から心の奥底で仕舞い続けてきた感情。その感情が今にも爆発しそうに‥‥‥

「お姉さま!どうしたんですか?!」

そして気がつくと涙が頬を流れていた‥‥‥

これは悲しみの涙なのか‥‥喜びの涙なのか‥‥

しかしこれから起こりうる悲劇が私の心を苦しめる

でも‥‥この感情はどちらを優先するべきかわからない

モニターの奥で闘っている彼の言葉を信じてもいいのかと

その結末は今夜決定される

今日から始まる幸せの日々か‥‥それとも明日から始まる地獄の日々かを‥‥


———私はただ願い続けるだけだった
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