『乙女ゲー』のモブだが、振られ令嬢をゲットして、レーティングを『D』にしてみた

藍川 東

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 今のところ、王宮からなんの便りも沙汰もない。

 一応、仮にも、現王の息子に大勢の貴族たちの前で赤っ恥をかかせて出てきたのだから、早急に対応があるかと思っていたのだが、ない。

 本当に、なにもない。

 我が甥ながら、大丈夫なのか、エディアール。

 俺が独自に王宮に置いている『連絡係』たちによると、エディアールと例の娘、そして側近の二人は何事もなかったかのように過ごしているという。
 本当に、大丈夫なのか?
 頭がお花畑、というのはこんな身近に存在する輩なのか?

 その証拠に、俺に届く決済の書類はまったく減っていない。
 むしろ裁量の幅が増えた気がする。

 もし、俺が逆の立場だったらー-もちろん、こんな状況になる前にしかるべき対処をする、という当然の選択肢をしなかった場合だがー-『敵』になるかもしれない相手に、国の状況がわかるような、手の内を晒すような情報は一切与えない。
 常道だろう。
 俺もそのつもりで、サリアを愛でる時間を満喫するために郊外の邸に来たというのに、王宮からは変わらず書類が送られてくる。
 『連絡係』によれば、俺が王宮にいた時と流れはまったく変わっていないとのことだ。
 つまり、俺が採決したものをエディアールが形だけ署名をしている、という。
 しかも、以前は自分で判断していた書類まで回してきているという。
 ふざけた話だ。

 そして有り余らせた時間で、例の娘とお忍びで城下に買い物に行ったり(護衛には、絶対に目に入るな、と厳命して大不評だったそうだ)、側近の二人と合わせて四人で郊外の洞窟を探検したり(王都から日帰りできる範囲に大した魔獣をのさばらせておくわけないだろう)、日々を大変楽しく過ごしているらしい。

 おかげで王宮の、行政としての機能は滞り気味ということだ。
 エディアールが王宮をしょっちゅう抜け出してしまうので、謁見や陳情者の列が王宮をはみ出してしまう日も近い、と冗談が冗談でなくなりつつあるという。

 さらに、王宮の女主人の役割をこなしてきたサリアが抜けた穴は、そのまま放置されているという。
 例の娘は、エディアールから離れることなく様々な遊びに誘い、離れたかと思えば側近二人に思わせぶりなことをしている。
 貴族勢力のパワーバランスを調整するための茶会を開かず、気に入った者たちだけを集めた茶会を催したり、(だって、知らない年上の人たちと、なにを話せばいいかわからないもの)、王宮の装飾を少女趣味に変えたり(こっちの方が、可愛いでしょ?)、王妃としてのマナーと知識の座学を抜け出したり(だって、眠くなっちゃうし)、やりたい放題だという。

 『乙女ゲームの攻略』としては『正しい』行動なのだろうが、仮にも一国の主にならんとする者の伴侶候補としては害悪でしかない。

 裏町でひとりの貧しい子どもとその母親を救うよりは、救護院を作る予算を取って命令を出せば、その百倍の母子を救うことができる。
 近場のダンジョンなんて、王族や貴族の装備なら攻略できるのが当たり前なのだから、庶民の夢と希望と財を横取りするようなことは慎むべきだ。

 俺はありのままの状況を、兄である現王に送っている。
 それと、義父になる予定(というかならないという選択肢は頼むから無理)のサリアの父である公爵にも書簡を送っているが、内容は異なる。
 公爵も独自の情報網で、王宮の状況を知り、俺の提案に乗り気になってくれているようだ。
 よしよし。

 地方を御幸していた王たちが王宮に戻ってくるまで、もうあと半月ほどだ。

 王を迎えるにあたっては、王都の平民たちに根回しという名の小銭を配って、王の帰還を華々しく飾るのが通例だが、あのお花畑の甥王子と例の娘、側近二人はわかっているだろうか?

 もちろん国民が王をたたえ、その姿を一目見たいと思って沿道に詰めかけることはあるが、事前に道を清めたり、花吹雪を撒いたりするのはタダではない。
 雇うほどの金を渡しているわけではないし、迎える平民たちも王と王族への尊敬の念がないわけではない。
 しかし、日々の営みの手を止めるわけだから、なにがしかの代償があればお互いスムーズに事が進む。
 そのあたりの手配も、王宮の女主人の責務なのだが、どうやらまったく準備していないとのことだ。
 ……どうなることやら。


 「サリアは?」
 執務を一区切りつけたところで、執事に声をかけた。
 今日の仕事はサリアには見せたくないものもあったので、それぞれ別室で行っていた。
 「サリア様でしたら、本日の執務を終わられて、お茶をされています」
 「朝に回した仕事は?」
 「わたくしが拝察いたしました限り、滞りなく。
 加えまして、当家のご領地とサリア様のお父上が治めていらっしゃる公爵領との交易について、ご下問がありましたためお答えしたところ、いくつか改善すべきご提案をいただきました。
 後ほどお目通しを」
 なぜが執事が胸を張っていっている。
 サリアは俺の伴侶だぞ。
 「ご幼少のみぎりから殿下にお仕えし、今まで様々な、本当に様々なごとがございましたが」
 なぜ、繰り返して強調する。
 「本当に様々なことがあり、もったいなくも教育係としてもお仕えした殿下を誇らしく思うことも、不敬ながら頭に拳骨を落としてやりたいと思うことも、このクソガキめとこめかみをグリグリしたいと思ってしまうこともございました」
 ……思わなくても、やってただろう。
 こいつは、今こそ枯れた風をしているが、俺の執事兼教育係として母親が連れてきたときは、とある事情で王宮騎士の団長を早期引退した直後で、ほぼ現役最強の状態だった。
 礼儀作法はもちろんだが、剣術体術護身術では子供相手に情け容赦もなくしごかれたものだ。
 俺の母親もある意味豪快な人で、治る怪我なら大丈夫、と笑顔で稽古場に連れていかれたからな。
 おかげで今、生きていられるわけだが。

 「サリア様を伴侶としてお迎えされるというご決断は、いままでされてきた中でも、卓抜したご英断です。
 ええ、あのようなご令嬢が、当家にお輿入れいただけるとは、まさに僥倖。
 ゆめゆめ取り逃がされないよう、十分お気をつけなされませ」
 なんだか、ずいぶんと機嫌がいい。
 口が悪いのは俺に対してだけだが、他の人間に対しておもねるようなことはことは一切しない。
 そのあたりが早すぎる引退の理由なのだが、今はいいだろう。
 とにかくサリアをとても気に入ったようだ。
 女主人と執事の関係が良好ななことは、良いことだ。

 「では、将来の女主人殿へご挨拶に伺うとしよう。案内を」
 俺は執務室の椅子から立ち上がると、完璧な角度で礼をする執事に導かれ、愛しの伴侶の元へと赴いて行った。

 そこはかつて俺の母親がよく使っていた部屋で、中庭に面したガラスの扉から差し込む光が、部屋を明るく照らす。
 午後のお茶、と執事がいった通り、部屋には馥郁とした茶の香りと、チョコレートや焼き菓子の甘い匂いに満ちていた。
 サリアはずいぶんと嬉しそうな顔で、ココットに入ったチョコレートの色と匂いのする柔らかいものー-ムースというものだと、あとで教えられたー-を頬ばっている。
 珍しく、行儀悪くスプーンを口に入れたまま味わっているようだ。
 普段は絶対にしない。礼儀作法に反している。
 それをしてしまうほど、俺のところで気を抜いて過ごしているということだ。
 悪くない。
 ああ、まったく悪くない。

 「サリア様。茶菓子はお気に召しましたでしょうか?」
 執事が声をかけると、サリアが振り返った。
 「ええ。どれもとてもおいしくて。料理長に伝えてください……、っ、テオドール様っ」
 俺の姿を見ると、ココットとスプーンを置いて、立ち上がろうとするサリアを手で制する。
 「我が邸の料理長の味が気に入ってくれて、嬉しい」
 率直に思ったことをいったんだが、頬を染めて下を向かれてしまった。
 どうやら食べ物に執着しているのを、恥ずかしがっているようだ。
 まったく可愛らしい。
 俺は向かいの席に座っていった。
 「料理長が、このような可愛らしい物を作れるとはな。知らなかった」
 テーブルには所狭しと、色とりどりの菓子が置いてある。クッキーー-色はともかく、形が様々なのに意味はあるのか?ー-と、クリームを塗ったケーキー-これも色と型が多種多様あるー-は分かるが、他のものは、生菓子か焼き菓子かの区別以外まったくわからない。
 まぁ、サリアが喜ぶものなら、別にかまわないが。

 「まぁっ、テオドール様はお菓子は召し上がらないのですか? もったいないですわ。
 料理長が作ったと聞きましたが、こんな見た目もお味も素晴らしい物を、召し上がらないなんて」
 「まったくでございます。当家の料理長は、菓子作りも卓越した技を持っておりますが、なにしろ主人がお求めにならないので、その腕を危うく腐らせてしまうところでした。
 サリア様は、料理長にとっても恩人でいらっしゃいます」
 サリアがいうと素直に聞けるのだが、執事がいうとどうもこの年にして反抗心をつつかれた気持ちになるのは、なぜだろう。

 俺が悪いのか?
 ……まぁ、サリアが喜ぶのなら、別にかまわないが。
 
 だが、俺にはどうしてもその砂糖と小麦粉を主成分とした物たちを口にする気は、あまりない。
 それならば、もっと食べたい物を、食べるとしよう。
 「そういえば、小腹がすいたな。なにか軽くつまめるものを用意させてくれ。
 前菜のようなものを、一口ずつ幾種類か。マリネなどがいいな」
 「かしこまりました。こちらにご用意いたしますか?」
 「いや、」
 俺は不思議そうに見上げてくるサリアに微笑みかける。
 執事が胡乱な目で見てくるが、主人をそんな目でみるものではないぞ。
 俺とサリアが『仲良く』するのに、なんの不満があるんだ。

 「我が『伴侶』殿の部屋でいただくとしよう。付き合ってくれるか? サリア」
 「はい、テオドール様」
 おそらく、俺がひとりで食事をとるのに、純粋にともに席についてくれる心づもりなのだろう。
 愛らしく微笑み返してくれる。
 ますます胡乱な目で見てくる執事は、俺がこれからすることを見越しているようだ。
 俺にだけ聞こえるように、耳元にささやいてきた。
 「後片付けと……湯浴みのご用意をしておきます」
 「そうしてくれ」


 「テ、テオドール様っ。これは一体っ……」
 「ん? 私の軽食に付きあってくれるんだろう?」
 「えぇ、そう申し上げましたけれど、ではなぜ私の服を脱がせて……あっ」
 気分は悪徳代官だな(なったことはないけれど)。
 サリアが戸惑う間に、服を全部脱がしてしまう。
 ドレスもコルセットも。
 ガーダーは少し悩んだが、またこの次のお楽しみにしよう。
 礼儀作法政務やなら十分すぎるほど有能なのに。
 俺が『サリアの部屋で食べたい』といった時点で怪しまなくては。
 察した執事の目線が重かったのなんの。
 ま、気にしないが。

 ベッドの脇の小机に、先程用意させておいた料理を並べた。
 「料理というものは、味もさることながら、盛り付けや見た目も大事だろう?」
 「はい……」
 当たり前のことをいっているようだが、サリアはすでに寝台の上で全裸だし、俺はボタンひとつ緩めていない。
 それでも俺の下から逃げ出そうとしない。
 健気にも俺を信じて、これからされることを受け止めようとしている。
 「俺も話には聞いたことがあったが、今まで試してみようとは思わなかった。でも、サリアならやってみたいと思ったんだ」
 「そ、それは光栄でございますが、あの……」
 そうだな、そろそろ伝えなければならないな。
 「サリア。この世には、……
 『女体盛り』というものがあるそうだ」


 俺は自分の美的センスというものに信頼をおいていないが、なるほど、美しさというものは素材でなんとでもなるものだ。

 恥じらいながらも、俺が『お願い』したとおりに身動きを取らず、寝台の真ん中に横たわっている。
 その白くやわらかい体には、至るところに料理が乗せてある。
 我ながら、いささか倒錯的かもしれないが、こういうものは、楽しんだ者勝ちだ。
 そして俺は今、とても楽しい。

 俺はあえて手を使わずに、サリアの体に唇を寄せていく。
 まず柔らかそうな脇腹。温められた野菜とソースを口にする。滴ってしまったソースを追いかけて、腰骨を舌先で辿る。
 「あっ……テオドール様……んっ」
 うまそうで、つい囓ってしまった。
 そのまま舌を滑らせて、可愛らしい臍に溜めていたコンソメのジュレをすする。
 「……っ、やっ……んんっ……あぁんっ」
 横目に、ほっそりした手がシーツを握りしめているのが見える。
 身を捩って快楽を逃したいのを必死でこらえている。
 下乳の隙間をべっとりと舐め上げる。
 「そこにはっ、なにもありませんっ」
 「そうか? なにかうまそうなものが隠されていそうだと思ったんだ」
 「そんなっ……だめですっ……あ、ああんっ」
 鼻先で乳房を持ち上げて、さらに味わってしまう。
 食べ物よりも、サリアのいい匂いがする。
 乳房の形を辿るように、その頂まで舌で辿る。
 乳首を隠すように置いた魚のマリネの中央が可愛らしく盛り上がっている。
 身の上から歯を立てて、少し硬い感触を楽しむ。
 「テ、テオドール様っ、そこはっ」
 「あぁ。毎日触っているから、痛くなってしまったか?」
 「痛くは……ありません、けれど……」
 「んん?」
 もっと言葉を出してもいいのだが、俺の唇も舌も、今はとても忙しい。
 「あまり、その、触られていますと……服に擦れても……」
 「感じてしまう?」
 サリアは恥ずかしげに唇を噛むと、うらめしげに俺を睨んでくる。
 潤んだ瞳で、頬を染めて睨まれても、ただ可愛らしいだけだ。
 「そうか。では仕方ないか」
 「いやあっんっ」
 マリネを食べる。そのときに『たまたま』歯が乳首をかすめてしまったようで、サリアの体が魚のように跳ねた。
 「おっと」
 乗せていた食べ物がシーツに落ちてしまった。
 落ちてしまったものは、仕方がない。
 仕方がないので、俺は虚しくサリアの体に残されたソースを辿っていく。
 辿っていくと、自然とサリアの淡い茂みにたどり着いてしまった。
 なんという偶然。
 震える白い腿の間に体を入れ込み、閉じられないようにする。
 「おや、こんなところに甘い物が隠されていたどはな」
 密を溢れさせた蕾を、傷つけないようにゆっくりを指で開く。
 「あっ、あっ」
 朝露に濡れたバラのような蕾と、ツンと立ち上がった花芯。
 俺は甘い蜜に逆らえない虫にように、その蕾を貪った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
テオドール様は相変わらずムッツリですな。
サリアちゃんがんばれっ
『乙女ゲー』主人公たちは、なにをやってるやら。
テオドール様とサリアちゃんは、放って置いてイチャイチャ楽しく過ごしてもらいますっ
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