群青の空の下で(修正版)

花影

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第2章 タランテラの悪夢

128 冬の到来3

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 リーガスは総督府の着場で何年かぶりに会う昔の仲間を出迎えていた。
 まだ傭兵として各国を転々としていた頃、共に戦った仲間から連絡を貰ったのは3日前だった。若いのを連れて行くから待っていろといった内容の手紙が届き、今日、先発として若い竜騎士を5名引き連れて到着したのだ。
「リーガス!」
「ジグムント!」
 再会した2人はがっしりと握手を交わした。
「しかし、お前が団長とはねぇ」
「そう言うお前は傭兵団の部隊長じゃねえか」
 記憶の中の姿と比べて幾分歳をとった相手と軽口を交えながら挨拶を交わす。十分な準備も整わず、いつも以上に厳しい冬を乗り越えなければならないのを覚悟していた所に、この申し出は本当にありがたかった。
「本当に助かった。だが、正直な話、報酬はあまりはずめないぞ」
「こちらの内情もある程度は聞いている。そう思ったから経験を積ませる意味も込めて若手を中心に連れて来たんだ。10日後になるが、騎馬兵も到着する」
「そうか、感謝する」
 リーガスは自ら旧友を団長執務室に案内する。今後の打ち合わせの為、既に総督も来ているのだが、あらかじめ連絡を入れていたにも関わらずフォルビアからはまだ誰も来ていない。あちらの状況を考えれば無理も無く、先に話を進めようかとしたところへ執務室の扉が叩かれる。
「失礼します。フォルビアからルーク卿がお見えになりました」
 ルークを案内してきたのはジーンだった。てっきり自宅にいると思っていたリーガスは驚いて席を立つ。
「ジーン! 何でここにいる?」
「あら、仕事に決まっているじゃない」
「……家で大人しくしていろと言わなかったか?」
 リーガスの声が地を這う。自分に向けられたものでは無いのに、ルークは思わずすくみ上り、背後に控えていたラウルとシュテファンに至っては恐ろしさのあまりその場を逃げ出した。
「人手が足りないって嘆いていたのは貴方でしょ? 出来る事をしに来ただけよ」
 ジーンは1人平然と受け流す。子を宿しているのでさすがに騎士服を纏っていないが、ゆったりとしていても動きやすい服を身に着けていた。悪阻つわりも大したことも無く、家で大人しくしているのにも飽きた彼女は、どうやら見習いに混ざって雑用をこなしていたらしい。
「お前1人の体じゃないんだぞ」
「分かっているわよ。無理はしていないわ」
「分かってない。帰って体休めておけ」
「大丈夫よ」
 必死に言い募るリーガスに対し、ジーンは至ってお気楽に答える。しかし、その大丈夫に根拠は無さそうだった。
「団長、まあ、落ち着いて下さい。彼女に雑用を頼んだのは私です」
 そこへクレストが現れる。リーガスはどういうつもりかとギロリと睨むが、付き合いの長い彼は平然と受け流して続ける。
「入ったばかりの見習いに指導する暇もありませんからねぇ。彼女には彼等の指導と監督を頼んだのですよ。大事な時期ですからね、体へ負担がかからないように配慮はしています」
「……」
 黙りこむリーガスにクレストは爽やかな笑みを浮かべ、突っ立ったままのルークに室内に入るよう促す。1人傍観していた客人は揶揄やゆするような視線をリーガスに向けるので、彼の表情は一層険しくなる。
「さて、お客様をあまりお待たせするのも申し訳ありませんから、そろそろ始めましょうか。ジーン、お茶の手配を頼みますよ」
「はい」
 ジーンは笑顔で答えると、お茶の支度をしに出て行った。いつもなら小走りになるところをさすがに用心して歩いていく。一応、母になった自覚はあるらしい。程なくしてジーンに頼まれたらしい若い侍官が現れ、それぞれにお茶を出すと、静かに退出した。
「で、俺達は何をすればいい?」
 お茶を一口だけ飲むと、ジグムントは早速本題に入る。彼が知りえた情報だけでも優雅にお茶を楽しむ時間すら惜しい状態のはずだった。
「いつ霧が出てもおかしくない状況だ。移動の時間も限られるから、半数はフォルビア、残りはロベリアに駐留してもらう。それで生じる余裕をワールウェイド領に回す」
 グスタフが失脚した事により、ワールウェイド領にいた竜騎士の一部が冬を直前に控えた時期に新総督との契約を拒否して他国へと渡ってしまった。大隊が1つ壊滅した第1騎士団からは既に裂ける人員はおらず、新団長に就任したエルフレートだけでなく、ブロワディもアスターも奔走しているのだがなかなかその穴は埋まらない。今回のジグムントの申し出は本当に渡りに船だった。
 来たのは高名な傭兵団である。若手が中心とはいえその実力は申し分なく、信用第一の彼等は契約が有る限り裏切る事も無い。安心して任せられる。
「ふむ……。私はどこにいればいい?」
「ありがたいが、本当にいいのか?」
「勿論だ」
 長年、第一線で働いて来たジグムントの俸給は、大隊長のものに匹敵する。だが今回、彼が要求したのは一般の竜騎士に相当する額だった。懐具合も苦しい彼等にとって、本当にありがたい申し出なのだが、ついつい裏で何かあるのではないかと勘繰ってしまう。
「東の砦に行ってくれ。今年から若い隊長が率いるから、その補佐を頼む」
「良いだろう」
「若手2人はここで俺の傘下に入ってもらう。残り3名はフォルビアに行ってくれ」
 リーガスは地図を広げ、駒を使い現在の配置を再現する。そして新たに加わる傭兵達を配置し、ロベリアに配置させていた竜騎士を表す駒を2つ取るとワールウェイド領に置く。
「兵団の数は?」
「予定通り200騎だ。こちらも若手中心だが、指揮官は中堅を用意した」
「それはありがたい。半数は西砦に残りはフォルビアに行ってもらおう」
 リーガスは先程と同様に西砦に置いてあった騎馬兵の駒をワールウェイド領に動かす。3日前に連絡を貰った時には既に、西砦の騎馬兵団には通達を出していたので、今頃は既に人選が済んでいるだろう。
「ルーク、フォルビアの配置は決めてあるか?」
「はい」
 ずっと黙って話を聞いていたルークは、前に進み出るとヒースから預かった書状を取りだし、それを読み上げる。対策に奔走しているヒースはフォルビアから離れる暇が無く、補佐役のルークに代理を頼んだのだ。
「竜騎士3名は城に詰めて頂きます。騎馬兵団は東部の砦に」
 ルークも駒を移動させながら説明し、浮いた戦力をワールウェイド領に移した。これだけの兵力があれば、抜けた竜騎士達の穴を埋めるには十分だろう。
「騎馬兵団には配属先に直行する様に伝えよう」
「ルーク、戻る時にフォルビア配属の3名を案内してくれ」
「分かりました」
 配置の確認が済むと、一同はすぐに席を立つ。来たばかりだが、ルークはすぐに部下とフォルビアに配属になった傭兵を連れて総督府を後にした。



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ジグムントがタランテラに来たのはディエゴの介入によるもの。
ちなみにリーガスとジグムントとディエゴは昔一緒につるんだ仲。
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