群青の空の下で(修正版)

花影

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第1章 群青の騎士団と謎の佳人

124 門出は悲しみと共に4

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「ルーク卿、ハルベルト殿下がお呼びでございます」
 翌朝、ルークは侍官にそう声をかけられ、あわてて飛び起きた。気づけば随分と日が高くなっている。ロベリアの宴で前の晩はほとんど寝てなかった上に、仮眠しただけで長距離を飛んだので、体のほうは本人が思っていたよりも随分と疲れていたらしい。
「分かった、すぐ仕度する」
 ルークは急いで顔を洗うと手早く服を着替えた。姿見の前で一応身だしなみを確認すると、侍官が会議室へ案内してくれた。
「失礼いたします。ルーク卿を案内して参りました」
 侍官が扉を叩いてそう言うと、重々しく扉が開かれた。ルークは頭を下げて一歩中へ踏み込む。
「失礼致します」
 中を見渡すと、正面には国主のアロンが座っており、その左隣にハルベルトが控えていた。入り口から奥に向かって右側は5大公家の席らしく、サントリナ公とブランドル公、そして一時的に謹慎を解かれたワールウェイド公と見覚えが無い人物が座っていた。空いているのはフォルビア公の席だろうから、見覚えの無い人物はリネアリス公だろう。左側の席には隊長格の竜騎士と高位の文官らしい人物が数名座っている。
「遅参して申し訳ありません」
 ここに集まっているのは、言わばこの国を動かしている人物ばかりである。そういった人達を待たせてしまったのかと思い、ルークは慌てて謝罪の言葉を口にする。
「気にするな、ルーク卿。今、フォルビアヘ向かう手はずを大方終えたところだ」
「はっ」
 全員の視線が自分に集まり、ルークは余計に緊張してしまう。
「昨夜、あの時間に着いたのなら、向こうは早朝に出たのであろう?一日飛竜に乗っていれば、疲れていて当然だ」
「そうじゃ。さすがの雷光の騎士殿も昨夜は疲労困憊しておったからの」
 サントリナ公とブランドル公が口々に言うと、ルークは少し困惑した表情となる。彼らはどうやら、グロリアが身罷みまかってすぐにルークが館を出発したと思っているらしい。どうしたものかと思っていると、ハルベルトが声をかける。
「どうした?ルーク。何か言いたそうな顔をしているぞ。言いたい事があるなら言ってもかまわないぞ」
「よろしいのですか?」
「ああ」
 冬の折にルークの話を聞いているので、ハルベルトもどうやら彼らの勘違いに気づいている様である。どういった反応を皆が見せるか、密かに周囲を見回している。
「その……前の晩にロベリアでは新年祭がありまして、私はほとんど寝ていませんでした。ですから団長から使いを頼まれた時に仮眠してから出るように言われたので、それほど早く出たわけではありません」
 ルークの正直な告白に皆は首をかしげる。
「グロリア殿が身罷られたのは未明であったな? 一体いつ頃向こうを出たのか?」
 自身も竜騎士だったブランドル公がルークに尋ねる。
「昨日の今頃です」
 ルークの答えに一同は絶句する。
「は? 休息は取らなかったのか?」
「いえ、一度途中の砦に立ち寄って軽く食事を頂きました。あと、2度ほど水場で小休止しました」
「嘘だろ……」
 思わずブランドル公からもれた一言は、その場にいる全員の気持ちを代弁していた。
「ふぉっふぉっふぉっ…。あっぱれじゃ。正に雷光の騎士じゃ」
 今まで無言で話を聞いていた国主が思わず笑い出す。昨日は確かに道中急いだが、ルークは自分が出来る事をしただけなので、何故そこまで驚かれるか不思議でならなかった。
「あ、あの……」
 どうしていいか分からずに困ってしまう。
「ルーク卿、貴公は自分が出来る事をしただけであろう?」
「は…はい、そうです」
「ならばそれで良い」
 ハルベルトの言葉にルークは少し安堵する。国主も満足そうにうなずいているので、これはこれで良かったのだろうと自分を納得させた。
「用というのはルーク卿、君はロベリアへ先に帰ってエドワルドにこちらの手はずを伝えてもらおうと思っているのだ」
「はい、お任せください。発つのは早い方が宜しいですか?」
 若者らしい無鉄砲さにハルベルトは苦笑しながら彼に諭すように言う。
「そう慌てなくても良い。エドワルドの手紙では葬儀は10日後に行うとある。そなたもエアリアルも疲れているだろう? 今日はゆっくり休み、明朝発つといい」
「はい、ありがとうございます」
 ルークはそう言って深々と頭を下げた。
「それから、その折にはこちらの騎士団から2名同行させるが良いか?」
「はい」
 これは安全を考慮しての事であろう。誰が同行するかルークは少し不安になる。
「ブロワディ、人選は決まったか?」
「はっ」
 第1騎士団を束ねる団長は立ち上がって国主とハルベルトに一度頭を下げ、ルークにも軽く一礼する。つられてルークも頭を下げた。
「第1大隊隊長のヒース卿と同隊所属のユリウス卿に決定いたしました」
 ブロワディの隣でヒースがルークに軽く目配せしてくる。彼にとってこれ以上は無い人選だった。
「……ありがとうございます」
 ルークは思わず感謝の言葉が口にしていた。その様子にハルベルトは口元に笑みを浮かべていた。
「良かろう。他には何か異存のあるものは無いか?」
 どうやら誰も異存は無い様で、口を挟むものはいない。会議はこれで終了となった。集まった人達は皆、重要な役職についている者ばかりで、終わると同時に忙しそうに会議室を後にする。ルークはそういった人達の妨げにならないよう、人が少なくなるのを脇に寄って待っていた。
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