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第2章 タランテラの悪夢
94 フォルビア解放劇6
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「若、遅くなって済まない」
宿屋の一室。夕刻になり、アレスが小竜達の見たものを聞き出している所へ、フォルビア領とワールウェイド領の境にある薬草園へ行って来たスパークが戻ってきた。
「おう」
突然現れたスパークに驚いたのか、小竜は翼をバタつかせ、アレスは落ち着かせるように背中を撫でる。
「すまん。驚かせたか?」
「ちょっとな。まあ、ある程度は聞き出せたから大丈夫だ」
アレスは小竜達を労うと解放してやる。彼等は一声鳴くと、また夕闇が迫る街へ飛び立っていった。
「マルクスは?」
「先に皇都へ向かわせた。とりあえず、下で話を聞こう」
「了解」
アレスがスパークを促して階下の酒場へ降りると、昨夜の事があったばかりだと言うのに既に多くの客で賑わっていた。2人は女将が確保しておいてくれた席に着くと、早速本題に入る。
「どうだった?」
「若が言った通り、栽培されていたのはあの薬草だった。近くの湯治場で色々情報収集したところ、今年収穫した薬草は既に搬出されていた」
「搬出先は分かったか?」
「マルモアだ。あの山奥から一旦フォルビアへ運び、近くの桟橋から川船で運ばれているらしい」
「マルモアは確か……」
潜入前に彼等はタランテラに関する基礎知識を頭に叩き込んできていた。アレスは記憶の糸を手繰り寄せようとするが、先にスパークが答える。
「総督はゲオルグ皇子だったな。実質はワールウェイド家が取り仕切っているようだが」
「……マルモアのどこへ運ばれているか分かったか?」
「残念ながらそこまでは……。ただ、昨年から何度も高位の神官が視察に来ている。考えたくないが、栽培に神殿が絡んでいる可能性がある」
「……マルモアには正神殿があったな」
「ああ」
グスタフは礎の里の賢者数名と太い繋がりがある。礎の里からの要請であれだけの施設を作る事はあり得ない話ではない。
だが、専門の施設は礎の里にも聖域にもあり、研究の為であればいくらでもそれらの施設を使う事は可能なはずである。一番問題なのは、栽培しているのが礎の里が使用を禁じている『名もなき魔薬』の原料となる薬草である事実だ。
「嫌な予感がする」
「行ってみますか?」
「そうだな。フォルビアの混乱を最小限で済ませたヒース卿の手腕は大したものだ。ラグラスは捕えたし、この混乱もすぐに収束するだろう」
ここまでくれば、もう自分達が手伝えることはもう無いだろう。アレスはスパークの提案にうなずいた。
彼はあの薬に浅からぬ縁がある。本人は否定していたが、死んだ恋人はあの薬を常用していた。その危険性を知っていた彼がそれに気づき、薬を止めさせようとしていた矢先に彼女は中毒を起こして死んだのだ。
今となってはその薬の入手方法を知る術も無く、その事件に関する全てが闇に葬られてしまった。真相を突き止めるのは最早絶望的だった。
ただ、あの当時から燻り続けている疑念はある。自分が薬に気付いたから、彼女は薬を渡していた人物によって殺されたのではないかと。もしそれが神殿関係者なら……。
「……若?」
不意に声をかけられて顔を上げると、スパークが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「ああ、どうした?」
「どうした?はこっちのセリフだ。急に黙り込むからどうしたのかと」
「ああ、すまん。考え事していた」
アレスはそう答えると、杯に残っていたエールを飲み干す。
「マルモアには俺も同行しようか?」
「そうだな。フォルビアはガスパル達3人に任せよう。マルクスを先行させているが、急げば俺達も殿下帰還の場に間に合うだろう」
「了解です」
アレスはいつもの調子を取り戻し、女将にエールのおかわりを頼む。小竜達から得た情報では、皇都へは船で向かう事に決まっている。だが、エドワルドの体調があまり良くないらしく、出立も明日の午後にするか明後日にするかはまだ決まっていない。
明日の早朝に出立すれば、例えマルモアまで行っても先に皇都に着く。そして帰還したエドワルドが復権するのを確認すれば、アレス達も役割を終えて村に戻るのだ。エドワルドの体調が気がかりだが、この分だとフレアにいい報告が出来そうだ。
「今夜は早めに切り上げて、明日は早朝に出立するぞ」
「了解」
2人は残った料理を平らげると、翌日に備えてその日はいつもより早めに部屋へ引き上げたのだった。
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12時に閑話を更新します。
宿屋の一室。夕刻になり、アレスが小竜達の見たものを聞き出している所へ、フォルビア領とワールウェイド領の境にある薬草園へ行って来たスパークが戻ってきた。
「おう」
突然現れたスパークに驚いたのか、小竜は翼をバタつかせ、アレスは落ち着かせるように背中を撫でる。
「すまん。驚かせたか?」
「ちょっとな。まあ、ある程度は聞き出せたから大丈夫だ」
アレスは小竜達を労うと解放してやる。彼等は一声鳴くと、また夕闇が迫る街へ飛び立っていった。
「マルクスは?」
「先に皇都へ向かわせた。とりあえず、下で話を聞こう」
「了解」
アレスがスパークを促して階下の酒場へ降りると、昨夜の事があったばかりだと言うのに既に多くの客で賑わっていた。2人は女将が確保しておいてくれた席に着くと、早速本題に入る。
「どうだった?」
「若が言った通り、栽培されていたのはあの薬草だった。近くの湯治場で色々情報収集したところ、今年収穫した薬草は既に搬出されていた」
「搬出先は分かったか?」
「マルモアだ。あの山奥から一旦フォルビアへ運び、近くの桟橋から川船で運ばれているらしい」
「マルモアは確か……」
潜入前に彼等はタランテラに関する基礎知識を頭に叩き込んできていた。アレスは記憶の糸を手繰り寄せようとするが、先にスパークが答える。
「総督はゲオルグ皇子だったな。実質はワールウェイド家が取り仕切っているようだが」
「……マルモアのどこへ運ばれているか分かったか?」
「残念ながらそこまでは……。ただ、昨年から何度も高位の神官が視察に来ている。考えたくないが、栽培に神殿が絡んでいる可能性がある」
「……マルモアには正神殿があったな」
「ああ」
グスタフは礎の里の賢者数名と太い繋がりがある。礎の里からの要請であれだけの施設を作る事はあり得ない話ではない。
だが、専門の施設は礎の里にも聖域にもあり、研究の為であればいくらでもそれらの施設を使う事は可能なはずである。一番問題なのは、栽培しているのが礎の里が使用を禁じている『名もなき魔薬』の原料となる薬草である事実だ。
「嫌な予感がする」
「行ってみますか?」
「そうだな。フォルビアの混乱を最小限で済ませたヒース卿の手腕は大したものだ。ラグラスは捕えたし、この混乱もすぐに収束するだろう」
ここまでくれば、もう自分達が手伝えることはもう無いだろう。アレスはスパークの提案にうなずいた。
彼はあの薬に浅からぬ縁がある。本人は否定していたが、死んだ恋人はあの薬を常用していた。その危険性を知っていた彼がそれに気づき、薬を止めさせようとしていた矢先に彼女は中毒を起こして死んだのだ。
今となってはその薬の入手方法を知る術も無く、その事件に関する全てが闇に葬られてしまった。真相を突き止めるのは最早絶望的だった。
ただ、あの当時から燻り続けている疑念はある。自分が薬に気付いたから、彼女は薬を渡していた人物によって殺されたのではないかと。もしそれが神殿関係者なら……。
「……若?」
不意に声をかけられて顔を上げると、スパークが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「ああ、どうした?」
「どうした?はこっちのセリフだ。急に黙り込むからどうしたのかと」
「ああ、すまん。考え事していた」
アレスはそう答えると、杯に残っていたエールを飲み干す。
「マルモアには俺も同行しようか?」
「そうだな。フォルビアはガスパル達3人に任せよう。マルクスを先行させているが、急げば俺達も殿下帰還の場に間に合うだろう」
「了解です」
アレスはいつもの調子を取り戻し、女将にエールのおかわりを頼む。小竜達から得た情報では、皇都へは船で向かう事に決まっている。だが、エドワルドの体調があまり良くないらしく、出立も明日の午後にするか明後日にするかはまだ決まっていない。
明日の早朝に出立すれば、例えマルモアまで行っても先に皇都に着く。そして帰還したエドワルドが復権するのを確認すれば、アレス達も役割を終えて村に戻るのだ。エドワルドの体調が気がかりだが、この分だとフレアにいい報告が出来そうだ。
「今夜は早めに切り上げて、明日は早朝に出立するぞ」
「了解」
2人は残った料理を平らげると、翌日に備えてその日はいつもより早めに部屋へ引き上げたのだった。
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