掌中の珠のように

花影

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救出2

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 最初に投与された薬も全身に回り、繰り返し玩具で攻め続けられた沙耶は放心して横たわっていた。目の焦点が合わず、天井がグルグルと回っている。
「……沙耶、沙耶」
 抱き起されて声をかけられる。あの男ならもう触らないで欲しかった。
「沙耶!」
 聞き覚えのある低い声に、視界がだんだんとはっきりしてくる。覗き込んでいる秀麗な顔を見て彼が無事だった事に安堵し、ジワリと涙が溢れてきた。
「義総様……」
「沙耶!」
 義総が沙耶を強く抱きしめる。だが、投与された薬に酔い、全ての感覚が高められた体はそれだけで感じてしまい、喘いでしまう。
「あぁぁ……」
「沙耶?」
 義総はハッとして車内を見渡す。奥の方にガラムが用済みで追いやり、空になった瓶や使用済みの注射器の類が覗く鞄が目に留まる。彼はポケットから小さなカプセルを取り出すと、口に含んで沙耶の唇に重ねる。
「あふん……あぁ……」
 薬によって高められている沙耶は自ら口を開いて義総の舌に自分の舌を絡めてくる。予め器用に口の中でカプセルを割っていた義総は、それを利用してその中身を沙耶の口の中へと流し込んだ。
「ん……んくっ」
 沙耶が薬を飲みこんだのを確認したが、まだ彼女が唇を離そうとしないので、そのまま薬の味がする舌を絡め続ける。しばらく彼女との口付けを楽しんでいると、コホンというワザとらしい咳払いが聞こえ、ようやく口を離した。
「そろそろタイムリミット。悠長に愛を確かめ合っている場合じゃないよ」
 幸嗣が呆れたように声をかける。沙耶はようやく我に返り、安堵と恥ずかしさが混ざって義総の胸に縋り泣き出した。彼は気にせずに自分のジャケットを脱ぐと、裸の沙耶に着せ掛ける。
「……中和剤を飲ませていただけだ」
「それにしては情熱的だったけど?」
「妬いているのか?」
「ちょっとだけね」
 幸嗣も自分の上着を提供し、沙耶の体を厳重に包みこむ。飲んだばかりでまだ薬が効いていないのか、沙耶はそれでも感じるらしく、喘ぎ声が漏れる。
 幸嗣は沙耶の額に口づけると、義総が指差した鞄を持って先に車から出る。沙耶を抱き上げた義総がそれに続く。
 既にガラムと2人の男達は連行されたらしく姿は無い。義総がぶつけた白いセダンも片づけられ、後はトラックが1台と黒っぽいミニバンが残っているだけだった。
「ミスター大倉、あちらの車をお使いください」
 迷彩服に身を包んだ白人の男性が義総に敬礼する。義総は頷くと、沙耶を抱えたままミニバンに乗り込み、幸嗣は手にしていた鞄をその男性に預ける。
「ハワードに礼を言っておいてくれ。それと、その鞄の薬を調べてくれ」
「かしこまりました」
 男性は了承すると後部座席のドアを閉め、幸嗣が運転席に座り、すぐに車を走らせる。その場に残っていた迷彩服の男達は敬礼して見送った。



 車は深夜の高速道路をしばらく走った後、街中に降りてとあるマンションの地下駐車場で止まった。沙耶はずっと義総の腕の中で泣いていたが、着いた頃には落ち着きを取り戻していた。
「ここ……どこ?」
 車を降り、近くのエレベーターに乗り込むまで沙耶は不安気に辺りを見渡していた。
「心配ない。仕事で使っていたマンションだ」
 閑職に追いやられる前、家に帰る暇も無かった時に使っていたが、今は時折、幸嗣が夜遊びで遅くなった時に使う程度らしい。最上階のフロアが丸々彼等の所有らしく、直通のエレベーターは暗証番号と指紋の認証が無ければ扉が開かない仕掛けになっている。
 エレベーターホールから扉を開け、廊下を抜けると広いリビングに着いた。贅を尽くした本宅や別荘と違い、置いてあるのは飾り気の無いシンプルな家具ばかりである。義総は不安気な沙耶を奥の主寝室に連れて行き、ソファに優しく降ろした。
「幸嗣、バスに湯を張れ」
 義総に言われるまでも無く、幸嗣は主寝室に併設されたバスルームに直行し、すぐに水音が聞こえてきた。義総はクローゼットの扉を開けて中を物色する。
「これくらいしかないか……」
 仕事用として使っていたので男物しかない。仕方なく義総はあまり着ることが無いパジャマを取り出した。
「まだ少ないけど、溜めながら入る?」
 幸嗣がバスルームから出てきた。沙耶は小さく頷いてソファから立ち上がろうとしたのだが、義総に再び抱き上げられて連れて行かれる。
「ゆっくり入っていなさい」
 沙耶を浴槽の縁に座らせると、義総はバスルームを出ようとする。彼なりの心遣いだったが、彼女は彼の腕をつかんで離さない。
「沙耶?」
「い…一緒に……」
 沙耶にとっては精一杯の意思表示だが、それでも義総には彼女が何を望んでいるのかすぐに分かった。
「……いいのか? 抑えられないぞ」
「体が……熱いの」
 うるんだ目で沙耶は義総を見上げる。早くあの男の感触を洗い流してしまいたいのだが、今は薬の影響の方が強く、義総の姿を見ているだけで体の奥が切なくなってくる。
 義総はため息をつくと、沙耶を厳重に包んでいたジャケットを外し、自分も着ているものを脱ぎだした。
 彫像のように美しく、そして逞しい体を見ているだけで沙耶の中は切なさが増してくる。だが、裸になった彼の胸には、厳重なテーピングが施されており、見ているだけで痛々しい。薬に支配されて欲望が勝っていたのだが、彼女は少し冷静さを取り戻した。
「お怪我……されていたのですか?」
「少し痛めただけだ。すぐに治る」
 事も無げに言うが、その体で沙耶を平気な顔して抱き上げていたのだ。なんだかものすごく申し訳ない気持ちがしてきた。
「ごめんなさい……」
「お前の所為じゃない」
 義総は額に口づけると沙耶を立たせ、泡立てたスポンジでまるで壊れ物を扱うかのように洗う。その優しい動きだけで沙耶は感じてしまい、いつもの引っ込み思案な性格が嘘のように義総に体をこすり付けていた。2人で絡み合いながらお互いの全身を洗い、彼女の長い髪も義総が丁寧に洗う。最後にシャワーで泡を洗い流すと、義総は沙耶を抱いたままたっぷりとお湯が溜まった浴槽に浸かった。
「本当にごめんなさい」
 少し薬の熱が冷めたのか、沙耶は再び謝罪の言葉を口にする。そんな彼女の頭を義総は優しく撫でて抱きしめる。
「私の配慮が足りなかっただけだ。内通者に気付かなかった落ち度もある」
「……あの、サラさんは?」
 彼女が刺された光景が脳裏に浮かぶ。義総は彼女の問いに静かに首を振った。
「そんな……」
「刺された後、残る力で這って移動したようだ。本能的に仕掛けられた爆薬から遠ざかろうとしたのかもしれない。そのおかげである程度距離が離れていたのと、セランがとっさに庇ってくれたのでこの程度で助かった。彼は命に別条はないが、重傷だ」
「……」
 沙耶は涙を溜めて痛々しいテーピングに触れる。その様子を愛おしく感じるのか、義総は彼女の頬に手を添えると唇を重ねる。彼女も目を閉じてそれに応え、いつもよりも積極的に舌を絡ませる。
 薬はまだ抜けきっておらず、優しく触れられる度に彼女の体はビクビクと大げさなくらいに反応する。
「あ……あぁ……」
「上がろう」
 義総は沙耶を抱いたまま立ち上がった。今夜は沙耶をそっと眠らせてあげるつもりでいたが、薬で高ぶっている彼女に煽られてもう自分自身が収拾つかなくなっている。逆に薬が抜けるまで付き合ってやった方が彼女の為だと自分自身を納得させて義総は浴槽から出た。


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ここだけの話、義総はろっ骨にひび入ってます。
こんな風に動けるはずは無いのですが、アドレナリン出まくりの状態の義総なら有りえるかも?
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