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救出4
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「ん……」
沙耶が目を覚ますと、義総の腕の中だった。曖昧な記憶をたどろうとするが、頭痛と眩暈がして思考が働かない。
「起きたか?」
髪や頬に優しく触れながら義総が声をかけてくる。
「す……すみません」
どうにか目を開けると、厳重なテーピングが目に付いた。ようやく昨夜の痴態を思い出し、沙耶は羞恥で赤面する。
怪我の程度は分からないが、痛むはずなのに助けに来てくれただけでなく、薬に酔った自分に付き合ってくれたのだ。元はと言えば、言いつけを守らなかった自分が悪いのに、本当に申し訳なかった。
「謝らなくていい。どうやら正気のようだな。気分は?」
「だ……大丈夫です」
体を起こそうとするが、やはり眩暈がひどくて頭も起こせない。
「無理するな」
義総は何かを取りにベッドから降りた。体が離れ、一抹の寂しさを感じていると、戻ってきた彼に優しく抱き起される。
「これを飲みなさい」
口元にグラスの冷たい感触を感じる。まだ目を開けていられず、傾けられたグラスの中身をゆっくりと飲み込む、それはさっぱりとした後味のミックスジュースだった。今までにも綾乃が作って飲ませてくれたことがあった。
「今日のは特別配合だそうだ」
何か薬でも入っているのだろうか? 意味深な言葉が気にかかったが、喉が乾いていたのでグラスの中身を全て飲み干した。
更に義総はクッションや枕を集めて沙耶の背中に宛がい、ふんわりと寄りかからせてくれる。心なしか体が楽になった木がして、沙耶はゆっくりと目を開けてみる。
「大丈夫か?」
バスローブを羽織った義総が顔を覗き込んでいる。ようやく彼の顔を見て、本当に助かったのだと実感がわいてくる。
「はい。ありがとう……ございます」
義総は頷くと、軽く額に口付けた。ようやくお礼がちゃんと言えた気がして少しだけ心が軽くなった。
本宅の義総の部屋を見慣れてしまったせいもあるのか、この部屋は本当に飾り気がない。家具もカーペットもカーテンですらモノトーンで統一された部屋は、シンプルなのだが悪く言えば殺風景に見えてしまう。そのカーテンの隙間から夕焼けに染まった空が見えた。随分と寝てしまっていたようだ。
「起きていられるか?」
義総の問いに沙耶はゆっくりと頷いた。彼は沙耶の隣に座り、彼女を抱き寄せて自分に体を預けさせる。確かにこの方が楽なのだが、怪我をしている義総に負担がかかるのではないかと心配になる。
「義総様のお体は大丈夫ですか?」
「心配してくれるのか?」
沙耶が頷けば頬に手を添えて唇を重ねる。
「優しいな、お前は」
結局義総の怪我の程度はそれでうやむやにされてしまい、昨夜の出来事に話題が移ってしまう。
「サラは麻薬中毒を利用して操られていたようだ。セランはショックを受けていたが、お前を保護したと伝えると安心したと言っていた。彼はしばらく入院が必要だが、回復は早いと医者は言っている」
義総は沙耶の頭を撫で、時折、額や頬に唇を落としながら話を続ける。沙耶もそれが心地良く、口を挟まずに彼の話に耳を傾ける。
「ガラムの身柄は米軍に預けた。軍事政権の内情をしゃべってくれれば、民衆の解放も早くなるかもしれない。
聞けば隠し財産もかなりの額を貯め込んでいるらしい。有効活用すれば虐げられた民衆も喜ぶだろう。もちろん、お前達への償いもしっかりしてもらう。
ガラムに協力していた佐々本も決定的な証拠を押さえて身柄を拘束されている。今、警察が奴の関係機関を一斉に捜査している。青柳を同行させているから、君のお母さんの行方が分かればすぐに連絡が入る」
「本当に?」
沙耶が義総を見上げると、彼は大きく頷いた。
「ああ、そうだ」
義総は何かを思い出したようにバスローブのポケットから何かを取り出して沙耶に握らせる。手を開いてみれば、あの場で落とし、彼等にとられたかもしれないお守りのメダルがあった。
「これ……見つけて下さったのですか?」
「……」
沙耶は信じられずに義総の顔を見るが、彼は少しバツが悪そうな表情を浮かべている。
「お前に謝らなければならない事がある」
「義総様?」
沙耶は不思議そうに義総を見上げる。
「先日、お前に渡した袋の中にはGPS付のダミーが入れてあった。あと、お前に着けさせていたこれにも……」
義総は沙耶の耳に触れ、着けていたピアスを外した。
「え?」
「万が一を考えての措置だった。何も教えなくて済まなかった」
「……」
攫われることも想定して自分にGPSがつけられていたのだ。それで昨夜は居場所が分かり、救いに来てもらえたのかもしれない。
「怒ったか?」
黙り込んでしまった沙耶に義総は神妙な面持ちで尋ねてくる。
「……いいえ。驚きましたけど、だからこそ助けていただけたのですね?」
「使わないで済めばその方が良かったのだが……」
黙っていればそれで気付かないままだったかもしれないのに、律儀に詫びを入れる義総が愛おしい。沙耶はペタリと義総に頬を寄せる。
「沙耶……」
許してもらえたのだと理解すると、義総は彼女の顎に手を添えてそっと唇を重ねた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ようやく騒動は終息へ
あえて話の中では明確に日付を入れませんでしたが、
物語の冒頭は4月下旬ころ。
義総と沙耶が初めてエッチしたのが5月中旬頃。
そして今回の拉致騒動が6月上旬ころと言った設定になっております。
沙耶が目を覚ますと、義総の腕の中だった。曖昧な記憶をたどろうとするが、頭痛と眩暈がして思考が働かない。
「起きたか?」
髪や頬に優しく触れながら義総が声をかけてくる。
「す……すみません」
どうにか目を開けると、厳重なテーピングが目に付いた。ようやく昨夜の痴態を思い出し、沙耶は羞恥で赤面する。
怪我の程度は分からないが、痛むはずなのに助けに来てくれただけでなく、薬に酔った自分に付き合ってくれたのだ。元はと言えば、言いつけを守らなかった自分が悪いのに、本当に申し訳なかった。
「謝らなくていい。どうやら正気のようだな。気分は?」
「だ……大丈夫です」
体を起こそうとするが、やはり眩暈がひどくて頭も起こせない。
「無理するな」
義総は何かを取りにベッドから降りた。体が離れ、一抹の寂しさを感じていると、戻ってきた彼に優しく抱き起される。
「これを飲みなさい」
口元にグラスの冷たい感触を感じる。まだ目を開けていられず、傾けられたグラスの中身をゆっくりと飲み込む、それはさっぱりとした後味のミックスジュースだった。今までにも綾乃が作って飲ませてくれたことがあった。
「今日のは特別配合だそうだ」
何か薬でも入っているのだろうか? 意味深な言葉が気にかかったが、喉が乾いていたのでグラスの中身を全て飲み干した。
更に義総はクッションや枕を集めて沙耶の背中に宛がい、ふんわりと寄りかからせてくれる。心なしか体が楽になった木がして、沙耶はゆっくりと目を開けてみる。
「大丈夫か?」
バスローブを羽織った義総が顔を覗き込んでいる。ようやく彼の顔を見て、本当に助かったのだと実感がわいてくる。
「はい。ありがとう……ございます」
義総は頷くと、軽く額に口付けた。ようやくお礼がちゃんと言えた気がして少しだけ心が軽くなった。
本宅の義総の部屋を見慣れてしまったせいもあるのか、この部屋は本当に飾り気がない。家具もカーペットもカーテンですらモノトーンで統一された部屋は、シンプルなのだが悪く言えば殺風景に見えてしまう。そのカーテンの隙間から夕焼けに染まった空が見えた。随分と寝てしまっていたようだ。
「起きていられるか?」
義総の問いに沙耶はゆっくりと頷いた。彼は沙耶の隣に座り、彼女を抱き寄せて自分に体を預けさせる。確かにこの方が楽なのだが、怪我をしている義総に負担がかかるのではないかと心配になる。
「義総様のお体は大丈夫ですか?」
「心配してくれるのか?」
沙耶が頷けば頬に手を添えて唇を重ねる。
「優しいな、お前は」
結局義総の怪我の程度はそれでうやむやにされてしまい、昨夜の出来事に話題が移ってしまう。
「サラは麻薬中毒を利用して操られていたようだ。セランはショックを受けていたが、お前を保護したと伝えると安心したと言っていた。彼はしばらく入院が必要だが、回復は早いと医者は言っている」
義総は沙耶の頭を撫で、時折、額や頬に唇を落としながら話を続ける。沙耶もそれが心地良く、口を挟まずに彼の話に耳を傾ける。
「ガラムの身柄は米軍に預けた。軍事政権の内情をしゃべってくれれば、民衆の解放も早くなるかもしれない。
聞けば隠し財産もかなりの額を貯め込んでいるらしい。有効活用すれば虐げられた民衆も喜ぶだろう。もちろん、お前達への償いもしっかりしてもらう。
ガラムに協力していた佐々本も決定的な証拠を押さえて身柄を拘束されている。今、警察が奴の関係機関を一斉に捜査している。青柳を同行させているから、君のお母さんの行方が分かればすぐに連絡が入る」
「本当に?」
沙耶が義総を見上げると、彼は大きく頷いた。
「ああ、そうだ」
義総は何かを思い出したようにバスローブのポケットから何かを取り出して沙耶に握らせる。手を開いてみれば、あの場で落とし、彼等にとられたかもしれないお守りのメダルがあった。
「これ……見つけて下さったのですか?」
「……」
沙耶は信じられずに義総の顔を見るが、彼は少しバツが悪そうな表情を浮かべている。
「お前に謝らなければならない事がある」
「義総様?」
沙耶は不思議そうに義総を見上げる。
「先日、お前に渡した袋の中にはGPS付のダミーが入れてあった。あと、お前に着けさせていたこれにも……」
義総は沙耶の耳に触れ、着けていたピアスを外した。
「え?」
「万が一を考えての措置だった。何も教えなくて済まなかった」
「……」
攫われることも想定して自分にGPSがつけられていたのだ。それで昨夜は居場所が分かり、救いに来てもらえたのかもしれない。
「怒ったか?」
黙り込んでしまった沙耶に義総は神妙な面持ちで尋ねてくる。
「……いいえ。驚きましたけど、だからこそ助けていただけたのですね?」
「使わないで済めばその方が良かったのだが……」
黙っていればそれで気付かないままだったかもしれないのに、律儀に詫びを入れる義総が愛おしい。沙耶はペタリと義総に頬を寄せる。
「沙耶……」
許してもらえたのだと理解すると、義総は彼女の顎に手を添えてそっと唇を重ねた。
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ようやく騒動は終息へ
あえて話の中では明確に日付を入れませんでしたが、
物語の冒頭は4月下旬ころ。
義総と沙耶が初めてエッチしたのが5月中旬頃。
そして今回の拉致騒動が6月上旬ころと言った設定になっております。
応援ありがとうございます!
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