絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の片想い******

絶対、ムリ。3

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家に帰ったら両親共、すごく心配してくれていた。
痴漢の被害に遭ってお兄ちゃんが迎えに出た事を、綾香さんが伝えてくれていた。その綾香さん自体もすごく気遣ってくれた。また涙が溢れて、みんなを更に心配させてしまった。
ひとまず、お兄ちゃんが話をしてくれるということだったので綾香さんとお茶を飲む。落ち着く効果があるハーブティーを入れてくれたのが嬉しかった。
綾香さんが席を外した時に、坂本くんにメッセージを入れた。

『家に着きました。今日は助けてくれて、本当にありがとう』

かなり迷って、絞り出した言葉。伝えていなかったから……まずは『ありがとう』を伝えたい。それから、考えて、迷って、何度も打ち直して。

『今度からは、部屋まで送ってくれますか?』

そう続けて、怖気付く前に送信した。
わがままは、本当はたくさん浮かんで来た。自分の欲深さに辟易するくらいに。
 本当は一緒に歩きたい。いつだって手を繋ぎたい。カフェで恋人みたいにお茶したい。映画だって一緒に観たいし、どこでもいいから外で待ち合わせなんてしてみたい。
本当は……本当は。
誰の前でも名前で呼び合いたいし、朝まで一緒にいたい。ずっと拒絶しているキスだって。したいに決まってる。
でも、1番シンプルなわがままは。『これからも会いたい』ただそれだけ、だった。

「美夜ちゃん。お義母さんが呼んでるけど、大丈夫?」
綾香さんがそう言って入って来て、返事をしながら立ち上がった時、坂本くんから返信が届いた。

『ありがとう。また会ってくれるなら、なんだってする』

坂本くんも会う気があるようで、涙がにじむくらい安堵した。でも、続きを目で追って、胸が痛む。

『僕の中に、美夜ちゃん以上に大事なものなんてないから』

……うそつき。
そう思って、溢れた涙を、綾香さんに見られないように拭ってキッチンへと向かった。

お母さんは、被害のことにはあんまり触れなくて、坂本くんのことばかりをはしゃいで聞いてきた。
もちろん、気を使ってくれたのもあるのだと思うけれど。それだけじゃないのは、その隠しきれない紅潮した頬が教えてくれる。
「お礼のご挨拶に行かなくちゃよね?」
なんて。兄にだってあんなに恐縮していた坂本くんを思うと、とても許容できない。しかも……
「美夜の彼氏、ずっと見てみたかったの!しっかり助けてくれたなんて、ドラマみたい!」
 しばらく絶句して。あわてて否定を試みる。
「お母さん。あのね……」
「ちょっと落ち着いてよ。美夜か、俺の方から都合を聞いてみるから」
兄がすぐ後ろに立っていた。振り向いた先にいた兄は、ちょっと見上げるくらいの高さの男性で。ちょっとだけ驚いて、一瞬だけ……怖かった。

お兄ちゃんを怖いと思う日が来るなんて。坂本くんの事ばかり考えていたから、ちょっと忘れた気になっていた。
冷静になるには時間がかかりそう、なんて。十分落ち着いて思えたのは、坂本くんの方が余程ショックを受けていたからかもしれない。
お母さんがキッチンからリビングのお父さんの元へ向かって、兄と二人なる。
「お兄ちゃん。あの、ありがとう。お父さんたちに説明してくれて。でも、あの……」
「うん。彼氏だと思い込んでるよな。否定してないし、悪いけど、ちょっとそう聞こえるように話したから」
そんな……坂本くんに、これ以上迷惑かけられない。嘘でも、誤解でも、りこちゃん以外の彼女なんて。求めていないと思うもの。

『飲み会の後坂本くんに送ってもらい別れた。その後に部屋の前で男に絡まれた。腕を掴まれたり、体を少し触られたりしたけど、騒ぎに気づいて戻った坂本くんに助けられて、すぐに警察に通報。落ち着くのを待って取り調べ。抵抗した時に壁に頭をぶつけたから病院で検査をし、ショックが大きかったので少しそこで休んだ。両親だとあまりに心配をかけそうで、兄に連絡した』
それが、兄が両親にしてくれた説明だった。
「早朝に朝帰りして被害に遭ったって言ったら、坂本くんの印象も悪くなるだろ?」
「……っちがう!坂本くんは悪くない!」
私が、坂本くんと会いたいだけで。
私が、坂本くんを好きなだけで。私が。私が。
滲んだ涙で視界が歪んだ。なんとか堪えた滴は『わかってるよ』と言いたげに撫でられた頭の上の優しい手に、ついに頬を流れた。
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