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彼女の片想い******
絶対、ムリ。4
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熱い吐息に、発熱を知った。『熱がある』そう思った途端、怠さが襲う。
家族の貴重な土曜日の休息を、こんな形で慌ただしくして申し訳なく思いながらも、昼過ぎまでソファでうとうとしていた。
食欲がなく、軽く済ませた夕飯の席で、犯人の逮捕を知った。やっぱり隣のお兄さんで、何回か挨拶した時はそう悪い感じの人じゃなかったから……実感が湧かなかった。
怖さがなくなったわけじゃないけど、全てが映画のスクリーンの向こうの出来事のような気がしていた。現実感が湧かなかった。
それでも、それを聞いたらなんだか疲れてしまって、部屋で休むよう勧められた。
本当はみんながいるリビングのソファが心地よかったけれど『一人になりたくない』なんて心配かけるし、日中ソファに体を預け続けたせいか、倦怠感もあったので大人しく部屋に向かった。
馴染みのない『実家の自室』で落ち着きなく眠りについて、たぶん1時間くらい。
「……情けない」
そう呟いて、寝返りを打った。それだけでも辛い体に、弱い自分に、また落胆した。
体調を心配して様子を見にきてくれた綾香さんが、発熱に気づいて介抱してくれる。持ってきてくれたお水に、爽やかなレモンの風味を感じて、その細やかさになぜか泣きたくなった。
「ごめんなさい……ありがとう」
謝ると痛ましい顔をのぞかせたので、お礼も追って告げる。
「いいのよ。しばらく美夜ちゃんは踏ん反り返って甘えてれば」
なんて笑ってくれた。
「美夜、更に熱を上げるようで悪いけど。近いうちに坂本くんが家に来るから」
飄々とした兄が投下した爆弾に飛び起きた。くらりとめまいがして、お水を追加しにきてくれた綾香さんが兄をたしなめる。
あまり見たことがなかったが、兄夫婦のイニシアチブは綾香さんが取っているらしい。
「……お父さんに、呼び出されたの?」
「違う、違う。父さんも好意的だよ。父さんも母さんも、お礼の挨拶に行くって張り切ってたから。坂本くんにアポを取ったんだよ。向こうもお詫びに来ようとしてたって言うから家に招待したんだ」
お詫びだなんて。坂本くんは迷惑しかかけられていないのに。
兄が綾香さんを見て、彼女がそっと出て行った。夫婦にしかわからない合図で、退席を促したようだ。
「父さんと母さんは、坂本くんを彼氏だと思ってるから、お詫びじゃなく挨拶って感じにしてもらうから」
『そのつもりで振る舞えよ?』なんて、簡単に言われても困る。
「さっきの電話で明日の予定にしたけど、美夜の体調が整い次第に変更だな」
「……後で、断る」
約束を取り付けてくれた兄は申し訳ないけど、坂本くんに迷惑をかけたくない。もし本当に付き合っていたって、申し訳ないくらいなのに。
「来てもらった方が、坂本くんも気が楽だと思うぞ」
「坂本くんが、気に病むこと自体が嫌なの!」
強くなってしまった語気に、しまったと思ったけど、言った言葉は戻らない。
「坂本くん……好きな子が居るの。彼女でもない私が、煩わせたく……ない」
声が震えてくる。わかってることなのに、それに傷ついてる自分が、とても傲慢に感じる。なによりも。
「それに……面倒になって……もう、会わない、って……」
『言われたら、どうしよう?』しゃくり上げてしまって、兄に伝わったかわからない。
沈黙の後、兄の重いため息が聞こえて、責められている気がして顔を上げられなかった。
「……ちょっとしか会ってないけど。坂本くんは、責任感が強いだろ?自分で美夜の様子を見たいと思うぞ」
枕元のおしぼりを渡される。涙を拭うと、綾香さんが用意してくれたそれはラベンダーの香りが移してあった。
「最初から断るんじゃなくて、本人に確認した方がいいな。頭ごなしに断らない方がいい」
また、頭に手が乗って、ぐしゃぐしゃに撫ぜられた。ボサボサの髪の毛が、さらに乱れる。最近では、こんな風に頭を撫でられることはなくなったので、兄なりに甘やかしてくれている。
「知っといた方がいい。男は、女に頼られると嬉しいし、意外と傷つきやすいんだよ」
そう言って、坂本くんには延期の連絡を明日入れるからと出て行った。
ラベンダーの香りのおしぼりで目を冷やしながら、どんどん吸い込まれて行く涙を感じていた。
八つ当たりだってわかってるけど、兄の言葉に反発してしまう。
私だって。ちょっとくらいのわがままに怯えない関係になりたい。迷惑をかけても、軽く謝ったら許してくれるって信じられる関係に。
お兄ちゃんはわかってない。
そんなの、りこちゃんじゃない私には、許されないんだって。
家族の貴重な土曜日の休息を、こんな形で慌ただしくして申し訳なく思いながらも、昼過ぎまでソファでうとうとしていた。
食欲がなく、軽く済ませた夕飯の席で、犯人の逮捕を知った。やっぱり隣のお兄さんで、何回か挨拶した時はそう悪い感じの人じゃなかったから……実感が湧かなかった。
怖さがなくなったわけじゃないけど、全てが映画のスクリーンの向こうの出来事のような気がしていた。現実感が湧かなかった。
それでも、それを聞いたらなんだか疲れてしまって、部屋で休むよう勧められた。
本当はみんながいるリビングのソファが心地よかったけれど『一人になりたくない』なんて心配かけるし、日中ソファに体を預け続けたせいか、倦怠感もあったので大人しく部屋に向かった。
馴染みのない『実家の自室』で落ち着きなく眠りについて、たぶん1時間くらい。
「……情けない」
そう呟いて、寝返りを打った。それだけでも辛い体に、弱い自分に、また落胆した。
体調を心配して様子を見にきてくれた綾香さんが、発熱に気づいて介抱してくれる。持ってきてくれたお水に、爽やかなレモンの風味を感じて、その細やかさになぜか泣きたくなった。
「ごめんなさい……ありがとう」
謝ると痛ましい顔をのぞかせたので、お礼も追って告げる。
「いいのよ。しばらく美夜ちゃんは踏ん反り返って甘えてれば」
なんて笑ってくれた。
「美夜、更に熱を上げるようで悪いけど。近いうちに坂本くんが家に来るから」
飄々とした兄が投下した爆弾に飛び起きた。くらりとめまいがして、お水を追加しにきてくれた綾香さんが兄をたしなめる。
あまり見たことがなかったが、兄夫婦のイニシアチブは綾香さんが取っているらしい。
「……お父さんに、呼び出されたの?」
「違う、違う。父さんも好意的だよ。父さんも母さんも、お礼の挨拶に行くって張り切ってたから。坂本くんにアポを取ったんだよ。向こうもお詫びに来ようとしてたって言うから家に招待したんだ」
お詫びだなんて。坂本くんは迷惑しかかけられていないのに。
兄が綾香さんを見て、彼女がそっと出て行った。夫婦にしかわからない合図で、退席を促したようだ。
「父さんと母さんは、坂本くんを彼氏だと思ってるから、お詫びじゃなく挨拶って感じにしてもらうから」
『そのつもりで振る舞えよ?』なんて、簡単に言われても困る。
「さっきの電話で明日の予定にしたけど、美夜の体調が整い次第に変更だな」
「……後で、断る」
約束を取り付けてくれた兄は申し訳ないけど、坂本くんに迷惑をかけたくない。もし本当に付き合っていたって、申し訳ないくらいなのに。
「来てもらった方が、坂本くんも気が楽だと思うぞ」
「坂本くんが、気に病むこと自体が嫌なの!」
強くなってしまった語気に、しまったと思ったけど、言った言葉は戻らない。
「坂本くん……好きな子が居るの。彼女でもない私が、煩わせたく……ない」
声が震えてくる。わかってることなのに、それに傷ついてる自分が、とても傲慢に感じる。なによりも。
「それに……面倒になって……もう、会わない、って……」
『言われたら、どうしよう?』しゃくり上げてしまって、兄に伝わったかわからない。
沈黙の後、兄の重いため息が聞こえて、責められている気がして顔を上げられなかった。
「……ちょっとしか会ってないけど。坂本くんは、責任感が強いだろ?自分で美夜の様子を見たいと思うぞ」
枕元のおしぼりを渡される。涙を拭うと、綾香さんが用意してくれたそれはラベンダーの香りが移してあった。
「最初から断るんじゃなくて、本人に確認した方がいいな。頭ごなしに断らない方がいい」
また、頭に手が乗って、ぐしゃぐしゃに撫ぜられた。ボサボサの髪の毛が、さらに乱れる。最近では、こんな風に頭を撫でられることはなくなったので、兄なりに甘やかしてくれている。
「知っといた方がいい。男は、女に頼られると嬉しいし、意外と傷つきやすいんだよ」
そう言って、坂本くんには延期の連絡を明日入れるからと出て行った。
ラベンダーの香りのおしぼりで目を冷やしながら、どんどん吸い込まれて行く涙を感じていた。
八つ当たりだってわかってるけど、兄の言葉に反発してしまう。
私だって。ちょっとくらいのわがままに怯えない関係になりたい。迷惑をかけても、軽く謝ったら許してくれるって信じられる関係に。
お兄ちゃんはわかってない。
そんなの、りこちゃんじゃない私には、許されないんだって。
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