絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

文字の大きさ
8 / 113
彼女の片想い*

絶対、ダメ。6

しおりを挟む
本屋さんを冷やかして、恋愛小説を1冊購入した。
薄桃色の文庫本。坂本くんを待つ日は、そんな色味の表紙ばかりに目を奪われるから、自分でも滑稽だ。
浮ついてはいけない。勘違いしてはいけない。でも……会えるのがうれしい。

カバーをかけてもらって、本屋さんをでた。
いつものカフェで注文品を受け取って、ソファ席に陣取る。丸い小さなテーブルを挟んで向かいは椅子になっている。
そこで、待ちかねた坂本くんからの連絡が入った。いつもより早いそれに、ちょっと嫌な予感が走った。

『今日は遅くなるかもしれない』

嫌な予感って、どうして外れないんだろう。
『それでも待ってます』って返したら……どう思われるかなんて考えて指がさまよっていたら、追ってメッセージが届いた。

『でも、会いたい。待ってて欲しいな』

一気に頬にも耳にも熱が集まった。今日は会えないなんて、言われなかったことに安堵した。
でもそれよりも、会いたいの一言に、待っててのおねだりに、胸が騒いで仕方ない。脈打つ指先が作り出した言葉が、変じゃないかを何回も確認してしまう。

『近くのカフェで待ってるから大丈夫』

何が大丈夫なのかよくわからないけど。私も会いたいなんて、とても言えないけど。
何回も確認してる途中に、坂本くんの気が変わったらどうしようと思って……句読点を打ったり消したりしてみたけど、結局そのまま送信した。

『危ないからカフェからでないで。終わったら連絡するね』

坂本くんは、心配性だ。決して自分のものにはならないから、たまにイライラしちゃうくらいに心配性なのだ。
りこちゃんの心配だけしてればいいじゃん、とか。
りこちゃんみたいにかわいくないから大丈夫なのに、とか。
最初は思ってたけど、最近は理解している。だって、私はりこちゃんの代わりだから……りこちゃんを心配するのと同じくらい気にかけてくれるのだ。

大人しく、ソファに座りなおして本を開く。時々ソイラテを口に運んで、ヘーゼルナッツのフレーバーを感じながらもページをめくっていく。
合間に友人からの連絡に返信したり、手帳をみたりしているうちに意外と時間は進んでいった。

『もう直ぐ着きます』

そう連絡がきたのは、恋愛小説がクライマックスに差し掛かる少し前。物語はハッピーエンドの予感なので清々しい。
すっかり長居して体に馴染んだソファから立ち上がるべく、バッグに本や手帳をしまおうと動き出した。片付けに気を取られていたら、ふと向かいの椅子にしらない男性が腰かけた。

「ここ、いいですか?」
びっくりして固まってしまった。
ナンパにしても、声をかけてから座らない?
「……よくないです」
絞り出した声を、気に留めた風でもなく男性は話しかけてきた。
「待ち合わせかと思ったけど、ずっと一人だから勇気を出して声をかけたんですよ」
男性のシルエットと、椅子を引く大きな手に、一瞬でも坂本くんかと思ってしまった自分が情けない。やっぱり抑えていても浮かれているのだ。
向かいの人を窺うように見た。ちょっと意外だったのは、ナンパなんてしなくてもいいくらいにオシャレな人だったこと。
「……もう出るところです」
「少しだけ時間もらえませんか?」
急ぎますから、とそう答えようとしたけど、それより早く別の人が返事を返した。
「1秒たりともあげられません」
いつもより、サークルのみんなといる時より、ずっとずっと低い坂本くんのそんな声は、初めて聞いた気がした。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

処理中です...