絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い**

キスしたい。5

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「いやいや、たまには終わるまでいろよ。だからりこちゃんと進展しないんだぞ」
……おかしい。軽いけど、頭も察しも悪くないはずなのに、なんでこの話題だけは有志に伝わらないんだろう。
懇々と言って聞かせたい気持ちはあるが、今はその時間がもったいない。
ましてや、相手は酔っ払いな訳だし。
「とにかく、これ僕の分。うまく言っといて」
『照れ隠しは損だぞ』とか『素直になれよ』とか、何やら続ける有志を放っておいて、トイレに立つフリをして店を出た。
出来上がってる奴らばかりだったから、トイレじゃない方にそっと向かっても見咎められることはなかった。
視線を走らせると、横山先輩とだけ目があったので会釈する。
それだけでわかったらしく、山田先輩の気を引いて、彼女に見えないように手を払う仕草をみせた。
『早く行け』のサインに感謝しながらそのまま店を出る。
女の子には優しいけど、野郎どもをなかなか許さない山田先輩に、二次会終了まで居るように絡まれたのだ。
山田先輩の手綱をひけるのは横山先輩だけだから大丈夫だろう。
夜の街を、はやる気持ちを抑えて駅へと急いだ。

自分の部屋の最寄り駅を出ながら、美夜ちゃんに連絡を取る。
あまり早いと美夜ちゃんがカフェを出てしまうので、ギリギリに送信した。
一人でアパートまで向かわせるのは危ないから、一緒に帰りたい。
でも、人目を異様に気にする美夜ちゃんは、きっと連れだって歩きたがらない。
駅近くのカフェなら、多分2ヶ所のうちのどちらかだろうから、美夜ちゃんが逃げ遅れるように直接向かう方がいい。
まだドリンクやフードを口にしていたら尚のこと好都合だ。
カフェで向かい合って、めったに……いや、一度だってできていないデート気分を味わえないだろうかと目論んでいた。

運良く最初のカフェのガラス窓から、奥に座る美夜ちゃんが見えた。
僕からのメッセージを見て、帰り支度をしているようだ。
店内に入って『のどが渇いた』なんて言って、そこに押し留めなければ。
そう思って自動ドアを抜けると、知らない男性が美夜ちゃんの向かいに腰を下ろした。
そう、今から僕が座ろうとしていたその席に。
彼女の知り合い?いや、まさか。
美夜ちゃんの想い人かもと焦りながら足早に近づくけれど、彼女の怪訝な様子から違うとわかった。

「……もう出るところです」
美夜ちゃんの固い声で、迷惑なナンパ行為だと知る。
そんな輩が、その席に座るなんて許せなかった。
「少しだけ時間もらえませんか?」
尚も迫るその男に、美夜ちゃんが断る前に返事を返す。
「1秒たりともあげられません」
焦って息が乱れなかった事に、心の奥でホッとした。
「あ、残念。彼氏来ちゃった」
なんてのんびりこちらを見上げてくる。
……彼氏。
ちゃんとそう見えることがちょっとだけ誇らしくて、でも、顔だけは怒りが和らがないよう注意した。
そんなのは取り越し苦労で、図々しくも『もっと早く声かければよかったかな』なんて呟いているその男に怒りは自然と増した。
口調の割に落ち着いた雰囲気で、着ている物も洗練されているのが更に腹立たしい。
歳は20代後半か、30に差し掛かる頃かもしれない。
美夜ちゃんが年上好みだったらと、気がいる。
『正攻法で』なんて言って、一枚の名刺を、ムカつくことに僕を無視して美夜ちゃんに差し出した。
もちろん、美夜ちゃんが受け取る前に奪い取ってやった。
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