絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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閑話*

りこちゃんはやさぐれる。1

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自分にそっくりな女の子の事を、その存在だけは知っていた。
顔が似ているわけじゃなくて、背格好や姿勢が似ているらしく、後ろからだと間違われることが多かった。
校内では彼女の友達からよく肩をつつかれたりしたし、駅や通りではたまに知らない人から声をかけられた。
その知らない人の中には、彼女さえ知らない人もいたようだった。
つまり、告白とか、そこまでではなくても、連絡先を渡そうと言う肝心な時に間違えるような人。
まさに、それが坂本くんだった。

顔を赤らめて、連絡先なんかを書いてるだろう手紙を握りしめた男子高校生は、私が声を発したとたん目を見開いた。
普段、彼女と間違えた人は、振り向いたらすぐに気づくのに。
あわてふためいて、必死で謝って来た。
変なの。後ろ姿と声しか知らずに、彼女に恋したとでも言うのかな?と不思議に思ったけどさほど気にも留めなかった。

再会したのは大学で。印象深かったから、すぐ気づいて声をかけた。
「私と間違えた彼女と、進展あった?」
そう言うと、面白いくらい暗い顔をして首を横に振った。
「電車の時間が変わったのか、あれから1度も会えないままなんだ」
しょんぼりした様子が、小学生の時に飼ってた犬にそっくりで。つい絆されてしまった。
「彼女……高園美夜ちゃん。この大学だよ」
しばしの沈黙の後、間抜けな顔で荷物を全部落とした彼を、ちょっとだけなら応援してあげようと思った。
実はその数日前に美夜ちゃんに声をかけていて、彼女のことを大好きになったから、美夜ちゃんが嫌がるならこの人だって近づけたりしない。
ちゃんと見極めて、美夜ちゃんが嫌じゃないなら応援してあげよう。
どうやら本気のようだしね。

それからは、美夜ちゃんが興味引かれたらしいサークルに坂本くんも引き入れた。
ちょっと驚いたのは、坂本くんを初めて見た時の美夜ちゃんの反応。
目を見開いて……手に持っていたものを全部落とした。
坂本くんとおそろいじゃない。
あわてて落としたものを拾う美夜ちゃんを手伝ってる時に、美夜ちゃんも坂本くんのことを知ってたんだと思った。
まさか、その時すでに美夜ちゃんが坂本くんを好きだったなんて思ってなかったけど。
でも、応援なんかしなくても、すぐにまとまるんじゃないかと安心していたけど……思わぬお邪魔虫がいた。

五十嵐有志くん。
坂本くんの高校の頃からのお友達。サークルにもくっついて入ってきた。
軽薄と紙一重の明るさでムードメーカーって感じ。
でも、他人の機微にも聡くて、落ち込んでる人をさりげなくフォローしてたりする。
周りをよく見ているはずなのに……ただ一点だけ難ありなのだ。
病的に鈍感なところがある。
そう、坂本くんの好きな人を、私だと思い込んでるところ。
最初の頃は大変だった。
五十嵐くんだけでも厄介なのに、五十嵐くんが勝手に公言するものだからサークル中がその空気だったのだ。
美夜ちゃんの辛そうな笑顔を目にして、彼女も坂本くんに恋してるんだと知った。
そんな美夜ちゃんを見るたびに、何度も五十嵐くんに噛み付いてやろうかと思った。
幸い、坂本くんが美夜ちゃんを好きなことを隠そうとはしていないので、サークル内の空気は割とすぐ鎮静した。

え。でも……何、あの執着。美夜ちゃん逃げて。

男の子の誰かが『美夜ちゃん』と呼べば、不動の笑顔で『高園さんね』と強要し、展覧会に誘えば『せっかくだからサークルのみんなで行こう』と阻害する。
そのくせ自分だけはしっかり『美夜ちゃん』と呼んでいるのだ。
美術展や映画は、坂本くん自身も断られているみたいでちょっとだけ……ザマミロだ。
だけど、デートらしきこともしていないようなのに、進展はあるようで。
美夜ちゃんのうなじに、執着と束縛の跡がつくようになったのだ。
相手はすぐにわかった。
美夜ちゃんが好きな人以外にそんなことをされて、平気で過ごせるはずがない。
つまり、坂本くんと結ばれたと言うことだけど。

見るからに上機嫌な坂本くんが、これ見よがしに交際を宣言することはなかった。
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