絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い****

となりにいさせて。6

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ゆっくり来た道を戻る。いつも通り自動販売機の辺りで無事に部屋に入ったとのメッセージを受信したので、こちらもすぐに返事を返した。
無事を安堵する文字は、毎回決まりごとのように紡ぐので、ニ文字ほど打ったら予測変換が出てくる。
もう一言、美夜ちゃんからのメッセージを受け取るのが常なので、歩きながら右手が振動を受けるのを待った。

『これからは、最初のシャワーは譲れません』

シャワーの時間を取らずに性急に求めてしまったことが、相当お気に召さなかったのだとしても……これからを示唆した内容。
顔が緩むのをこらえきれない。
すごい勢いで頭を働かせて、美夜ちゃんが眠りに落ちる前にと指を動かした。
できれば、僕の夢を見てくれますようにと祈りながら。

『美夜の匂い好きだから残念だけど……極力仰せのままに。おやすみ』

安心して、速度を上げる。これ以上美夜ちゃんからの連絡を受け取ることもない薄い塊を、無造作に上着のポケットにしまった。
しばらく歩くと、またメッセージの受信音と振動が僕の足を止めさせた。
このタイミング。時間は深夜より寝静まった早朝。
いつもは一往復のやりとりだから、そんなはずはないと思いつつ……この時間に連絡してくる他の輩は思い浮かばなくて、期待を込めてあわててポケットを探った。

『おはようの時間だけど、おやすみなさい。拓眞くん』

僕が美夜と呼び捨てたのに合わせて、下の名前を書いてくれただけだ。
こんな時間まで拘束してしまったこと、手加減しなかったことへ、意趣返ししないと気がすまなかっただけだ。
わかってはいても……それは、部屋に入ったという報告と、その日の一言の感想や気づき、それ以上の、初めてのやりとりだった。
そして、彼女からの、初めての『おやすみ』だ。
感動すらしてしまう。
さらには、文字で見る『拓眞くん』が、これから2人の時にそう呼んでくれる証みたいに思えて、そのまましばらく動けなかった。
どうやって家に帰ったかあんまり覚えてなくて……きっと、真っ赤な顔でにやけていて、気持ち悪くて仕方なかったに決まってるんだけど。
家に着いてからも眠れそうになかった。

水でも飲もうとキッチンに立つと、飲み損ねていたテイクアウトのコーヒーが目に映った。
意識しすぎて飲み口に唇を押し当てられなくて、プラスチックの白いフタを開けてちょっとびっくりする。
白濁してる。甘い香りがする。ナッツ系のシロップ?とにかく甘い飲み物。
本人がいないところで間接キスなんて、年甲斐も、男らしさもないことはさすがに回避して、味を確かめた。
案の定、甘みが広がる。
甘味は嫌いじゃないけど、コーヒーはブラックを好むと思い込んでいた。
数年で、好みが変わるなんてあることだし、自分がこだわり過ぎていたのだ。
高校生の、美夜ちゃんを知っているという優越感が、頑なにその可能性を認めきれなかっただけだ。

顔の熱がようやくひいて……あの日を思い出す。よく見えていないのに、よく覚えてる。
喧騒の具合から、コインの触れ合う音まで蘇る気がした。

ガコンッと重い音がして、ドリンクが落ちてきた。取ろうとして、取り出し口に軽く指をぶつけた。
コンタクトをしてないせいで、距離感がイマイチ掴めないのだ。
体育の時間に片方落としたレンズは、結局見つからず、どうにも気持ち悪くてもう片方も外してしまった。
「…っ、熱っ!?……あー、間違えた…」
触って、その熱に驚いた。自販機によくよく顔を近づけてみれば赤い表示なのだけど、まだ2,3しか導入されていない『あったかい』を裸眼だと見過ごしてしまった。
びっくりして一瞬引いた手で、改めて缶を掴み上げた。まだホットを求める人は限られているんだろう。いつになく熱い。
あちち……と持て余していると、駅の喧騒の中、透明な心地いい声が耳を打った。
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