前々前世オンライン 〜前世スピノサウルスだった私、ラスボス扱いされてて泣きたいけど鳴くしかできないから代わりに全プレイヤーを泣かしてやる

虎戸リア

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【VerΑ編第3章〜大竜星祭】

40話「涙の理由は」

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 ユーナちゃんが頭を下げた。同時にポニーテールが動き、テーブルに当たった。

「あーいや全然大丈夫!」
「あの時は、その場しのぎに言ったけど、ラノアちゃんはもう【群体レギオン】作ったにゃん?」

 ユーナちゃんがそう言ったタイミングでドアが開き、先ほどの人がお盆にカクテルグラスを二つ乗せて入ってきた。

「どうぞ……ほーりーえんじぇるユーナ様には【ボンド・マティーニ】、お連れ様には【コスモポリタン】をご用意しました」
「……もっと可愛いのが良かったけど……これでいいにゃん」
「は、申し訳ございません」
「良いニャン。ありがとにゃん」

 タキシードさんが私の前に赤い液体の入ったカクテルグラスを置いた。
 ユーナちゃんの前には無色透明な液体が入った、シュッと細長のカクテルグラスとサイドにオリーブが付いていた。

「じゃあ、ラノアちゃん乾杯」

 そう言ってユーナちゃんがグラスを掲げたので、私も真似る。これ、グラス同士をぶつけるのはダメなんだったっけ?

 ユーナちゃんがグラスの半分ぐらいまでを一気に煽った。

「VR内では酔えないけど、悪くない……にゃん」
「あはは……ああそういえば【群体】だけど、まだ名前が決まんなくてね」
「今メンバーは何人にゃん?」

 私は、そこで当たり障りなさそうな程度にミリーと蔵人さんの事を話した。

「蔵人?……なるほどにゃん。Verβの上位ランカー揃い踏みにゃん。激アツにゃん」
「え!? なんで分かったの!?」

 二人が元ランカーって事は話してないのに!

「ミリーちゃんについては、本人が言ってたし有名にゃん。蔵人ちゃんについては……まあ元ネタで分かるにゃん」
「元ネタ?」
「古い古いゲームにゃん。まあそれはともかく、なるほどにゃん……個性が強すぎる三人だ」

 ユーナちゃんが目を閉じ、腕を組みながら何かを考えていた。

「3……獣……上位ランカー……まるでトップスリーを守るような……」
「ええっとユーナちゃん?」
「……ケルベロス……いや、【サーベラス】、これだな」

 ユーナちゃんがそう言って目を開いた。その顔には満足げな笑顔が浮かんでいる。

「え?」
Cerberusケルベロス……英語読みでサーベラス。三つ首の竜の尻尾と蛇のたてがみを持つ、神話上の獣だよ。冥界の番犬とも言う」
「三つ首の番犬……竜の尻尾にたてがみ?」

 なんだか聞いた事があるようなないような名前だけど、サーベラスという響きは好きだ。

「まるで……?……にゃん」

 なんかユーナちゃんのキャラが変わってる?

 でも確かにそうだ! 竜の尻尾にたてがみ……つまりヒレだ!

「ケルベロスは番犬だ。上位3席を守った君たちにはぴったりだにゃん」
「【サーベラス】……3ってキーワードが含まれているけど直接的でもないし、獣要素もあってミリーのサーベルタイガー感もあってスピちゃんっぽくて……何より響きがかっこいい! ありがとう! みんなに提案してみる!」
「お礼になったかな?」
「うん! ありがとうユーナちゃん!」

 私が嬉しくなって、テーブルに乗り出して、ユーナちゃんの手を掴んでブンブンと振った。
 びっくりしたように目を丸くしたユーナちゃん。やっと年相応の顔になった。

 それから、私はユーナちゃんとカクテルを飲みながら他愛もないゲーム話をして、店を出た。

「今日はありがとうユーナちゃん! フレンド登録も出来たしまた話そ!」
「うん。あはは……私……じゃなかったユーナ、フレンド初めて出来た」
「ほんと!? じゃあ今度一緒にクエスト受けようよ! 私こう見えて結構強いよ!」
「ありがとう……本当にありがとう。私には十分過ぎる。今日は貰いすぎた。お礼はまたいずれ……にゃん」

 なぜだか、ユーナちゃんが泣きそうになりながら頭を下げ続けた。
 私は慌ててそれを止めるも、彼女は泣き笑いの表情を浮かべて、そのままログアウトしていった。
 
 消える間際、彼女がやっぱり少し泣いているのが私には分かった。

 なんだか、胸がギュッと締め付けられるような気持ちになる。

 「……ユーナちゃん、【群体】に誘ったらみんな怒るかな?」

 分かんないけど……多分きっとみんな賛成すると、勝手に思う私だった。 
 
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