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盛夏の頃

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 何気なくつけていたテレビから、七夕祭りの情報が流れてくるのが聞こえた。
 視線を、読み込んでいた台本からテレビの方へ移す。
 華やかな化粧と衣装を着たリポーターが、七夕飾りで彩られた商店街から中継しているようだ。当日までまだ期間があるが、飾りを一目見ようと既に多くの人が行き交っているのが見える。当日になれば、通りは人で埋め尽くされるんだろうなというのが察せられた。
〝ご覧ください。会場には沢山の人間(ひと)や妖が集まり、思い思いの着こなしをして〟
 リポーターが道行く人たちを背景に言葉を並べていく。
 人間から妖まで集まるそのお祭りは、まだ当日ではないので浴衣姿は少ない。けれど全くいないわけではなく、夏らしい柄がちらほらと目に入る。髪には綺麗な飾りがつけられ、角にもリボンを巻いたり、浴衣に合わせた色で染められたりと、祭りならではのお洒落を楽しんでいるようだ。
 レポーターの言葉を聞きながら、自分の頭にある角に触れる。
 どういうわけか、俺は鬼であるにも関わらず、他の鬼よりも角が細くて小さい。他の鬼たちがやっている角を使ったお洒落ができない大きさだ。
 何でだろうかと首を捻っていると、お風呂に入っていた大人がリビングに戻ってくる。
 湿ったままの髪は墨のような色をしている。癖っ毛なのか、乾いている時は目立たないうねりが、水に濡れた今ではゆるゆると目立っていた。その髪の隙間から、鬼の角は見えない。

「ねえ、パパ」

「なんだ?」

「どうしてパパには角が無いの?」

 パパも鬼だ。鬼だから角があるはずなのに、角が見えない。
 ずっと前から不思議に思っていたのだ。
 パパは「そんな事か」と息を吐いてから口を開いた。

「人に化けてるから見えてないだけだよ」

「え?」

 鬼って変化出来るの?
 謎を減らしたつもりなのに、振り出しに戻ってしまった。
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