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盛夏の頃
滴る
しおりを挟む風呂から出ると、先に入っていたはずの子どもの頭はまだ濡れていた。ぴちゃぴちゃと、毛先から水が滴っている。
風邪を引くと仕事にも学校にも支障が出るから、頭を洗った時はさっさと乾かせと言っているのだが、なかなか身につかない困った子どもだ。
そんな子どもは、地方局の情報番組を見ていた。画面を見れば、華やかな七夕まつりの様子が映っている。
「祭りに行きたい」とか言い出さないだろうなと、冷や冷やしながらソファーに座ると、子どもの視線がこちらに向いていることに気づいた。
「なんだ」
「どうしてパパには角が無いの?」
子どもからの問いに一瞬首を捻ったが、直ぐに見当がつく。
彼の濡れた頭にあるのは、細くて小さな角。鬼の子どもなら、誰にでもある角。鬼の俺にももちろん角はあるが、髪型をセットする時に邪魔で、現役の頃から人間に化けて角の存在を消している。
この子にはまだその事を話してなかったと思い至って、真実を告げると、丸かった目をさらに丸くされた。
「驚くような事を言ったか?」
「そもそも、鬼って変化できるの?」
そこからかと、口に苦味が広がった。
本来なら、成長するにつれて自分の身体の特徴を学んでいくのだ。
この子の親……特に母親の方は、この子に教える機会を与えなかったんだなと、少し苛つきを覚えた。
「出来る奴は出来るし、出来ない奴は出来ない」
「俺は? 俺はできる?」
子どもは、目をキラキラと輝かせる。
子どもの性格、子どもの手先の器用さ、そして子どもの血筋を考えて出した答えはひとつだ。
「無理だな」
「なんでえーーーー⁉」
「なんでって……」
「お前、とても不器用だから怖くてやらせられない」とは言えない。
機嫌を直せと、不服そうな表情を見せる子どもの頭に手を置く。
指に触れた子どもの角は、細くて小さいままだ。
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