拗らせ王子は悪役令嬢を溺愛する。

平山美久

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シェニー視点

王宮内のある部屋

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彼専用の馬車に乗ってからの
アインス様は一言も喋らず、窓から見える夕日をじっと見つめるだけで
こちらを一切見ようとはしない。
どことなく機嫌が良くないように見える。

チラチラと彼を見つめるが
一向に目が合うことはなかった。

少しおどおどしながら私は彼に聞いた。

「あの、監禁っていうのは、」

彼の耳がピクッと動いた。

「シェニーのくせに俺以外の男と話してたからね。お仕置きだよ。」

彼はむすっとした顔で夕日を眺めながら言った。

アインス様以外の男というのは
もしかしてマーケル様のこと?
先ほどお話ししているのを見たのかしら。
それで怒っているというの?

「それって、」

ヤキモチ?

急に顔に熱を帯びはじめそうになり、
私は首を横に振った。
アインス様に限ってあり得るわけがない。
あったとしても私に対してヤキモチなどあり得ない。


彼は私のこと好きじゃないもの。


胸がチクリと痛くなる。

「だいたい社交界でも公の場でも誰にも見せないようにしてたのに。なんでよりにもよってノイッシュー家なんだよ。」

おし黙る私に訝しげにちらっと横目で一瞬見てからまた外を眺めながら彼は聞き取りにくい声でボソッとつぶやいた。

「アインス様?」

聞き取れなくて聞き返すが彼からそれ以降何も発することはなく、それ以上聞いても無駄だと思い、ただ流れる景色を眺めていた。
近くして彼の住む王宮へと連れていかれたのだった。

「アインス様、シェニー様、お帰りなさいませ。」

彼専用の従事たちが出迎えてくれる。

従事の方に支えられて馬車から降りると
振り返った彼に手をとられ
王宮内のある部屋の前へと連れていかれた。

大きな扉の前に立たされて
彼がこの扉を開けるよう私に視線を落とす。

彼に従うように恐る恐るその部屋の扉を開けると、
その部屋はとても広く中央に真っ白な天蓋のついた大きなベッドがあった。
そして花柄の壁。
小さなテーブル、ソファ、鏡台もすべて女性向けのものだった。

この部屋は何?
それにどことなく私の部屋に似ている気もする。

「今日からシェニーは2日間ここで監禁。」


ソファに座る彼は従事のものに紅茶をお願いと頼んで躊躇うでもなくさらっと言う。
私も同じように後を追い、ソファに座って目の前の彼に問う。

「監禁ってどうして。」

「明日から2日間、三年の先輩たちの演説会があるだろ。そのあとは俺たち後輩と交流会が開催される。」

「え、ええ。それはもちろん知っているわ。」

前々から教師に聞かされていたためその事は知っている。
でもそれがなんだというの?

「シェニーはそんなの出なくていいからね。明日から2日間罰としてその演説会は出たらダメだよ。」


仮に国王を支える時期王妃が学園の行事に出ないものはどうなのだろうか。
たかが学園の行事でも
立場上休むのは周りにどんな影響を与えるか計り知れない。

「でも、仮にも私は今はまだ時期王妃。休むのはいかがなものでしょうか。」

"今はまだ。"

彼が今私をそばに置いてくれていても
物語と同じように婚約破棄されれば
私は彼のそばを離れるしかない。
今はまだ時期王妃だとしても未来は違うかもしれない。
それに彼はサラさんのことを。

自分で言って自分で傷つくあたり
どうしようもない。


「なに?今も昔もこれからもシェニーは時期王妃だよ。それにシェニーがいなくても上手くやるからお前はここから一歩も出るなよ。」

従事の方が持ってきてくれた暖かい紅茶にそっと口付けてから

「だいたい俺が誰にも近寄らせないようにしてたのにあいつ。あっさりシェニーに近づきやがって。」

またボソボソというので聞こえなかった。

でも彼はこれからもと言ってくれた。
自分の耳を疑ってしまう。
その言葉は信じてもいいの?

今日のアインス様はどこか変だわ。
強引なのにどこか優しく感じてしまう。

クスりと微笑んで私は素直に
監禁のことを了承した。

時期王妃がこんなことではダメだと
頭ではわかっているけれど。


私が少し微笑むとアインス様は慌てたようにすぐに視線を外してティーカップをテーブルに置くとスッと立ち上がる。

「とりあえず、アンシュタイン公には俺から伝えておくからシェニーは夕食の時間になるまでこの部屋でゆっくりしてな。監禁と言っても王宮内は出入り自由だからな。」

そういうと彼の大きな手で私の頭をわしゃわしゃとした後ニッと笑って部屋を出て行った。


一瞬、驚いてしまった。
そして脳裏には遠い昔の記憶を思い出す。
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