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あの思い出~ルカside~

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俺は今、人生初の馬車に乗っている。


そしてこの馬車は王都に向かっている。


何故かって?それは…


「ルー兄さん、お腹は空いてない?初めての馬車で気分は悪くない?何かあったら言ってね?」


隣でニコニコしながら異常に近い距離で話しかけてくるこの超美形な弟のせいだ。




数時間前、


突然父さんが畑に俺を呼びに来るから何事かと思ったら、めちゃくちゃ綺麗な長身の男が村外れに豪華な馬車とセットで立っていた。

父親に急かされるまま男の側まで行くと、俺に気付いた男はこれでもかっていうくらい満面の笑みを浮かべた。

あれ……?この笑顔どこかで……

「ただいま、ルー兄さん。」

超美形な男の正体は10年前に魔術師になる為に王都にドナドナされた弟の『フロウ』だった。


確かに昔からロウは綺麗な顔をしていたがここまで美形に育ってしまうとは……。



ロウは産まれてすぐくらいの時に父さんがどっかから連れてきた子で、血は繋がらないが実の兄弟のように育った。


毎日仲良く暮らしていたが、ロウが8才になってすぐの頃ロウに魔術師の素質があることが分かった。

都会では毎年あるらしいが、辺境の村では10年に一度まだ鑑定をしていない子供を対象に魔力量や魔法の適性を鑑定する日があり、その日ロウは訪れた鑑定士を驚かせた。

どうすごいのか全くわからなかったが、大人達がすごく喜んでロウを褒めまくっているのを見て俺は「俺の弟すげぇぇぇぇ!!」と、一緒になって喜んだのを覚えてる。

しかし喜んだのも束の間、『魔術師の素質があると言うことは王都に行ってその為の教育を受けなくてはならない。すなわちロウは村を出なければならない。』と言う事を知らされた。

とてもショックだった。

甘えん坊なロウ。

いつも必死で俺の気を引こうとしてる姿が可愛くて、いつか兄離れをするその日まで大切に守っていこうと思っていたのに。

こんなに早く別れが来るなんて……。

王都は遠い上、魔術師としての教育が始まってしまえば、正式に魔術師になるか、魔術師の才能が無いと判断されるまでは簡単に帰って来る事はできないと聞かされた。

ロウが大人達に『行きたくない!!』と泣きながら訴えていたがその訴えも虚しく、ロウが出発する日があっさりと決まってしまった。

村で魔術師の素質があると言われたのはロウだけだった。


俺はロウを一人にしたくなくて、父さんにロウと一緒に俺も王都に行きたいと頼んだがそれは駄目だと言われた。

俺が一人で生活できるくらい大人だったらロウと一緒に王都に行けたのに……。

落ち込む俺を見て父さんは俺の肩に手を置き、俺に目線を合わせるとゆっくりと口を開いた。

「ごめんな。フロウと離れたくないよなぁ。お前が一番フロウの事を可愛がってるもんなぁ。だがこれは国の決まりなんだ。『魔術師の素質がある者は魔術師の教育を受ける義務がある』と。だからフロウは絶対に王都にいかなくちゃいけない。」

「……。」

「ルカ、諦めてくれ。もう決まったことなんだ。俺達に出来ることはフロウが王都で頑張れるように応援して笑顔で見送る事だけだ。なぁに、一生会えない訳じゃないさ。あっちで魔術師になればこっちにだって会いに来られるだろうし、お前が大人になったら会いに行けばいい。」

「……。」

「フロウの為でもあるんだぞ?」

「ロウの……ため?」

「あぁ。フロウには魔法の力が眠ってる。フロウが自分の力を上手に使えるようにするには王都での勉強が必要なんだ。上手に使えなくてフロウが爆発したら嫌だろう?」

「え!!ロウ爆発しちゃうのか!?やだ!!」

「ははは、例えばだよ。それに上手に使えるようになったら強いって事だ。フロウが強くなったら嬉しいだろう?フロウが大人になって大切なものを守れるような男になってほしくないか?」

「……ほしい。」

「だろう?普通だったら嫉妬したりするもんだが……お前ならそう言うと思ったよ。お前はいつもフロウが一番だもんな。」

「だって俺、あいつの兄ちゃんだもん。ロウが大切にされるなら、ロウの為になるなら……そうなる方がいい。」

「はははは、普通に育てたのにこんないい男に育つなんてさすが俺の子だなぁ~!フロウを笑顔で見送ってやろうな!当日は俺と母さんが王都まで送っていくから。お前は村の出口でしっかり見送るんだぞ。」

「うん、わかった!」

本当は嫉妬していた。
それはロウにじゃなくて周りのやつらに。

大事なものが横取りされてしまったような喪失感を味わった。


でも、これでロウが幸せになれるなら……と自分に言い聞かせた。



その夜、寝る時間になってもロウは部屋に来なかった。
いつもなら無理矢理押し掛けて来るくせに。


食事の時元気の無かったロウを思い出し、心配になってロウの部屋に行った。一応ノックはしたが待たずにドアを開けた。

部屋に入るとロウはベッドの上で小さくなって泣いていた。

いつもの涙じゃなくて、本当に辛そうな涙だった。

俺は我慢できなくなってロウを抱き締めた。


そうだ……一番辛いのは本人であるロウだ……。


応援する覚悟は出来たつもりだったけど、涙が止まらなかった。ロウの前では絶対泣かないって決めてたのに……。

俺はぐちゃぐちゃになりながらロウと話をした。
ロウの不安を少しでも軽くしたくて。


そしてロウは王都に行く事を決めた。
また泣きそうになったがそこはグッと堪え、
離れてもずっとロウの味方でいようと心に決めた。




別れの日、村に王都から迎えの馬車が来た。
両親が送っていくと言っていたのに何故だろうと思ったが深くは考えなかった。
どちらにしても俺はここでロウを見送らなければいけないのだから。

ロウはほとんど荷物が無いので、すぐ出発の準備が整った。

もう、行っちゃうのか……そう思っていると、ロウが王都から来た使者に何か言った後俺の前まで駆けてきた。
そのまま俺の手を取り、いつもの甘えた顔で俺を見つめた。何かお願いがある時の顔だった。


「ルーお兄ちゃん、僕が頑張って強くなって帰ってくるまで待っててくれる?」

「もちろん!待ってる!」

「何年かかっても待っててくれる?」

「もちろん!待ってる!」

「誰とも結婚しないで待っててくれる?」

「もちろん!って、え?」


いない間に誰かに取られると思ったのか?
結婚しても大切な弟であることには変わり無いのに、可愛い奴め。
俺は、甘えん坊で困ったもんだと思いながらしかたなく「わかった」と答えた。
まぁ、村に同世代の子供は少ないし生憎好きな奴もいなかったから結婚なんて先の話深くは考えてなかった。

「ルーお兄ちゃん、約束だよ、絶対だからね。」

若干『絶対だからね』の部分に圧を感じたような気がしたが、ロウは俺に満足げな笑顔を向けると、泣いていたのが嘘のように元気に出掛けていった。





あれから10年。

彼女がいたこともあったが結局結婚には至らず、結果ロウとの約束を守った形になった。

まぁ、結果オーライというやつだ。


10年ぶりのロウはそれはもう美しく成長していたが当時の面影が残っていてすごく懐かしい気持ちになった。

容姿を褒めた時に嬉しそうに笑った顔は昔のロウのような呆気なさが残っていて男なのにキュンとしてしまった。顔が良いってズルい。


俺はロウにいつまで村にいられるのか聞いた。
そしたらロウの口から衝撃の言葉が発せられた。

「ううん、ルー兄さん迎えに来ただけだからもう帰るよ。」

「え!?もう帰るのか!?せっかくならゆっくりしていけばいいのに……って、え?」

そこからはあれよあれよと言う間に俺は荷物を持たされ馬車に乗せられ現在に至る。



「ルー兄さん、さっきからボーとしてるけど本当に大丈夫?ごめんね、もうすぐ着くからね。」

ロウは俺の具合を心配してなのかいつのまにか俺の腰を抱いていた。
嫌ではないが擦るなら普通は背中ではないだろうか。まぁいいけど。

「あ、あぁごめん!大丈夫だ!って、もう着くのか?まだ半日も経ってないぞ?」

「ふふふ、ビックリするよね。普通だと丸2日かかるんだけど、もうすぐ着く町に王都への転移ゲートがあるんだ。」

「転移……ゲート?」

「そう。簡単に言うと魔法の近道かな。それを通るとすぐ王都に着けるんだよ。」

「そんなのがあるのか!?すごいな!!」

「でも、簡単には使えないんだ。」

「そんなに便利なのにか?」

「うん、いろいろ事情があるんだよ。」

「そっか、来る時もそれを使ってきたのか?」

「そうだよ。早くルー兄さんに会いたかったからね。」

「そっかぁ!!ありがとなロウ!」

「うぅッッ……」

「どうしたロウ!?苦しいのか!?」

「だ、大丈夫だよルー兄さん。……久々のルー兄さんの破壊力……ヤバい……。」

「ロウ?本当に平気か?」

「うん、大丈夫だよ。さぁ、もうすぐだよ。王都楽しみでしょ?」

「あぁ!楽しみだ!俺、何も知らないからこれからよろしくな!」

「うん、まかせて!こちらこそよろしくね、ルー兄さん!」



俺とロウの新しい生活が始まる。
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