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初恋の相手~フロウside~
しおりを挟む「ロウは泣き虫だなぁ、兄ちゃんがついてるから大丈夫だぞ!よしよし!」
「グスン、グスン、うん、ルーお兄ちゃん、だいすきぃ…。」
僕は物心ついた時からすでに兄さんの事が大好きだった。
兄さんを独り占めしたくていつも泣いてた。
兄さんが他の誰かといるのが嫌でいつもくっついて歩いた。
そんな僕にも兄さんは嫌な顔ひとつせず優しくしてくれた。
僕の兄さんに対するこの気持ちが特別なものなのだと気づいたのは皮肉にも兄さんと離れ離れになる少し前、僕が王都に行くことが決まった日だった。
1日も離れた事の無いルーお兄ちゃんと離れ離れになるなんて………つらい…無理……。
それに僕がいない間にルーお兄ちゃんに好きな人が……恋人が出来てしまったら……?
ルーお兄ちゃんが僕以外の人と……あ。本当、無理。
僕の兄さんに対する『好き』が『Like』ではなく『Love』であることを自覚した瞬間だった。
この時の僕が8歳で兄さんは10歳、王都なんかに行ったらいつ帰ってこれるかわからない。
絶対行きたくない。
泣き虫な僕はいつものように泣きながら懇願してみた。が、泣き落としではダメだった。
大人達は村から魔術師候補が出た事が嬉しくてしかたない様子で、僕の意思は関係なく、僕を王都に行かせる事は決定事項だった。
後から分かった事だが、正式な魔術師になると村に奨励金が出るらしい。あの時の大人達の異常な喜び様に納得がいった。
僕はこの日、本当に悲しくて泣いた。
もう少し大人だったら、兄さんを連れてどこか遠くに逃げられたかもしれない。
どうして僕はまだ子供で、力も無くて、弱いんだろうと。
ーーコンコン。
「ロウ?寝ないのか?」
僕がシクシクと一人泣いていると、兄さんが返事も待たず部屋に入ってきた。自分の部屋があるのに毎日無理矢理布団に入って来て一緒に寝たがる僕がいつまで経っても来ないので心配で様子を見に来てくれたのだろう。
『一人で寝られるようにならなきゃダメだぞ。』って言ってたくせに……。
入ってきた兄さんはベッドの上で膝を抱えて泣いている僕を見た瞬間、駆け寄ってきて僕をギュッと抱きしめた。
兄さんが突然入ってきた、泣いているところを見られた、抱きしめられた……突然の一連の流れに僕の思考は停止した。
そんな思考停止中の僕の耳に兄さんの声が入ってきた。それは言葉ではなく、嗚咽の声だった。
ルーお兄ちゃんが泣いてる……一度も泣いている姿を見た事が無いルーお兄ちゃんが僕の為に泣いてくれている。
愛しさが込み上げた。ますます行きたくなくなった。
「ルーお兄ちゃん……」
嗚咽を漏らし続ける兄さんの名前を呼んだ。
兄さんはピクリと反応すると「ごめん…」と体を離した。離さなくていいと思った。
「ロウが一人で泣いてるの見たら我慢出来なくなって……。ごめんな、何もしてやれなくて。王都に行きたくないんだよな?俺だってお前が行っちゃうのすごく寂しいよ。でも…」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔でションボリしながら話す兄さんが可愛いすぎてそっちにばっかり気を取られていたら突然兄さんが僕の両肩をガッと掴み強い眼差しを向けた。その顔もやっぱり可愛かった。
「お前は王都に行けば強くなれるんだぞ!強くなれば大切なものを守れるんだ!」
「強くなったら……大切なものを守れる……。」
大切なもの=ルーお兄ちゃん、しか浮かばなかった。
「それに、一生会えない訳じゃないだろ!強くなって偉くなったらお金もいっぱい貰えるぞ!そしたらここにだってきっと簡単に帰ってこれるぞ!」
お金がいっぱい貰えたら帰ってこれる=ルーお兄ちゃんを養うお金が貯まったらルーお兄ちゃんを迎えにこれる
僕の気持ちが決まった瞬間だった。
「字もしっかり勉強して手紙も書くし!お前も手紙ーー」
「ルーお兄ちゃん!!僕、王都に行く!!絶対強くなる!!」
兄さんの言葉を遮り僕は大きな声で言った。
「お、おう!がんばれ!応援してる!」
兄さんは突然僕が大声を出したから驚いた顔をしたが、すぐにいつもの大好きな笑顔で頭を撫でてくれた。
僕は絶対強くなってこの笑顔を守って見せると幼いながらに誓った。
別れの朝、王都から迎えの馬車が来た。
自分達で行くと思っていた為、僕も付き添うはずだった両親も驚いていた。
僕は迎えの馬車に乗る前に兄さんと話をさせてもらった。しばらく会えなくなる前に、どうしても兄さんと約束がしたかったから。
僕は兄さんの前まで行くと兄さんの手を取り、少し僕より背の高い兄さんをウルウルと涙を溜めた瞳で見上げながら言った。
「ルーお兄ちゃん、僕が頑張って強くなって帰ってくるまで待っててくれる?」
「もちろん!待ってる!」
「何年かかっても待っててくれる?」
「もちろん!待ってる!」
「誰とも結婚しないで待っててくれる?」
「もちろん!って、え?」
「ルーお兄ちゃん、約束だよ、絶対だからね。」
僕が満面の笑みでそう言うと兄さんは少し困った顔をしていたが、まぁ子供の約束だしきっと忘れてしまうだろうからまぁいっかくらいに思って諦めたのか最後は『うん、わかった』と言ってくれた。
こうして僕は無事に兄さんと約束を取り付ける事に成功し、安心して馬車に乗ると王都に向けて出発した。
こんな約束だけで安心できるなんてと笑われるかもしれないが、幼い僕にとっては十分だった。
兄さんとの約束が僕の頑張る力の源になった。
そして王都に行った僕は魔術師になる為の教育を受ける事になり、それに伴い何故か公爵家へ養子に入ることになった。
何の知識も無かった僕は公爵の地位の高さを全く理解しておらず、ただ子供のいなかったお金持ちの家に養子に入った感覚だった。
あれから10年……長かった。
やっと僕は……
「正式に、フロウ=ファルメールを上位魔術師として認める。」
魔術師になることができた。
そして、
「ただいま、ルー兄さん。」
「え、ロウ?」
やっと兄さんに会いに帰ってこれた。
僕の初恋の相手。
十年経っても変わらない、僕の愛する人。
これからはずっと一緒にいるからね。
僕のルーお兄ちゃん。
「はい。じゃあ、行こうかルー兄さん。」
「え?……えーーーっ!?」
もう、離さないよ。
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