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第50話 裏切りの告発

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 私が静かに伝えると、ハインリヒは眉を顰め不快そうに私を見た。

「私が……なんだって? 意味の分からない事を言うのはやめてくれ。もちろんいつかは王となり、直轄地ではないもののガランドの事もきちんと管理するつもりだ」

「そういう話ではないのは、おわかりでは?」

 私がそう言うと、皆が私ではなくセオドアを見た。

「ガランド公爵。ハインリヒになんて口の利き方だ」

「……そうよ、ガランド公爵。ハインリヒは、あなたの事を信じてあの土地を任せてくれたのよ」

 王も王妃も、ハインリヒを庇うようにセオドアを窘める。

 私はセオドアの事が心配になり、そっと手を繋いだ。
 セオドアは私の手を握り返し、私の顔を見た。その目は落ち着いていて、いつもの彼のように見えた。

 ……でも、家族に冷遇される暗い気持ちは凄くわかる。

 もう傷つかないと思っていても、自己否定された気持ちになるのだ。
 期待していないはずなのに、打ちのめされる。

 セオドアは、何度もこういう事を経験してきた。

 私は彼を抱きしめたくなった。こんな事で彼を傷つけるのは、最後だ。
 早くこれを終わらせよう。

 この馬鹿馬鹿しい茶番を。

 私は一緒に来ていたラジュールに合図をし、書類を受け取る。
 不思議そうな皆の視線が私に集まる。書類の中から数枚の紙を出す。

「これがその証拠です。ハインリヒ殿下。皆さまもご覧ください」

 私はその紙を全員に見えるように広げた。
 ハインリヒは信じられない顔で、証拠の紙を見ている。どんどんと顔色が悪くなり、俯いて肩が震えているのが見える。

「えっ。なにこれ……どういうことなのハインリヒ様!」

 叫ぶようなカノリアの声が宙に浮く。

 驚くべきことに、バロウズ辺境伯ははっきりとした証拠を残していた。

 ハインリヒのサインがされている、直筆の手紙だ。私たちも見つけた時は、信じられない気持ちだった。

 ハインリヒのサインのなされたそれは、証拠としてはかなり強力だ。

 なにかしらの書類と捕らえたバロウズ辺境伯の証言を、と考えていた私たちは、思わぬ証拠に飛び上がるような気持ちだった。

 これなら逃げられるはずがない。

「何故、こんなものが……」

 魔力を流すと文字を映し出し、魔力が切れると崩壊する仕掛けの鳥手紙を使っていたので、まさか残っているとは思わなかったのだろう。

 私の父も、全く警戒なく直筆で送ってきていた。

「後でゆする気だったのか、不利にならない為だけかわからないが、魔力が切れると壊れるはずの手紙を、バロウズ辺境伯は大量の魔鉱石を使い保存していたんだ。かなりの力技だな」

 セオドアが補足するが、震えるハインリヒの耳にどれぐらい届いたのか。

 希少な魔鉱石を大量に使用するなんてことは普通出来ないし、今使っている固定の魔術は私のオリジナルだ。

 資源の大半がガランドに埋まっている魔鉱石だが、隣り合っている領地だけあり採掘されていたのだろう。

 ……バロウズ辺境伯が貴重な魔鉱石をここまで使ったという事は、もうガランドを手に入れる事を確信していたんだ。ハインリヒの罪は重い。

 魔力を流し続ければ消えない。簡単なからくりだが、魔力を流し続けることは難しいので、理論としては可能でも、実現させることはほぼ出来ない。

 鳥手紙にそんな風な抜け穴があったとは、私も知らなかった。

「この手紙のサインを見れば、どういうことかは誰にでもわかるはずです」

 私は王に手紙を渡すと、王は無表情で書類を手に取った。

「……ハインリヒが、隣国と通じていただと?」

 静かな王の言葉に、ハインリヒは弾かれたように顔を上げ、叫ぶように否定した。

「違います! 違います父上!」

 必死な言葉を上げる彼は善良そうで、私は誰も惑わされないように、はっきりと伝える。

「通じていたのは、その手紙を見ていただければ間違いようのない事です。……ハインリヒ様はセオドア様を殺せればそれでよかったんでしょうが、それは結局隣国の利益となるものだわ。ガランドが敵国にわたれば、この国自体が危機に陥るのよ」

「そんなこともわからないとは、ハインリヒ殿下は目が腐っているのかもしれないな」

 私の言葉にセオドアも軽い調子でうなずいた。

「書類でもわかる通り、私の家族も関わっていました。ライガルド侯爵です。当然、妻である母も知っていたでしょう。……我が家も無事ではいられないとわかってはいました」

 私はちらりとカノリアを見る。カノリアは青い顔をして、俯いている。
 セオドアは忠誠心のあるかのような顔で、陛下に進言する。

「でも、国を思えば、これを陛下に見せない訳にはいきません。幸いマリーシャも居て、大事に至る前に収束させることが出来ました。こんな事をするだなんて、信じられませんでしたが、これを見たら……」

 侮っている私達に侮辱されたと感じたハインリヒは、憎々し気に私たちをにらむ。
 今だってきっと、こんな奴らにどうしてと思っているだろう。

「なんということを……お前たちごときが……」

 今にも襲い掛かってきそうなハインリヒに、私は見せつけるように魔術を展開させた。
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