六音一揮

うてな

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3章 即興間奏

第36音 金蘭之契

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【金蘭之契】きんらんのちぎり
金よりも固く、
蘭のように香ばしい友誼の事。

=============

ある日の事。

ルネアはお風呂の支度をする。
そう、今日はみんなでお風呂でワイワイする日。
家族団欒ができると思いつつ、期待を膨らませるルネア。

(家族一緒にお風呂って…した事ないんだよなぁ。
小さい頃だって、召使さん達に囲まれてのお風呂だったし…。)

ルネアは風呂場まで歩いて行く途中、なんとラムが廊下でつったっていた。

「どうしたの?」

ルネアが聞くと、ラムは怒ったような表情でルネアを睨む。

「わかってんだろうがよお…」

ラムは緊張と恥ずかしさでいっぱいなのである。
ルネアは満面の笑みで、ラムの背を押した。

「まーまー、ポーカーフェイスポーカーフェイス」

その時、テノがアールを引っ張りながら歩いてきていた。

「よ!おいラムよ。コイツなんとかしてくれね?
入りたくないってしつけぇんだよ」

するとラムはふと、アールの首の痕について思い出した。
それを見せたくないのだろうか。
ラムはアールに気を使って言う。

「無理して入れなくてもいいと思うぜ」

「ダメだッ!」

とテノは言い、ルネアも同じなのか言った。

「ダメです」

ラムはルネアを思わず睨む。

「は?何言ってんだよ!」

すると、アールはテノの手を払った。

「…わかった。」

それにルネアは喜んでいると、ツウ達がやってきた。
更には、アールが親しくない人もいる。
すると再びアールは背を向けて言った。

「やっぱやめておく」

「なんでですか!」

ルネアがアールの服を引っ張ると、その親しくない人の中の一人が言った。

「あ…アール……」

と、不穏な空気が流れる。
他の人も冷や汗をながしていた。
ルネアが首を傾げていたので、ラムは耳打ちをする。

「前にアールを虐めてた奴等の仲間。」

ルネアは納得していると、アールはぷいっと顔を逸らして風呂場に入った。
虐めをしていた者は安堵の溜息をつく。
近くにいたルカは、足をガクガクさせながら呟いた。

「他の子を誘わない方が良かったかも。」



着替えをしている男子達。
ルネアは沢山の人といるのはいいが、こんなに人と入るのは初めてで戸惑いを隠せない。
ルネアは思わず言った。

「人数多い」

「広いから気にならないよ、きっと。」

と笑いながら言ったのはツウ。
ちなみにツウは着替えていない。
ルネアは目を丸くした。

「ツウくんは入らないの?」

「うん、もう入っちゃったから。
だから見てるだけ。」

「えぇ~つまんないなぁ…」

ちなみにラムは、恥ずかしくて顔を隠している。
アールはそんなラムを見て言う。

「ラム?どうかしたのか?」

ラムはアールの方を見ると、丁度アールは上の服を脱いでいた。
ラムは上半身裸のアールを見て顔を赤くして、思わず顔を逸らす。

「何でもねぇよ!」

そしてどうでもよくなったのか、ラムも服を脱ぎだした。
アールは淡々と着替えていたが…

(ラム…可愛い…。イジリ甲斐がある。)

と実は心の中では喜んでいた。



テノは一番乗りで扉を開けた。

「俺が一番だぁ~ッ!!」

そう言って入ろうと思うと、

「あら、遅かったわね」

と、先にダニエルが入っていた。
それを知り、テノはドテッと転ぶ。
しかしすぐに起き上がり、ダニエルに怒鳴った。

「なんで姉御がいんだッ!」

ダニエルは澄ました顔で言う。

「だって沢山の人に紛れたくなかったんだも~ん。
先に入っちゃった方が勝ちよ」

そう言ってウィンクした。
テナーはテノの後ろでクスクス笑っていた。

「あぁんッ!?」

テノはテナーを威嚇したが効かない。

他の人は風呂に次々に入って体を流しに行ったり、風呂に入ったりとしている。
それを見ていたルネアはもやもやしていた。

(体も頭も洗ってから風呂だと思ったんだけど…人それぞれなんだなぁ。)

アールは一番端のシャワーで体を流しに行っている。
それを見たルネアは、ラムの背中を押して言った。

「行って来い!」

ラムは恥ずかしくはあったが、ルネアの後押しもあってやっとの思いで隣に行けた。

ルカは先に頭を洗っており、楽しそうにしていた。

「ねえねえこのシャンプーめっちゃいい匂いする!」

ルカは喜んでいて、テナーも興味で見に行っている。
テナーは匂いを嗅いで、確かにいい匂いと思っていた。
すると背後に来たテノから、シャンプーをかけられ頭を洗われる。

「へっへ~ん!ざまぁみろ!」

テノは笑顔で言う。
テナーはやれやれと苦笑いで、泡が目に入らないよう両手でカバーした。
ルカは目を輝かせた。

「おお!」

そう言って、風呂場の端で立っているだけのツウのところに来た。

「今度頭洗ったる!」

「ごめん、ルカ兄乱暴だから。自分でするよ。」

ツウは笑顔でそう言って、そのままスルー。
ルカはショックしてその場で硬直した。
それを見た周りの男子は笑っている。

ちなみにテナーの髪に隠れた傷口は湯気のせいか、あまり周りに指摘される事も気づかれる事もないようだ。
ルネアも頭を洗おうとシャンプーを出すと、匂いをまず嗅いだ。

「これは普通な匂い。」

そう呟いて洗い始めた。



一方女湯では、既に女子達が風呂の中でくつろいでいた。
顔を天井に向け、顔にタオルを乗せていたシナはタオルを取るとこう言った。

「隣が騒がしくなってきたわね。男共の参上ね」

リートは顔を赤くしながら、隣の壁へ視線を向けた。

(男の人達が…!)

妄想を繰り広げているリートに、シナはやれやれと思っていた。
他の女子はシナと会話したり、それぞれお喋りをしていた。
レイは隣の男湯の壁を見つめていた。
ラムとアールが一緒にいるのではと疑っているのだ。

すると突然、ノノがお湯からバッと出てきた。

「うむ!見つけたぞ!ピアス!」

と自分のピアスの片方を見つけたようだ。
シナは呆れつつ言った。

「せっかくルカから貰ったんだから大事にしなさいよ。」

そう言うと、ノノは笑顔で言う。

「勿論!
シナもルカから貰ったヘアピン、失くすでないぞ!」

シナはそう言われると、今付けているピンクのピン留めを気にした。
そしてタオルを巻いてもいないノノに、溜息の出るシナ。

「女同士でも男子に覗かれたら大変だし、一応タオルくらい巻きなさいよ。」

しかしノノは胸を張って言う。

「心配いらん!」

その自信はどこから出てくるのか、とシナは呆れ笑いをして頭を抱えた。



一方男湯。
ラムは頭がパンクしそうだった。
今、アールがラムの背中を洗ってくれている。
この爆発的な鼓動がバレるのでは、と少々心配なラム。

「背中が広い…。」

と呟くアール。

(あたりめぇだろ化けてんだし…っ)

ラムは半泣きで思っていた。
ラムは暫くの沈黙に何か話題を入れなければと思い、話題を振る。

「いつ以来だっけ風呂に一緒に入るの」

「私が七つで、ラムが六つの時か。」

アールの即答。
即答なのは、アールも丁度同じ事を考えていたからだ。
いつ以来かと、お互いの成長を見れる訳だが、
アールはラムが実は女だという事は知っているので、
一度でもいいから成長したラムの女姿を見たいと思いつつ、そんな事を考えていた。

「十三年か。な、長かったなっ」

ラムはぎこちない回答。

「…そうだな。」

アールはそう言い、背中をお湯で流してあげた。
ラムは焦りつつもこう言う。

「あ、ありがとう。
あ!アールの背中流すよ!」

「…う…うん…。」

ルネアは遠くから見守りながら二人に向かって一つ思う。

(女々しい女々しい)

そこらの男子は風呂でお湯を拳で叩きつけ、水しぶきを上げたりと遊んでいる。
なんともラム達とは温度差が激しい。

ラムはアールの背中を洗いながらも言う。

「背中…広くなったな…」

小さい頃と全く違う彼の背中に、大きくなったんだという事を深く知る。

「ラムと比べたら小さいが。」

「そんなの関係ねぇ!」

ラムはアールに咄嗟に言った。
そしてまた、沈黙が始まろうとしている。
周りはこんなにも騒がしいのにここの空間だけ無音。
話す事なんとかして探そうと思うラム。

(…こうやって洗ってると、う~ん…。
アールって以外に筋肉あるな…細いくせして。
図書館でよくお手伝いとかしてるんだよな。そのせいかな…。
…足長いし。女子が羨むぞ。)

と思っているのはいいが、言葉に出さなければ意味はない。
でもこれを言うと変態に聞こえるかもしれないと、やはり黙り込んでしまう。

アールはと言うと、アールだって平常は保てない。
表面上は抑えられるが、中はそれどころではない。
自ら落ち着けと唱えていないと落ち着けない。
誰もいずに二人きりなのであれば
このまま押し倒してやりたいと、愛の告白だってしたいと思っているアール。

その時アールはふと思う。
自分の置かれた立場を考え直した。
すると、自然とその意欲も減退していく。

(そんな資格などない…か。)

暗くなるアール。

それゆえの二人の沈黙。
体を流し終えたのにも関わらず、何も反応しないアールを見てラムは聞いた。

「アール?どうかした?」

するとアールは我に戻り、ラムの方に振り向いた。

「ん…いや……何でもない…。」

そう呟くと、ラムはある事に気づく。
首の怪我の痕がないという事だ。
最近は何も無さそうだと一安心のラム。
その時、アールの背中に冷たい雫が一滴落ちてきた。

「ひっ」

とあまりの冷たさで、小さく声が出てしまうアール。
いつもは出さないような声にラムは内心嬉しそう。

(可愛い…!)

しかし表ではそんな顔を見せない。

「大丈夫か?」

小声で心配するラム。
周りの男子はラム達の方を見て笑っていた。

「おい~ラム変な声出すなよ~」

「はぁ?」

ラムはそう言いつつ、アールである事は黙っておいた。
アールは平常を保っているが、恥ずかしかったのか少し顔が赤い。

「…冷たい。」

ただ一言そう言って、アールはすぐさま風呂のお湯に浸かりに行った。
顔を赤くしたのは、ラムに声をかけてもらった時に
顔を見合わせてしまった事、そして恥ずかしいところを見られたからだ。
ラムはさり気なくアールの近くに向かうのであった。

ルネアも観察終了という事で、ダニエルのところまで行ってしまった。
そこで男子はある事を企てる。

「なあ、隣覗こうぜ?」

と一人の男子。

「いいなそれ!」

やる気満々のテノ。
ルカは真っ直ぐ姿勢良く手をあげながら言った。

「俺もやります。やらせてください。」

そのあまりの真摯さに、思わず笑う男子一同。
テナーは風呂の壁を指差す。
覗き男子一同は『お~』と流石合唱団、しっかり綺麗にハモっていた。

穴が空いている。

「これは歴代の男子合唱団の汗水流して、ここまで気づかれずに空けてきた穴…」

ルカは雰囲気を出しながら語る。
覗き男子は拍手をした。
それを聞いていたラムは、呆れた様子で言った。

「覗きなんて可哀想」

「覗きには興味がないのか。」

と突然アールは聞いてきた。
ラムは驚いてしまった。

「アールは覗きに興味あるのかよ!」

ラムの言葉に、アールは黙り込んでしまう。

(まじかよ…)

ラムは半分涙目である。

「じゃあお前も見に行くの?」

ラムが怯えて聞くと、アールは落ち着いた様子で言った。

「誰も行くとは言っていないだろう。」

それを聞いて安心するラムだったが、やっぱりアールも男なんだなぁと思うのであった。
実のところアールは、「それならラムの女の姿が見たい」と言いたい。

「俺等は健全だからな」

とテノ。
便乗するようにルカは言った。

「チェリボチェリボぅ!」

「ちぇりぼ?」

ラムが言うと、アールは即答した。

「知らない方がいいぞ。」

一方周りの男子は、ルカをからかう。

「お前はノノ様か~?」

するとルカは頬を赤らめた。

「やんめい!」

ルカの反応に、図星だと笑う一同。

しかし、彼の本当の目的はノノではない。
ルカは顔を赤らめたまま俯いた。

(姉さん…!)

実はルカはシナの事が好きだ。
昔から一緒で、いつも遊んでくれ、
自分のお姉さん的存在で、たまに性格が悪そうに見えるが、
実はとても優しい人だと知っているからである。

ちなみに、彼のその想いを知っている人は
誰一人いないようだ。



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