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手を取り合う

14.女性のカン

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 いつもの日課の中庭の散歩を終わらせると、部屋には珍しく侍女がいた。



「あ…」

 侍女はミラが戻ってきたのを見て慌てた様子で姿勢を正した。

 ただし、俯いて目は伏せている。



「気にしないでください。私に関係なく仕事をして、気にしないで出て行ってください。」

 ミラは彼女の必死な様子に申し訳なく思った。



「…お宝様は、いつも私に出て行けとおっしゃりますが、お嫌いなのでしょうか?」

 侍女は遠慮しがちに目を上げた。



「え?…なんで?」

 ミラは彼女の質問に驚いた。



「いえ!!すみません。出過ぎた真似を。」

 侍女は慌ててまた目を伏せた。



「いえ、私は、あなたが私と居るのが苦しいと思ったので…だって、私の目は…」

 ミラは侍女に笑いかけた。



「そんな。滅相も無いです。ただ、目を伏せているのは、そう聞かされているので。苦しいなんて」

 侍女は首を振った。



「そうだったのですね。」



「はい。…お嫁に行かれたら、お話しできなくなってしまうので…」

 侍女は遠慮しがちに言った。



「いいのですか?私が聞くと全て答えないといけないですよ。」

 ミラは侍女を見つめた。



「…綺麗な目…」

 侍女はうっとりとミラの目を見つめた。



「あ…す、すみません!!大丈夫です。」

 慌てて目を逸らした。



「ふふ。何を訊こうかな。」

 ミラは侍女の様子を見て笑った。



「侍女ネットワークで噂話もあります。」

 何故か侍女は誇らしげだった。



「では、尋問をするので、座ってください。」

 ミラは自分の前の空いているソファを侍女に勧めた。



「そんな。ここで十分尋問を受けられます。」

 侍女は座ることを断り、ミラの横に立ったままを望んだ。



「わかりました。では、…王子のことで。」

 ミラはいいことが聞けるのか、少し期待して訊いた。



「王子は最低です。お宝様が嫁ぎに行くような男じゃないです。…あ、今のは」

 侍女は言った後にしまったというような表情をした。



「私も同じことを思っているからいいの。やっぱりそうなのね。」

 ミラは侍女の表情に笑った。



「本当に話してしまうんですね。王子のことをよく言おうと思ったのに、言えなかった。」

 侍女は感心したようにミラを見た。



「では…その、騎士たちのことは?」

 ミラはライガのことが聞きたかったが、直接訊けるはずもなく、当たり障りのなさそうな騎士の話を挙げた。



「お宝様は騎士に近いですもんね。いいですよ。騎士ゴシップあります。」

 侍女は胸を張って言った。



「ゴシップ?」



「いえいえ。では、どの部隊ですか?」

 侍女はどうやら事情通で、いろんな部隊を知っているようだ。



「私が知っているのは、団長さんが率いている部隊だけですから…」

 ミラは少し恥ずかしく思い、控えめに言った。



「精鋭部隊ですね。聞いてください。」

 侍女は精鋭部隊の情報も沢山持っているようで、胸を張って言っていた。



「全員のこと…聞けますか?」

 ミラは特定するのは良くないと思い、全員のことを挙げた。



「ええ。えっと、リランとアランっていう双子がいるんですよ。赤毛の長髪なんですけど、すっごく仲良しなんですよ。ただ、先輩方をよく怒らせていますね。」

 侍女はその双子に対して好印象を持っているようで笑顔で言った。



「ごっつい人でサンズさんって人もいますけど、暑苦しい感じですね。悪い人じゃないけど、あまり関わりたくない感じです。でも意外なことにこの人貴族の出なんですよ。」

 侍女は、あまり好印象は持っていないようだが、決定的に嫌いなわけではないようだ。



「次に金髪のアレックスさんって人がいるんですよ。数年前までは本当にすごいかっこよかったんですよ。けど、いい年して変にかっこつけて女性に絡むんですよね。かっこいいんですけどね。」

 侍女は、あまり興味が無いようだ。内容もまた聞きのようで、誉め言葉も取ってつけたようなものだった。



「マルコム君って子は本当にかわいいですよ。人当たりも良くて、本当にいい子です。地方の貴族出身らしいですけど、品のいい感じで、サンズさんの方が都会の貴族とは思えないです。」

 彼には好印象を持っているようで、声が高く、笑みも他の者よりも深かった。



「そうそう、女性がいるんですよ。ミヤビさん。本当に美人さんなんですよ。それで強いとか憧れますよね。女性も男性も憧れの的です。」

 憧れているのか、夢見るように目をうっとりとさせていた。



「女性が…」

 ミラは、ライガと同じ隊に女性がいることは知っていたが、実際に名前を聞いて存在を生々しく感じて何やら不思議な感情が湧いた。



「ええ。双子が取り仕切っている騎士団ランキングの美女部門のダントツ一位ですよ。イケメンランキング一位のライガ君とお似合いだって言われています。」



「え?」

 ミラは湧いた不思議な感情が胸に広がるのを感じた。



「あ、ライガ君っているんですよ。結構かっこいいですよ。強くてね。イケメンランキングで一位なんですよ。別にあの二人が付き合っているわけではないのですけど、お互い一位同士だし、お似合いなんですよ。」

 侍女はライガのことも好印象のようだが、ミラはそれどころではなかった。



「そ…そうなんですね。」

 必死に取り繕った顔で笑った。



「はい。後は団長さんですかね。…謎ですね。」



「やっぱりヒロキさんですよね。美しくて、女性の私もうっとりする動きの美しさ。」



「ゴシップで言うと、双子は…」



 侍女が話す内容は、全く頭に入らなかった。



 ライガの傍にいる女性が彼とお似合いと言われていることに、ミラは言いようもないもどかしさと嫌な苛立ちを感じていた。

 そして、そんな自分に嫌悪を感じていた。







 



 ミヤビはライガの様子をちらちらと窺っており、ライガは彼女が視線を向けたり外したりするのが気になった。



「どうした?」

 ライガはミヤビが気になったわけではないが、視線と動きに気になって考え事に集中できなかった。



「この前…白い花の髪飾り。」

 ミヤビは控えめな声で訊いた。そして、ライガの様子を探る様に見た。



「え?」

 ライガはどきりとした。

 まさかミヤビが、ライガが持っていた髪飾りのことを気にしているとは思わなかった。





「…あれ、綺麗だったね。ライガが見ていたけど…買ったの?」

 ミヤビは変わらずライガを観察している。



「…どうした?急に…」



「買ったの?」

 ミヤビは何かを期待しているようだった。



「あれすごく高いんだ。一月の給料半分持っていかれるんだ。」

 ライガは言葉を濁した。



 何故ミヤビがそんなことを気にするのかわからないが、これははっきりとしたことは言ってはいけない気がした。



「…綺麗だったから、翌日見に行ったんだ。…そしたらもう売り切れていたの。」

 ミヤビはライガを見ていた。



「…へー。」

 ライガはミヤビから目を逸らした。



「ライガはああいうのが似合う子が好きなの?」

 ミヤビはライガを見ていた。



「どうしたの?ミヤビ。」

 ライガはミヤビから目を逸らしたまま聞いた。



「…ライガは好きな子いるの?」

 ミヤビはライガを見ていた。








「聞いてくれよ。馬の糞を踏んだんだよ。」

 アレックスが部屋に飛び込んできた。



「あ、アレックスさん。」

 ライガはアレックスが来て安心した。



 ミヤビは何事も無かったかのようにアレックスに笑顔を向けた。



 ミヤビに何か気付かれているのかもしれないと思い、ライガは彼女となるべく二人きりにならないでおこうと決めた。
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