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第二章 覚醒編

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「お兄さま、待ってくださーい!」
「ごめんごめん」
僕たちは旅の荷物を盗んだ犯人が残していった痕跡を辿るようにして森を歩いていた。

かれこれ2時間は歩いているか。

照りつける日差しが熱い。

アリスの歩くスピードは徐々に落ちてきている。
道なき道を進んでいるため、体力の消耗が激しいのだろう。

なぜアリスがいるのかというと、アリスに「昨日のように待たされるのは嫌です」と駄々をこねられた結果だ。

地図も奪われ無事キャンプ地に戻れるのかわからない状況で、アリスを一人にするのは危ないと判断し連れて行くことにした。

それに現状荷物を奪った犯人は一人のようだが、仲間がいるとも限らない。
アリスを一人にして何かあったら大変である。

という理由もあった。


だから決してアリスの上目遣いにやられたわけではないのだ。
……断じて違う。


「アリス、ここで一休みしようか」
「はぁ……はぁ……アリスならもう少し頑張れます! 
進みましょう!」

そう強がってはいるもののアリスは先ほどから息が上がっている。
これ以上無理をさせて倒れられては困るのだ。

そう説明をするとやっと言う事を聞いてくれた。

犯人探しを優先してくれるのはありがたいけど、アリスにはもっと自分の身体を大切にしてほしい。

怪我や病気になってしまったらどうしようもないのだから。

手頃な岩場を見つけたので、そこで小休憩をする。

道中で汲んだ湧水で喉を潤しながら、足跡を目で辿る。
足跡は初めよりくっきり見えている。そうそう見失うことはないだろう。

これは追跡スキルによるものだ。

1時間ほど目を凝らしつつ足跡を辿っていたら発現したのだ。

このスキルのおかげで、追跡は比較的楽なものになった。

それでもゴールは見えない。

足跡はまだまだ遠くまで続いているようだ。

どこまで持っていったのか。

誰が何のために奪ったのか。

謎が深まるばかりだ。

「ふぅ……アリスも飲みなよ」

湧水を入れた皮袋を岩に腰掛けるアリスに渡す。

「え!? そ、そん、それは!?」

しかしアリスはなぜかすぐに飲もうとしない。
喉が渇いていないのかな。

「今は喉が渇いていなくても、飲んでおいた方がいい。こまめな水分補給は大事だ」

「で、ですが! そ、それは、か、かかかん……せつ」

「関節? 関節が痛いのかい?」

様子がおかしいと思ったら関節に痛みがあるようだ。
やはり12歳の子供に獣道はキツかったか。
仕方がない。

「アリス、ほら」

僕はアリスの方に背を向けおんぶの姿勢を取った。

「え、え、えええ!?」
ここから先のことを考えれば今は無理をさせる時ではない。

だから僕はアリスをおぶることにしたのだ。

「はやく乗って。時間が勿体無いんだ」

痛みによるものか、体をクネクネさせているアリスに僕は強く言った。

「は、はい……お願いします……」

関節が痛むのだろう。元気のない声のアリスをおぶい、僕たちは再び森を進むことにした。

しばらくすると背中が騒がしくなった。

「それにしてもお兄さまは凄いですね!」

頭上からアリスのはしゃぎ声が聞こえる。
痛みは引いたのか元気そうだ。
いや、まだ安心はできない。おんぶは続ける。

「なにが?」

「足跡なんてアリスには殆ど見えないのに、お兄さまは迷わず進まれていることですよ! お兄さまにこんな才能があったなんて知りませんでした!」

ぎくり。

「それに連日歩いているのにまるで疲れを感じさせません! さすがお兄さまです!」


ぎくり。ぎくり。

「あとあと昨晩食べた角兎のスープです! 二杯目に食べたものはすごく美味しくてびっくりしました! まるで料理人が作ったような味でした!」


ぎくり。ぎくり。ぎくり。

僕は顔に出ないように平静を装う。

「そんなに褒めないでよ。僕は普通にしているだけだから」

「その普通がアリスにとって凄いんです!」

「いや、でも」

「いえいえやっぱりお兄さまは凄いんですよ! お兄さまが無職なんてアリスは信じられません! 今からでも教会に抗議しましょう!」

アリスにスキルのことは話していない。
いや、話すことができずにいるのが正解か。
複数の職業のスキルを持っていることを君悪がられるのではないか。
兄として慕ってくれなくなるのではないか。
不安なのだ。

無職になっても唯一アリスだけは信じてくれている。付いてきてくれる。

それが、スキルのことを話すことで離れ離れになってしまうのではないかと考えずにはいられなかった。

もちろんアリスの性格上ないとは思っている。
しかし万が一のこともある。

だから話せずにいる。

もう二度と信じていた人たちに捨てられる思いはしたくない。


「あ、お兄さま! なにか見えてきました!」

頭上でアリスが言った。
頭ひとつ分高いアリスは何かを発見したようだ。

僕は意識を切り替え、追跡に集中する。

僕も見えた。

あれは小屋だろうか。

樹木に囲まれるように、丸太を積み上げて作ったような不格好な小屋がある。
いかにも素人が作ったような感じだ。

「どうやらあそこがゴールのようだ」

追跡スキルによって浮かび上がっていた足跡も、その小屋の前で消えている。

間違いなく犯人はあの小屋の中にいるのだろう。

「アリス、降りてくれるかい」

「ええ!? そんな!」

「このままだと動きにくいんだ」

「それなら仕方ありません……スーハースーハー」

背中でアリスが何やらスーハーしてる。
なかなか降りてくれない。

「早くしてくれ」

「はぁ……名残惜しいですが仕方がありませんね」

そう言ってアリスは渋々な様子で背中から下りた。

「アリスはここに隠れているように。わかったね」

「はい。お気をつけて」

僕はナイフを持ち、一人小屋に向かうことにする。

僕が一人で偵察に行くことにアリスは反対しなかった。
二人で忍び寄る危険性を理解しているからだ。

僕はなるべく物音を立てないように慎重に小屋に近づく。

小屋の壁に張り付くと何やら物音が聞こえてきた。

そっと窓から室内を覗くと、そこには大柄な男と子供がいた。

子供の方は獣人なのだろうか。
頭から犬のような耳が生え、お尻には尻尾が見える。

物音というのは、大柄な男が子供を殴った音だったらしい。

子供が床に倒れているのがわかる。

「……あった」

そして僕は気づいた。
子供が倒れる側に僕たちの荷物が置いてあるということに。

どうやって取り返そうか、考えている時だった。

「ふざけんじゃねぇぞ!」

大柄な男の怒声が聞こえたのは。
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