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魔法陣と心臓の音

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朝の食事はミュリエルの要望通り

ベーコンとジャガイモのリゾット、果物、アイスティーなど

美味しくいただくとそこから、お母様のお説教が始まった

兄は仕事に行くと席を立つ

置いていく気だ、病み上がりの妹を見捨てる気だ

「お兄様」

ランディは一瞬振り向くと
「行ってきます」

と背を向ける

しかたない

心配をかけてしまったのだ、ミュリエルは覚悟を決めて説教を受けた

母のお説教は一時間ほどで、ようやく解放された

自室のベットに勢いよく倒れ込むと

耳がピリピリする

デオからの通信だ、これほんと便利かも

《ランディから聞いた、目が覚めたなら王太子が会いたいって》

「わかった」

《ウルドはお前が連れてこいってランディが》

「、、わかった」

ミュリエルは動きやすいが、ちゃんとご令嬢に見えるドレスを選んでもらい支度を整える
王太子に会うならちゃんとした格好をしないと
兄が怒るかもしれない

履き慣れない靴は好きじゃないけど

もう飛んでっちゃおうかな

は!

要所要所に魔法陣を描けば転移移動できる

それだ

なぜ今まで気づかない

遠くの手段としか考えていなかったけど

近くに設置してもいいよね

そうと決まれば、馬車を手配し教会まで行ってもらう

教会で馬車を降りるとここで馬車は引き返してもらった

王城から王太子が馬車を出すとか言われたけど、1人で乗るのは緊張するのだ

スティアード邸に来てもらうようにした

ウルドの家から城まで乗って行こうと思っている

教会に入るとフレデリクが礼拝堂でお祈りをしていた

「おはようございます」

「ミュリエル様おはようございます」

よかったフレデリク元気そう!

「先日は助けていただき本当にありがとうございました」

「偶然、聞きたいことがあって、勝手に入って遭遇したので、気にしないでください
私、もう少しで騎士になるのであれくらい当然です!」

「リンがあなたは本当に女神様だと言っていましたよ」

「そんな、ただの治癒魔法です!あ、治癒魔法のことは内緒でお願いします!」


「はい、わかりました」

「あと、教えて欲しいことがあって」

「はい、なんでしょう」

「ウルドはここの孤児院に何歳頃きたんですか?経緯とか教えていただけたら」

「そうですね、、ミュリエル様になら、、、今回のことと関係あるのでしょう、、
ウルドはある日、この礼拝堂の女神像の下に座っていました」

「年齢も実は推定で5歳くらいかと思いました。記憶を失っていて言葉もしゃべりませんでした」

5歳、記憶喪失、それ以前のことはウルドに聞いてもわからないかな

「そうでしたか、ありがとうございました、、、。
あ、そうだ院長、中庭に入っていいですか?悪いものが入ってこないように結界を張っても?」

騎士が見回りしてくれているけど、私が安心したいし

「はい、どうぞ女神様ならいつでもどうぞ、お気遣いありがとうございます」

部外者をそんなホイホイ入れたらダメでしょと
心の中でつっこみつつお邪魔した

朝は子供達は掃除をしたり勉強をしたりして過ごしていたっけ

誰もいない中庭の地に手を着くと結界を張る

悪意あるものを退ける

光が敷地を囲い、やがて収縮し中庭の地面に吸い込まれた

もう一つ

死角の壁に手をつき用意しておいた魔法陣を転写する

「よし、これでここに転移可能か」

便利だ、アルジュエル洋菓子店と本屋、ウルドのお家にも近いし
いざという時すぐに駆けつけることができる

や、あくまで緊急措置、非常時以外は使わないよ
歩くの好きだしね

城はデオがいるから転移陣はいいか、見つかったら怒られそうだし

魔法士の結界あるしなー、転移する時

壊したりしたら怒られる絶対

「よし、ウルドんとこに行こう」

教会に戻ってフレデリクに挨拶し、スティアード邸に向かう

「うー地味に上り坂きつい」

昨日は急いでいたから全然気づかなかった

しかもヒールだから足痛い、馬車返さず乗ってくればよかった

ようやく、門に到着する

そういえば、門番のひと重症だって言っていた、、、

あの時治癒をかけていれば、、

いや、あの時止まっていたら、きっと間に合わなかった

ミュリエルは門にいる青い騎士服の青年に声をかけた

「おつかれ様です、ミュリエル・ライランドです」

家を出る前に来訪することは伝えてもらっていた

「聞いています、今門を開けますね」

先日の侵入者のおかげで警備は厳重だった、青の騎士団が警備についていた

玄関に向かうとウルドが立っている
見るとすでに準備はできているようだ

「おはようウルド、もうすぐ王太子の手配した馬車がくると思うから」

ウルドはミュリエルの姿を見てため息をついた

「歩いてきたのか?」

なによそのため息は

「教会によってきたから、馬車はそこで返したの」

「ここまで馬車でくればよかっただろ」

「坂登ってる時ちょっと後悔したけど、私は歩くのが好きなの」

フイとそっぽを向いて、ついでに庭園を見る

「綺麗だね、いろんな色の花が咲いてる」

まだ馬車も来ていないし庭園を見ていようと思っていると

ウルドの手が膝裏に回され抱き抱えられた

またか!?
「前触れなしに人を持ち上げるよねウルドって」

兄も私を荷物のように担ぐ、女子はもっと優しく扱ってほしいものだ
と言ってもウルドは急だが扱いは丁寧だった

「足、血が出てる」

邸宅の中の玄関ホールへ連れて行かれると、そこにあるソファに下ろされた

「薬とってくる」

「いいよ、たいしたことないから」
これくらい我慢できる

「おまえ、人の怪我はほいほい治す癖に自分には無頓着なんだな」
そう言ってウルドはスタスタ歩いていく

「何よ、今日は少し機嫌悪いのかな?」
ミュリエルは靴を脱いでみた

「わ、ほんとだ血出てる」
こんなところどうやって鍛えたらいいんだろ

ほどなくして、ウルドが薬箱を持って戻ってきた

「自分でやる」

「いいから」

足を掴まれたので観念し、大人しくし手当を受けた

「自分の怪我は治せないんだろう?」

「うん」

「じゃ、あんまり無理するなよ」

ウルドは冷たい湿った布で踵の血を優しく拭うと、見たことのある軟膏を取り出した


「あ、それロージーの魔法薬?よく効くよね」
ロージーが作った塗る回復薬で小さな傷は塗ればほとんど良くなる

すぐに痛みが引いて傷が塞がっていく

すごい、売ればいいのに、魔力を込めて作るらしく大量生産は無理だと聞いた

「ありがとう」

「、、、お礼を言うのはこっちだろ、義母さんたち、教会のみんなも助けてくれてありがとう」

ウルドはミュリエルの足に靴を履かせながらそう言った

顔は見えない

「怒ってる?」

「いや、自分が不甲斐ないなって、」

「仕方ないよ、魔力が暴走したせいで起きれなかったんでしょ?」

治療が終わって立ち上がったウルドが名前を呼んだ
「ミュリエル」

なんだか真剣な声で呼ばれて、ウルドの顔を見上げる

「どうしたの?」

「あの銀の髪の魔法使いのデコにつけてる魔法陣、俺にもつけてよ」

そういえば兄にも朝そんなこと言われたな、と思い出した

「便利だけど、あれつけると私に、居場所とか知られちゃうよ?」

「別にいい」

襲われたから不安になってるのかな?

デオには監視用につけたんだけど

でも確かに、あれつけてたら、通信できるし、実は転移もできちゃう
(刻んだ本人限定)から便利なんだよね

デオは裏切ってこっちについてくれたから報復されるかもと思って防御もつけたけど、ウルドにも防御とかつけたら安心かも

「本当にいいの?」

「うん」

「体に刻んだら、私が死ぬまで解除できないんだけど」

「そんなものあいつにつけたのか?」

まぁ、縛り付けるためにあの時は仕方なく
竜と戦わせちゃったしね
元暗殺者を無理やり脅してハッタリで言うこと聞かせちゃったのだ

「成り行きで、仕方なくね、うーん目立たないところがいいよね」

デオはおでこ光るの嫌がってたなー

「手か足?体の見えないとことか?」

「どこでもいいのか?」

「うん、通信したりすると光っちゃうから隠れてるとこがいいかも」

「じゃ、ここにつけて」

ウルドは心臓のあたりを指さした

「うん、わかった」

了承したが、ウルドが服のボタンを外しだしたので狼狽える

「え、まってほんとにそこでいいの?」

「いい、服で隠れるし」

ううー目のやり場に困ります
ほどよく引き締まった筋肉!アレンが羨ましがりそう

ミュリエルは指をウルドの胸の中心あたりに当てると魔法陣を転写し、効果を追加していく

通信と、物理・魔法の防御、あと絶対死なないように、麻痺とか毒とか無効化、あ、あいつ火を使うから炎耐性も!あんまりつけすぎると、個々の効果が薄まるのでこれくらいかな

むむむとミュリエルは魔力を注ぎ込む

「できた!」

金色の魔法陣がウルドの胸で光って肌に馴染んでいく

「普通は光らないのか」

「うん使う時だけ、、、もうできたから早く服着て!馬車が来ちゃう」

玄関先で何をしてるのだ私たちは

ミュリエルは慌てて、先に玄関を出る

ちょうど王城から馬車がきた

「豪華だ」王太子が手配した馬車は白に金の装飾が派手だった

馬車が止まると、いつのまに来たのかウルドが手を差し伸べる

2人が乗り込むと馬車が走り出した

ウルドは自分の胸に手を当て、満足気だ


「、、、聞いていい?嫌だったら答えなくていい
ウルドは本当のご両親のこととか覚えている?」

「?いや、実は俺、孤児院に来る前の記憶がないんだ」
フレデリクにさっき聞いたとおりだ

「だから、孤児院は大事な家族だ、本当に感謝してる」

「もうそれはいいって、ずっと邸宅にいたんでしょ?孤児院に寄ってく?」

「いい、帰りに行く」

「そう?」

ミュリエルは王城に続く道すがらを窓から眺める

仕事に行く人、子連れの母親、店を開く商人

朝の風景が流れていく



ウルドは斜め向えに座って窓の外を見ているミュリエルを見た

今日はいつもと違い、どこから見ても貴族のご令嬢という装いだ

いつもの動きやすい男装のような服装でも貴族にしか見えないが

着飾れば女性らしさが増す

(絵になるな)

ピンクゴールドの髪に朝日がさして

静かにしていればこんな美しいのか、夜会の時も綺麗だったし

夜会で転びそうな彼女をつい手が抱き抱えていた
(あの時も踵の高い靴を履いてたな)

急に抱えられバランスを崩したミュリエルが両手で自分の首に手を回した時の柔らかさといい匂いが蘇る

「、、、、。」

「どうしたの?顔が赤いけど熱?魔力溜まった?」

「、、、いや、大丈夫」

自然と白く細い手が伸ばされたが
その手を自分の手のひらをかざし止める

いま触られたら、彼女に心臓の音が伝わってしまうのではと思うほど
胸が高鳴っている

(ああ、俺はミュリエルが好きなのか)

自覚してしまうと急に何を言っていいかわからない

たまにミュリエルが話しかけていたが、曖昧に頷くだけで

王城に着くまでが長くあっという間ににも感じた



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