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氷の魔女

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湖の近くにある街を拠点に
青の騎士団と兵士たちは住民の避難誘導をはじめた

青の騎士団長ヴィオと
ウルドは湖を囲む森を眺める

そこは森から離れた街の塔の屋上で
森の奥に湖だった場所がうっすら見えた

視界は白く靄がかっていた
それは森全体を覆い

ひんやりとした空気がここまで漂ってきていた

「今のところ、被害は森までで止まっていますね」

「だな、しかし拡大する危険性もある住民の避難を急がせろ」

「はい」

ウルドが塔から降りていくと
一緒に来た魔法士ヴェリルが駆けてくる

「ウルド、今回はミュリエル様の転移陣作らなくていいのかい?」

「はい、自分の印を目印に転移してくるみたいです」

今回は少人数だし、、皆魔法使いだから可能だと言っていた

「そうですか、あ、住民の避難があらかた終わったのだけど、一つ問題が」

「?」

「森の近くの見回りをしていた際にその森付近の村に煙が」

「あそこはすでに氷の靄の中だけど」

「生き残りがいるのかも」

ウルドは頷くとヴェリルを連れて塔へ上がり団長へ報告した

確かに、よく見るとうっすらと森近くの家の煙突から煙が見えた

「魔法士、ヴェリルだったか、その場所まで行けるのか?」

「はい可能です、自分の魔力では2人ほどなら結界で守れます」

「もしかしたら、湖を見張っていた黒の騎士と兵士か、、、村の住人の生き残りですかね」

「ヴェリル、ウルド、見てきてくれるか、ほっとくわけにもいかない」

「わかりました」

ヴェリルは自分とウルドに結界を張り
頷く

二人は森の中へ進んで行った

パシ、カシっと硬い氷を踏みつけて
シンとした森の中に音が鳴り響く

周りに生きている動物の気配はない

しかし、氷の彫刻のような動物だったものが落ちている

森の小道を進んでいくと

小さな村に出た

「あれです」
ヴェリルの指がさす方へ
ウルドは視線を向けた

確かに煙が立ち昇る家がある

村の真ん中を行くと手動ポンプの井戸があり
そこは広場になっていて
女性が二人凍った状態で佇んでいた
まるで生きているような表情で佇んでいる

「触れないでください」

ヴェリルの言葉にウルドは手を下ろす

まるで生きているような氷の人々が村のいたるところに動かぬ彫像となっていた

こんなところで氷にならずに生きている人間がいるのだろうか

建物の中は影響をうけないのか?

二人は煙が煙突からでる建物の前に来た

扉を叩く
トントン

「誰かいますか?」

「、、、、、。」

人の気配はする
応答はない

トントン

もう一度ノックをし

二人は顔を見合わせて頷くと扉に手をかけた

「失礼します」

「お邪魔します」

ガチャっと開く

どうやら鍵はあいていて
中に入ると
そこは
広い部屋になっていて
暖炉には火が煌々と揺らめいていた
中央にはテーブルと椅子が二つ
窓際がキッチンになっている

「あたたかい」

部屋には誰もいない
奥に扉がある

二人が扉に近づくと
ドアが開いた

そこには小さな女の子がいる
茶色い髪の少女は青い瞳で二人を見上げた

「どちら様ですか?」

ヴェリルは跪き、少女に目線を合わせると優しく微笑んだ

「ごめんなさい、勝手に入ってしまいました。今この村は危険ですので避難の手伝いをしている者です」

「きけん?」

二人が話しているのを見てウルドは開かれた部屋を見回す

その部屋には簡単な椅子とサイドテーブル、ベッドがあり
ベッドには女性が眠っているようだ

「いつもより寒いので薪を多めに炊いて家に閉じこもっていました」

少女の言葉にヴェリルが頷く
「そうでしたか、無事で良かったです」

「奥に寝ているひとは?」
ウルドの問いに少女が答えた

「おかあさんです、病気で眠っています」

「そうか、避難するよりここから出ない方がいいかもしれないな」

ミュリエルたち魔法使いが着けば結界魔法や転移で安全に母親を動かせるだろう

ウルドが言うとヴェリルもそうですね、と立ち上がる

「薪や食料は足りているか?」

「はい、じゅうぶんに」

それを聞いて二人は家から出て

ウルドは再度家のまわりを見渡した

シンとした村のここだけ無事

家の周りには人が彫刻のようにカチカチに凍って無造作に放置されている

「とりあえず、煙の原因は解決しましたし拠点に戻りましょう、そろそろ魔力も少なくなってきました」
ヴェリルの言葉にウルドは頷く

二人が村から出ていくのを家の中の窓から少女が見ていた

ザクザクと氷を踏み締め、森を通って拠点に戻る

「妙だよな、、?」

ウルドの言葉にヴェリルも頷く
「そうですね、、」

家の周りに捨て置かれた氷になった人間は老人の夫婦で二人は椅子に座っていたようなかたちだった

しかし外には椅子などなく
うつ伏せに放置されていた

「他の家も確認したほうが、、、」

二人が足を止めて引き返そうとした時

パキッ

森の中から音がした

「?」

自分たち以外に動くものがいる
普段の森なら当たり前だが
今は全て凍っている

ウルドは剣を抜き
ヴェリルも杖をかまえた

「お兄さんたち」

凍った森に現れたのはさっきの少女

茶色い髪がふわりとゆらめくと
白銀に
瞳は瞬くと青から赤に変わっていた

「すなおに森から出ていけば、見逃してあげようと思っていたのに」

白く細い指には青い石の指輪が光る

「ミュリエルが言っていた氷の魔女か!」

少女が手をかざすとそこから氷の粒が吹き出した

「ウルドさん!下がって!」
ヴェリルが前に出て杖を地面に突き立てる

ゴウッ!と炎の壁が下から吹き出し
さらに結界を強固に張りなおした

「これは、!」
苦しそうなヴェリルの表情に
ウルドは歯噛みする

氷の粒が勢いを増しヴェリルの結界が押し負けてきている

(自分にはミュリエルが施してくれた防御魔法があるが、有効なのかはわからない)

炎に耐性はあるが、氷は

ウルドが考えていると背後に気配を感じ咄嗟に剣を薙ぎ払う

ギンッと硬いものを弾き
それは森に突き刺さった

氷柱?

前に集中していたヴェリルは後ろが疎かになっていた

「しまった!」

氷の塊が研ぎ澄まされ無数の槍の様な形になる

(数が多い!裁ききれない)

ウルドは懐から一枚の紙を取り出し
それを目の前に翳した


紙に描かれた魔法陣が
魔力を感知すると炎の壁を作り出す

氷の槍は炎の壁に遮られ二人に届く前に蒸発した

「ウルドさん!すごい」

「借り物の一枚限りだ!走れ!」
フリードがくれた魔法陣が燃え尽きる前に

二人は森の外に駆け出そうと足を動かす

しかし行く手には氷の魔女
小さな少女が立ちはだかる

「お兄さんたち、私を殺しにきたんだよね?」

「?!」

可愛らしい少女の顔が憎悪にゆがむ

「私は殺されない!おかあさんを守ってみせる!」

氷の粒子が暴風となり
二人を取り巻く

「なるほど、これほどとは、、ミュリエル様も負傷されたと聞き、まさかと思いましたが」
ヴェリルはごくりと息を呑む

「ウルドさん、僕はもう魔力が残り少ない」

ウルドは剣を構えたまま豪風の中ヴェリルの声に耳をすます

「残りの魔力であなたの剣に炎の魔法を込めます」

ヴェリルの杖がウルドの大剣に重なる

「私の事は構わずに」

大剣が燃えるように魔力が込められた

ヴェリルが続ける

「青い瞳の騎士の七色の剣とはいきませんが」

ウルドは首にかけていたお守りをヴェリルに持たせると
氷の魔女に向かって剣を構えた

(小さい、女の子相手に剣を振るなんて
しかし相手はこちらを殺す気だ)

迷いが判断を鈍らせる

少女の背後には無数の氷の矢が出現し
こちらを狙って降り注ぐ

避けるわけには、、いかない

ウルドは背後にいるヴェリルを守るようにそれらを撃ち落とす

炎の重剣の刃は凍る事なく氷の矢を落としていった

しかし、これではいずれ撃ち負ける

「俺たちは君を殺しに来たわけではない」

氷の矢を撃ち落としながらウルドは言葉を発した

「なぜ、村を、みんなを氷漬けにする!」

「あの村のにいた兵士達は、私やお父さんをきった!」

「魔女だと決めつけて、私たちを殺したじゃないか!」

ウルドは白い視界の向こうに
泣きながら攻撃してくる少女に

(フリード、、、)

同じ復讐でゆがむ、あの顔が
まるで、フリード

前世の兄と重なって見えた

「殺しにきたんじゃない、、!
攻撃をやめて、話をしよう!」

ウルドの声に、一瞬
攻撃が緩んだ

「、、、、もう、おとうさんもいない!
おかあさんだけは、、殺させない!」

「私たちを殺そうとする人間なんて、、みんな死んじゃえばいい!」

ビュウ!

吹雪く魔力、四方からまた氷の矢が
迫る

その時ウルドの胸の魔法陣が輝いた

転移の光る魔法陣が目の前に現れた

また、助けられるのか

安堵と不甲斐なさがよぎる

光と共にあらわれたミュリエルは
魔法防御で氷の矢を防ぎながら
ふわりとウルドの前に降りた

「氷の指輪を継いだお嬢さん」
凛とした声に少女は
声の主を見た

ピンクゴールドの髪色の青い服の女性

目覚めた時のうっすらとした記憶の中で見覚えがある

「もう、あなた達を殺そうとした王様はいないから攻撃を止めてください」

少女は目を見開いた

「いない?」

「はい、魔女狩りを行っていた王は最後の魔女テレージアによって倒されました。それが100年前の事です」

「100年前?うそ!そう言って私たちを捕まえて殺す気なんでしょう!」

「この指輪が教えてくれた、、おばあさまも、みんなみんな殺されてしまった」

「私は、この指輪と自分で見たものしか信じない」

「誰も信じない!」

ミュリエルは目を閉じる

魔力感知を広げ状況を把握する

ウルドの後ろにいるヴェリルはもう魔力が尽きようとしている

森の中以外で湖にテレージアとフリード
拠点に兄とデオ

他には高い魔力は感じない

小さな魔女、この子さえ収めることができれば、、、

話は通じる、けれど説得には至らない

攻撃はやみそうにない
まだ、あの子の持つ指輪には魔力が残っている

「ウルド、ヴェリルをお願い」

ウルドは頷くとヴェリルを抱えて
ミュリエルの肩に触れた

それを見てミュリエルは少女に語りかける

「あなた名前は何というの?
私はミュリエル。騎士だ」

少女はミュリエルを見つめたまま
ゆっくりと口を開く
「、、、、ルビア、」

「ルビア、かわいい名前だね。
私は仲間が死にそうだから一旦戻るけど、
あなたにまた会いに行く」

ミュリエル達の体が転移の光に包まれる

「待っていて」

3人の体がふっと消え、魔法障壁もかき消えた

「ミュリエル、、、騎士、、。」
ルビアのかすれた声が風に消える

優しい声だった

ルビアは静まった森を村に向かって歩く

「100年、、、」

村に戻ったルビアは凍りついた村人をみた
村人達の顔を見た

氷と化した村人たちの顔に知っているものはいない

「自分をきった兵士も、石をなげた子供も」

「となりのおばさんも、家にいたひとたちも」

みんな知らない人だ

「100年、、、まえ?私がきられて、おかあさんが湖に飛び込んだ」

指輪の記憶はそこまでで
あとはただおかあさんの声がした

愛している
いきてほしい
助けてあげる
絶対死なせない
ゆるせない
のろってやる

村の家に入り、眠るおかあさんの部屋に入る

「おかあさん」

眠っている母の手を握り
泣き出したルビアの頭に
冷たい手が触れた

ルビアは顔を上げる

「おかあさん!」

昔は美しい青色だった母の瞳が
ゆっくり開いた

青ではなく赤くゆらめく瞳がルビアを見つめる

「ルビア、起きたのね」

「おかあさんも、、!ずっと目を覚さないから心配したよ」

ルビアの指を見て
サリアは指輪をスルリと抜きとった

青く光り輝く指輪はサリアの指にピタリとはまる

「あなたが生き返って本当に嬉しい」

「おかあさん!」

しばらく抱き合って
ゆっくり離れルビアは母を見上げた

サリアはルビアの頬を撫でながら
言った
「あなたはここにいて、私があなたを守るから」


母の赤い瞳が虚になっていく

「あなたや、お父さんの仇は私が、、」

「おかあさん?」

「大丈夫、心配ない」

優しい母の手がルビアの両目を覆うと
急に睡魔が少女を襲う

意識を失ったルビアは母の寝ていたベッドに倒れ
サリアはルビアに布団をかけて立ち上がる

「指輪の魔力はまだ十分にある」

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