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36.好き、はだめ

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「旦那さま……して……?」

 顔が熱い。恥ずかしいけど腕を伸ばして精いっぱいおねだりしたら、長は頭を掻きむしった。
 なにか間違えてしまっただろうか。

「……優しくできねーだろうがっ!」

 長は僕の股間に顔を埋めた。

「あぁああんっっ……!?」

 胸への刺激で勃ってしまった僕自身を長が咥えてしまう。しかも玉まで一緒に大きな口の中で転がされてしまって、僕はがくがくと震えることしかできなかった。

「あっ、あっ、あっ、あっ……!」

 玉までしゃぶるのはやめてほしい。でもそんなこと言えなくて、ぐちゅぐちゅとしゃぶられて僕はすぐにイッてしまった。

「あっ、あっ、イッちゃ、イッちゃあっ……あぁああーーーっっ……!!」

 涙をまたぼろぼろこぼして僕はイカされてしまった。長は萎えていく僕自身を何度も吸って僕を震わせると、精液を飲んでから顔を上げた。そしてニヤリとする。

「早いな」
「……あっ……だって……」
「だって、なんだ?」

 長が伸び上がってきて、僕の顔を覗き込んだ。恥ずかしいよぉ。

「ちくびっ、いっぱい、いっぱい……」

 うまく言えなくてどうにかそう答えたら、長は困ったような顔をした。またなにかおかしなことを言っただろうか。でも、乳首をいっぱいいじられちゃったから甘くてたいへんになってたし……。

「なぁ……」

 長が顔を反らした。

「なんでこれはこんなにかわいいんだ?」

 かわいい、ってなんだろう? いつも言われるのだけど、僕が知っている”かわいい”とはなんか違う気がする。

「ウイ様は無垢ですので。そのままです」

 リンドルが答えた。

「ったくとんでもねえな……」

 やっぱり僕は間違えてしまったのだろうかとちょっと落ち込んだ。ちゅ……と長に唇に触れるキスをされ、僕はびくっとした。

「くだらねえこと考えんじゃねえよ。お前は俺の嫁だろーが」
「は、はい……」

 嫁って、長の奥さんってことだよね? なんで奥さんになったのに好きって言っちゃいけないのかな?
 今頃になって僕は疑問に思った。
 だから意を決して聞いてみた。

「嫁、だったら……」
「ん?」
「好きって……言ってもいいですか?」

 その途端、長の灰色の肌が一気に赤くなった。僕はそれに目を丸くした。

「なっ、なっ、なっ……なん……だめだっ!」

 長が僕をきつく抱きしめて否定した。とても悲しくなって目に涙が浮かぶ。どうして奥さんなのに好きって言っちゃいけないんだろう?

「ど、うして……好き、って……」
「まだ、だめだ……」
「どう、して……?」
「お前を守るためだ……」

 長がとても苦しそうにわけがわからないことを言った。どうして僕が長のことを好きって言ったら僕が守られなくなるんだろう?

「き、らい、なんですか……?」
「おい?」
「僕はっ、やっぱり……」

 そうだ。鬼に嫁ぐっていったって僕に求められている役割は性欲処理だった。それなのに嫁とか言われていい気になってしまったのかもしれない。
 鬼は怖いって聞いていたし、下手するとすぐに死ぬような目に遭うかもしれないとは聞いていたけど、それでも旦那様には精いっぱいお仕えしようって……。
 涙がぼろぼろこぼれた。

「ごめ、ごめん、なさい……ごめんなさ……」
「謝るなっ!」
「ごめ……」
「もう黙れ!」

 唇を長の口で塞がれて、舌を何度も吸われた。

「んっ、んっ……!」

 甘い、って思った。長との口づけはとても甘くて、僕の身体はすぐにそれを喜んで……。
 そうだ、って思う。僕は天使なんだから、鬼の性欲処理の道具なんだから図々しいことは言っちゃいけない。好きって言うのがだめって言われたんだから言わないようにしないと。
 でも口づけの甘さとは裏腹に胸が苦しくて涙が止まらない。止めなくちゃ、って思うのに全然止まらなくて長を困らせてしまった。
 長は何度も宥めるように僕に口づけてくれて、そして、「すまん」と言って僕を抱いた。涙は止まらなかったけど、抱いてくれて嬉しかった。
 好きって、もう言わない。



ーーーーー
嫁がかわいすぎて「好き」なんて言われたら暴走すること請け合いな長。
ちょっとすれ違い。


5/22 20:42以下追加しました。

その日の夜の長と世話役の会話
「天使さまの”好き”を否定するとかないですよねー」
「……しょーがねーだろ……」
「かわいすぎてひどくしてしまいそうになるから”好き”はだめって話でしょ? どこまで長は口ベタなんですかぁ?」
「うっせー……」
「あのね、長はそれでいいかもしれませんけど天使さま傷ついちゃってますからね? ヘタしたら心閉ざして死んじゃいますからね」
「ああ? んなバカなことあるわけねーだろ!」
「天使さまは愛されないと死んじゃうんですよ? 小屋のしたたかなのと一緒にしちゃいけませんて」
「そんな、バカな……」
「ま、私とリンドルでいっぱい好き好き言っておきますし? 好きって言ってもいいよとは言ってありますからまだ大丈夫だとは思いますが」
「!? なんだとおっ!?」
「だってそうでしょう? 長に”好き”って言えないなら私たちのことを好きって言うしかないじゃないですか」
「そんなことが許せるかあああ!!」
また仕事部屋が破壊されました。
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